鳥取県境港市と島根県松江市を結ぶ江島大橋が大脚光を浴びている。火付け役は豊川悦司氏、綾野剛氏が出演しているダイハツ「タントカスタム」のCM。その急勾配ぶりから“ベタ踏み坂”とも呼ばれ、走行目当てのドライバーが急増中。「鬼太郎の町」境港や大遷宮を終えたばかりの出雲大社を訪れた観光客たちも訪れ、ジェットコースター体感を満喫しているようだ。
「E.T.」ばりの自転車空中遊泳!?
「恐る恐る巨大橋の登り口に近づくと、それはまさしく目の前に立ちはだかる壁であった。あるいは天空へと一直線に細く延びるその様子は、ロケットでも打ち上げるカタパルトのようでもあった。それこそ、勢いをつけて突入したら『E.T.』ばりの自転車空中遊泳が楽しめるに違いない‥‥」
以上は、愛車であるMTBのTarow号、ランドナーのJirow号を駆って、日本中を輪行している自転車乗り、「むらまさ」こと村上雅之さんが語ってくれた「江島大橋渡橋記」である。
ダイハツ「タント」のCMで一躍有名になった“(アクセル)ベタ踏み坂”江島大橋、当初は「あれは絶対CGで作った映像に違いない」と言われていた。その全貌は、全長1,704メートルで最大勾配は6.1%。数字からは大した傾斜のように思えないかもしれないが、実際に目にすると誰しもがその天空へと延びるかのような傾斜にびっくり仰天!!なのである。
徒歩だと三途を渡る橋のよう
村上さんの『渡橋記』は続く。
「この急勾配かつ狭い車道を、自転車で登るのは命がいくつあっても足りないとの判断で、自転車を押して歩道を歩くことにした。(略)陽の光にキラキラと輝く中海の絶景が目に飛び込んできた。『うわぁ、何て美しい景色なんだ!』と感動したのもつかの間、高度はみるみるうちに上がっていき、じんわりと嫌な汗が額を流れ始めた。
しかも、恐怖を助長する手すりの低さとスケスケ感。高所恐怖症の人間にとってのそれは、さしずめ三途を渡る橋のようなものである……」。
つまり、クルマでの走行でなく徒歩で、あるいは自転車でこの橋を渡るのは、ジェットコースター同様な怖さと楽しさが入り混じった体験らしい。そういえば、NHK-BS「にっぽん縦断こころ旅」で江島大橋を渡った火野正平さんも、「いままでで一番怖かった」とマジ顔で回想していた。
東洋一のPCラーメン橋!?
江島大橋は決して最近できた新しい橋ではない。開通したのは2004年10月のことだから、今年で開通10年になる。橋は「東洋一のPCラーメン橋」として多少の話題にはなったが、ほとんど全国に知られることはなかった。ちなみにPCラーメン橋とは、主桁と橋脚・橋台を剛結構造とする橋のことで、ラーメンとはドイツ語の「骨組み」に由来する。決して、みんなが大好きなあのグルメではない。
写真中心のプライベートな観光情報サイト「松江城と周辺観光地案内」を運営している松江市在住の坂井義雄さんは、次のように語る。
「ダイハツで注目される以前に現地に撮影に行ったのですが、誰もおらずひとり寂しく写真を撮ったものです。ところが、CMが放映された後に行ったら、一番近い信号からカメラを構える人の多いこと……。一大観光地のごときでした」。
全国放送のCMの威力はさすがにすごいものがあるが、実は坂井さん自身も江島大橋の人気沸騰の功労者と言えなくもない。というのも、坂井さんが撮影して「松江城と周辺観光地案内」にアップした江島大橋の写真がネット上で拡散し、CM以前においても「あれはCGだ、いや実写だ」と話題になっていたそうなのである。
その坂井さんに、クルマでの江島大橋渡橋実感を聞いてみた。
「この前も油断していて急ブレーキを踏んだら……怖かったです。登るのよりも降りる方が怖い。雪でも降れば心臓が……」。
地元でも“ベタ踏み坂”で紹介予定
ダイハツCMの「ベタ踏みだろう……」という豊川悦司氏のセリフから、江島大橋は“ベタ踏み坂”の異名で呼ばれるようになったわけだが、地元の境港市では、新鮮な海の幸や水木しげるロード、水木しげる記念館などあまたある観光資源に、この“ベタ踏み坂”も加えようとしている。
「橋による観光客の増加がどの程度か、はっきり分かりませんが、ひとつの観光名所としてPRしていきます。今度更新します『境港市観光ガイドマップ』にも、“ベタ踏み坂”として紹介の予定です」(境港市観光協会事務局・福留康次さん)。
水木しげる記念館のホームページを開くと、江島大橋を背に、鬼太郎と猫娘が佇んでいる写真が目に飛び込んでくる。
「合成写真ではありませんよ、実際に鬼太郎とねこ娘が行って撮影しました。出雲大社の遷宮効果もありまして記念館の入館者数は増えておりますが、出雲大社から記念館にいらっしゃるには江島大橋を利用される方が多いわけで、そういった意味では橋には大変お世話になっています」(水木しげる記念館事務局長・荒岡真樹さん)。
鬼太郎もねこ娘も、“ベタ踏み坂”江島大橋の急勾配ぶりに、きっと目を丸くしたに違いない。
●information
境港市観光協会