セゾン投信代表取締役社長の中野晴啓氏がビジネスの最前線で活躍する人たちを招いて対談する「中野晴啓世界一周の旅」。ワールドインベスターズTVで動画を閲覧することができる。今回はビジネス・ブレークスルー大学の田代秀敏教授と対談した「中国経済編」の第3回。「銀聯カード」や「Alipay(アリペイ)」に代表される中国の消費市場の大きさと、日本企業がそれにどう関わっていけばいいのかについての話となった。

「中国経済編」第3回は、「銀聯カード」や「Alipay(アリペイ)」に代表される中国の消費市場の大きさと、日本企業がそれにどう関わっていけばいいのかについての話となった

全日空は中国で現地化を推進、「Alipay(アリペイ)」でチケット購入も

中野 : 皆さん、こんにちは。中野晴啓世界一周の旅。今日は中国シリーズ3回目です。今日の3回目、どういう話しをしてもらおうかと思ったのですが、中国ということを考えると、ビジネス上、経済活動上はやはり中国の、そこにいる13億の人たちが生活の中でどういうふうにお金を動かしているのか。ビジネス・ブレークスルー大学の田代秀敏教授にお伺いしたいと思います。前回、お話いただいた『週刊現代』の記事で全日空の株式を急速に買い増ししているという話がありましたが、全日空の話からお願いします。

ビジネス・ブレークスルー大学の田代秀敏教授

田代 : 全日空は中国において非常に人気のあるエアラインです。中国の人たちも中国の航空会社よりも全日空に乗りたがる。サービスもいいというのがあるんですね。面白いのは、全日空も現地化を進めてきたんです。中国人スタッフ、キャビンアテンドさんを数多く雇用して、それを日本人と同じように訓練して、世界水準のサービスを提供するようにしてきた。さらに、全日空は2012年12月18日に「Alipay(アリペイ)」でチケットを買えるようにした。中国国内のウェブサイトを通じてですが。

中野 : 「Alipay」って何ですか。

田代 : Alipayは中国のオンライン決済のシステムです。中国の第三者オンライ決済市場は爆発的に成長していまして、2011年末の段階で2兆2038億元、そのときの為替レートで評価すると26兆8195億円になっている。これが今の予測だと2015年には9兆元を超えて、今の為替レートで計算しても130兆円を超えます。

「Alipay」は中国のオンライン決済のシステム

中野 : あと2年で3倍、4倍になってしまうということですね。すごい成長ですね。

田代 : 毎年130兆円のお金が中国ではオンライン決済されていく。これぞチャイナマネーの実態です。

中野 : Alipayはオンラインマーケットの。

田代 : 半分を占めています。Alibaba(アリババ)からスピンオフした会社です。全日空はグローバルエアラインの中で初めてAlipayでチケットが買えるようになったのです。

中野 : その意味するところは非常に深そうですね。

田代 : 中国の人々は自分のAlipayの口座を通じてオンライン上で全日空のチケットを買える。北京から成田、あるいは関空に行って、そこから世界中に行くチケットが中国国内でオンライン決済だけで買えるのです。しかもそこで動いている金は、2015年には130兆円の半分ですから70兆円近い金がその背後にはあるわけです。

中野 : そうすると全日空の飛行機には中国の旅行者がたくさん乗って来るじゃないですか。

銀聯カードは全体で31億枚発行、日本を完全に凌駕

田代 : しかも中国の人たちは海外に行った先で、ユニオンペイ、つまり「銀聯カード」で買い物ができます。これはデビットカードです。中国国内の預金口座から瞬時に引き落しで払われるデビットカードです。

「銀聯カード」

中野 : 銀聯ってすごくよく聞く名前ですが、実際グローバルに言うとどのぐらいのスケールがありますか。

田代 : 銀聯カードは全体で31億枚発行されています。VISAカードは全世界で、2008年時点で約15億枚。

中野 : 待ってください。VISAカードは世界随一のカード会社ですが、その倍以上あるわけですね。

田代 : 日本国内のクレジットカードの発行枚数は3億2000万枚なので、日本を完全に凌駕しています。しかも1人の銀聯カードの年間利用額は1686ドル。JCBカードの年間利用額は1人平均で1359ドル。

