第3局 △YSS(開発者・山下宏)-▲豊島将之七段

YSSの開発者・山下宏氏

YSSは世界コンピュータ将棋選手権に第2回(1991年)から出場を続け、優勝3回の実績を誇る「古豪」。新人の台頭でここ数年は優勝争いから遠ざかっていたが、将棋電王トーナメントで3位入賞、将棋電王戦に初出場を決めた。コンピュータ将棋全体の傾向が攻めを重視する中、受けに回る展開が多い点に特徴がある。

――プログラムの変更ができない中で対局を迎えますが、現在の心境は?

山下氏:まな板の上の鯉ですね。直前までいろいろ頭を悩ますのが楽しかったりもするので、そういうことができないのは残念ではあります。

――事前提供への対策については?

山下氏:細かい対策は入っています。「評価関数に1局ごとに変わる乱数を振っている」、「探索の延長パラメータを1手ごとに乱数で変えている」、「明らかに損な定跡は選ばないように」、この3点くらいです。乱数を振ったことによる棋力の低下はありません。

――YSSに得手不得手はありますか?

山下氏:YSSの振り飛車は強くはないです。さばく、というセンスがいまいちだと思います。矢倉や角換わり系の将棋が得意ですね。穴熊はしてもされても下手だと思います。玉との距離感がいまいちわかっていません。

――当日の対局で注目してほしい点をお聞かせください。

山下氏:どういった戦型を選ぶのか、豊島さんが先攻してきたときに受けに回ってジリ貧にならずにがんばれるか、でしょうか。

第4局 ▲ツツカナ(開発者・一丸貴則)-△森下卓九段

ツツカナの開発者・一丸貴則氏

プロ棋士から「きれいな将棋を指す」と評判の高いツツカナ。プログラム名の由来は時計の部品から。第2回将棋電王戦では、敗勢の局面から粘り強く指して逆転を呼んだ。対戦した船江五段とは「電王戦リベンジマッチ」で再戦し、「不安もあったが、もう一局ツツカナと指せる楽しみがあった」(船江五段)という話が出るなど、縁を深めたことで知られる。今回の出場にあたっては定跡まわりのデータを補強し、戦いの幅を広げることで的を絞られにくくしている。

――すでにプログラムの準備を終えて対局を迎えることになりますが、現在の心境は?

一丸氏:常に最新のプログラムと向き合っているので、昨年のプログラムが少し懐かしく感じます。プログラムは遠いところへ送った手紙のようなもので、半年経ってどのような返事が頂けるのか非常に楽しみです。

――定跡まわりの補強は事前提供の対策にどうつながるのですか? デメリットはないのでしょうか?

一丸氏:気休め程度ですが、潰す必要のある変化を増やすことで研究を遅らせる意味があります。また、棋力自体は変わらないためデメリットはほとんどないと考えられます。

――ツツカナに得手不得手はありますか?

一丸氏:データをきちんと取っているわけではないのですが、得手不得手は特にないと感じます。得意な展開はよくわかりませんが、苦手な展開としては細い攻めをつなげなければならない展開が挙げられます。

――当日の対局で注目してほしい点をお聞かせください。

一丸氏:コンピュータならではの着想や粘りを見ていただければと思います。

第5局 △ponanza(将棋電王トーナメント第1位/開発者・山本一成、下山晃)-▲屋敷伸之九段

ponanzaの開発者・山本一成氏

ponanzaは「将棋ウォーズ」でもおなじみのプログラム。名前はコンピュータ将棋界の革命児・Bonanzaにあやかってつけられた。第2回将棋電王戦では佐藤慎一四段と対戦、現役プロ棋士から初勝利をあげている。「賞金を結婚資金に」と宣言して将棋電王トーナメントに臨み見事優勝したほか、今年3月に行われた企画「ponanzaに勝てたら100万円!」では自腹で100万円を用意する(結果はponanzaの166戦全勝)など、実力はもちろん話題性も抜群。開発者の山本氏は東大将棋部OBでアマチュア高段の実力を持つ。今回はBlunder(ブランダー)の開発者である下山氏とタッグを組んでの出場。

――現在の心境は?

山本氏:ほかの対局にも言えますが、当日のマシントラブルが心配です。ポナンザが正常に動作してくれることが一番の望みです。

――事前提供の対策については?

山本氏:評価関数に乱数を付与して、あまり弱くならない範囲で指し手にランダム性を持たせています。戦型も散るようにしました。自己対戦の勝率は45パーセントほどに落ちたのですが、必要経費と割り切っています。

――事前に研究される影響はどの程度出る?

山本氏:正確にはわかりませんが、ソフト側にとってかなりのディスアドバンテージになると思います。特定局面で悪手を指すことを狙われてうまくハマれば、前回の習甦戦のようにまったくコンピュータ側の実力が出せずに終わると思います。

――100万円チャレンジでは横歩取りの後手番で苦戦していましたが。

山本氏:一発が入りやすい戦型なのかなと思っています。後手番全体が苦しいということもあるでしょう。

――ponanzaに得手不得手はありますか?

山本氏:角交換振り飛車のように、実戦例が少ない戦型は苦手だと思います。横歩取りの定跡形になって、力が出ない展開に持ち込まれるのも怖いですね。当日何を指すかは私もまったくわかりません。

――当日の対局で注目してほしい点をお聞かせください。

山本氏:自慢の終盤力を見てほしいですね。

なお、今回の開催に合わせて『第3回将棋電王戦公式ガイドブック ~世紀の対決を楽しもう~』が発売されている。プロ棋士側・コンピュータ側それぞれの出場者の紹介はもちろん、さまざまな特集が組まれた内容の濃い一冊だ。関心がある方はぜひご一読いただきたい。

第3回将棋電王戦のPVを見ると、5人のプロ棋士がそれぞれ黒い板状の物体に触れている。このモノリスがもたらすものは福音か破滅か――。人間とコンピュータの関係の未来を暗示するようなシーンだ。

私はコンピュータ将棋を「人類の敵」ではなく、人間が心血を注いで作った努力の結晶と捉えたい。第2回将棋電王戦ではGPS将棋が新手を出し、プロ間でその形を見直す機運につながった。昨年の名人戦ではponanza発祥の新手が採用され、定跡が更新された。今回の電王戦でもまた、新しい戦いが見られることを期待したいと思う。