セゾン投信代表取締役社長の中野晴啓氏がビジネスの最前線で活躍する人たちを招いて対談する「中野晴啓世界一周の旅」。ワールドインベスターズTVで動画を閲覧することができる。今回はグローバル・インベストメント・アジア副社長でエマージング・マーケッツ・ストラテジストの蓮沼嗣也氏と対談した「ブラジル経済編」の第1回を紹介したい。

セゾン投信代表取締役社長の中野晴啓氏(左)とグローバル・インベストメント・アジア副社長でエマージング・マーケッツ・ストラテジストの蓮沼嗣也氏(右)

「株安」「通貨安」はなぜ起きている?

中野 : 皆さんこんにちは。中野晴啓の世界一周の旅。今日はまた素敵なゲストをお呼びしております。グローバル・インベストメント・アジア副社長でエマージング・マーケッツ・ストラテジストでいらっしゃる蓮沼嗣也さんです。

蓮沼 : こんにちは。

中野 : グローバル・インベストメント・アジアというのはいわゆる投資会社ですか。

蓮沼 : そうですね。新興国専門に、自分たちのお金をみずから投資する会社です。

中野 : 蓮沼さんは、日本でも本当に数少ない有数のエマージング市場の投資家、トレーダーという形で20年来仕事をしていまして、今は自分でストラテジストとして活躍している有名な方です。私の古い友人でもあります。今日は、蓮沼さんから主にブラジルの話をお聞きしたいと思います。

セゾン投信でも、ブラジルは一つの大事な投資先でございまして、皆さんご存じのとおりブラジル経済は踊り場に入ったと。つまり、21世紀に入ってから光り輝く成長を遂げていて、今は第2ステージに入るに当たっての恐らく試練に指しかかっているのだと思いますが、このあたりをご専門の蓮沼さんからお聞きしたいと思います。

今のブラジルのマーケットの情勢はBovespaという株式市場がじわりじわりと下がり続け、そして同時に日本人の投資家が大好きだったレアルも最安値をつけていますが、何でこういうことが起きているのですか。

蓮沼 : 一つには中国の情勢、中国の経済に陰りが出てきた。かつブラジルは中国向けの依存度が高かった。これは鉄鉱石でも石油でも、銘柄で言えばペトロブラスとか、これはアメリカでも上場していますけれども、こういった会社の業績に陰りが出てきている。その理由は中国経済の影響が大きく受けていると思います。

中野 : 一般的には、ブラジルと中国は離れているし、「そんなに経済的な結びつきがあるの?」と思う人が多いと思うのですが。

蓮沼 : 今言った銘柄というのは、世界的なグローバル企業、一つは鉄鉱石、一つは石油。どうしても中国の場合は資源確保に中南米にも資源確保にきていますので、良質でかつ低廉な鉱物資源なり鉄鉱石をどうしても調達せざるを得ない。

中野 : それは中国が最大の買い手ということですか。

蓮沼 : おっしゃるとおりです。

中野 : 中国の経済が失速してきて、それに連鎖してしまうという、その影響が一番大きいのですか。

蓮沼 : そうですね。

ブラジルで暴動が起こったのはなぜ?

中野 : そうすると、今グローバルなお金でいくと、ブラジルに限らず、新興国の投資マネーは引き上げられていますが、ブラジルへの影響度はどういうふうに見たらいいですか。

蓮沼 : 実際に、ブラジルというのは今言った資源が一つですが、農業も大きいです。そういった意味で、グローバルな新興国へ資金が今まで流入していたものがQE3の引き締めに伴い、新興国からアメリカに戻りつつあると、その流れの中でレアル安、このBovespa指数も年初から3割下がっていると。

中野 : 下がりましたね。毎日下がっているのでびっくりしましたけど。特に、日本人の投資家は老若男女問わずブラジルが大好きで、今でも投資商品を抱えている人は多いと思います。ブラジルの実体経済は資源の問題で悪いようですが、内需を含めてどんな感じですか。

蓮沼 : 昨年6月に暴動が発生しました。これは公共機関、バス、そういったものの料金が上がっていくことによって起こり、一方でコンフェデレーションズカップというのがあったのですが、サッカーであれだけ盛り上がりながら、スタジオの周りではあれだけの住民が怒って運動を起す、やはりどうしても貧富の格差、なかなか表面上には出せないですけれども、ブラジルの抱える表と裏がああいうことをもたらしている。

中野 : ということは、生活が苦しいということですね。そうするとインフレが厳しいのですか。

蓮沼 : おっしゅるとおりです。

中野 : どのぐらいの割合ですか。

蓮沼 : インフレはこの国が何十年と背負っている大きな問題で、1980年代後半から90年代前半にかけまして、まさしくハイパーインフレ、何と1993年は2500%。その後も、1100%というインフレにさいなまれてきましたので、今回のこの事態に対して、ブラジル中央銀行のトンビニ総裁はどういうことを考えているかというと、物価を安定させなければいけない、インフレを抑えたい。

蓮沼氏は、ブラジル経済について、「インフレはこの国が何十年と背負っている大きな問題」と話した

そうすると一昨年の秋口、市場最低金利は7.25%。今年も5月、6月、7月と3カ月上げて、8.5%、8月時点で。政府も待ったなしで、インフレを抑えるためには金利を引き上げざるを得ない。

ブラジルは短期的に見れば、新聞に出ているように危ない、危ないと皆さんおっしゃるかもしれない。でも、潜在的な国の力というのはものすごく秘めている。人口は1億9000万人ですが、そのうちの1億人以上の生産年齢人口がものすごく若くて、しかも人口は毎年2%ずつ増えてきている。それと一番大事なのは、ここは中国と似ているのですが、労働コストが安いこと。農業というのはブラジルの大事なところですが、これを支えているのはそういう低賃金の労働力です。

中野 : これからの成長の強みになりますね。

蓮沼 : そうですね。

中野 : だんだんエンジンがかかってきましたけれども、実体経済は頭打ちで厳しい、そしてインフレにさいなまれている、金利は上げなければいけない、株式市場も下がる、レアルももう少し調整。こんな状態ですから、ブラジルに投資した金融商品を持たれている方は、いつ回復するのかと思っていると思いますけれども、すぐにはよくならない。そのつもりで長い目でお付き合いしなければいけないと思います。

これから先もブラジルの深い話を聞いてまいりたいと思います。また次回よろしくお願いします。

蓮沼 : お願いします。