中野 : 日本の購買力よりも中国の購買力の方が平均でもう上回っている。

日本の購買力よりも中国の購買力の方が平均でもう上回っていることに驚くセゾン投信の中野社長

田代 : 平均で上回っている上にボリュームが違う。

中野 : これはどう考えたらいいですか。

田代 : 中国の人はAlipayをはじめとするオンライン決済と銀聯カードがあることによって、人民元はまだ国際通貨になっていませんが、事実上なっている。彼らは世界どこに行くときもわざわざドルやユーロや円に両替する必要がない。しかも銀聯カードがあれば、日本のコンビニエンストアで10万円までは日本円をキャッシングできる。しかもホテルの支払いも、デパート、レストランも全部銀聯カードでできる。

中野 : 人民元は国際化しているのですね。

田代 : しかも銀聯カードはデビットカードで預金から支払われるので上限がない。預金がある限りいくらでも使える。

中野 : 与信じゃないんですものね。

イオンは反日デモで店舗1つ焼かれたが、撤退できない

田代 : ですから、中国社会の中で一番信用があります。中国のマーケットは漠然と大きいわけではない。これだけの実体を伴っていて巨大なわけです。ですから、例えばイオンは反日デモで店舗1つ焼かれましたけれども。

(撮影 : 田代秀敏氏)

中野 : イオンは撤退しないのですか。

田代 : 撤退できるはずがない。イオンも店舗を焼かれましたが、すぐ直後に、2013年に新たに3店舗つくって2014年には稼働すると発表しました。ファーストリテイリングもユニクロの上海での巨大な店舗を、反日デモが行われた9月30日に開店しました。開けた途端に長蛇の列です。グローバルビジネスで勝ち抜いていくためには、中国市場から撤退することはあり得ない。中国市場から撤退するということはグローバルビジネスから撤退するということを意味するわけです。

(撮影 : 田代秀敏氏)

中野 : ということは、今日本でずっと報道されている、中国のビジネスは縮小すべきだという、ああいう論調はグローバルに考えたらナンセンスですね。

田代 : それは中国のことを知らないし、グローバルビジネスにおける中国のシェアもわかっていない人が、評論家として言っているだけです。恐らく、日本企業がそういう行動をとったときには日本株は総崩れになってしまう。

「グローバルビジネスで中国撤退はあり得ない」と語る田代氏

中野 : 日本企業はもちろんですが、中国という消費の市場を内需みたいにとらえて、日本企業の次の成長のドライブに考えていくことは絶対不可欠なんですね。これは日本の企業だけではなくて、当然アメリカ、ヨーロッパの企業、みんな一緒ですよね。

田代 : ロレアルは資生堂の100倍のお金を使って中国で広告をしています。資生堂は日本式の対面販売というゲリラ戦で対抗する。

中野 : 資生堂は成功していますね。

田代 : 大成功していますね。日本よりはるかに強いブランドを持っています。中国でどれだけ稼ぐか、これが日本企業の株価にとっても一番大きいことです。

中野 : この動画を見ている皆さん、田代さんの話は、新聞で書いてある話とは全然違ったと思います。実際、尖閣の問題とかいろいろありますが、中国経済は我々と否応なしに結びついている。

中野社長は、「中国の13億の消費の力が今の世界経済の支えになっているという、そういう観点で中国を見て、中国を嫌いだとは言ってはいけませんね」と語った

田代 : 表裏一体ですね。

中野 : 中国の13億の消費の力が今の世界経済の支えになっているということですね。そういう観点で中国を見て、中国を嫌いだとは言ってはいけませんね。中国と日本とそして世界が一体となって成長して、いい世の中ができていっていると、こういうふうに考えて中国経済を見ていきたいと思います。田代先生、今日は斬新な話、たくさんありがとうございました。またよろしくお願いします。