どんなに正しい意味でも、ビジネスシーンで使うと恥ずかしい表現はありますよね。とくに英語の場合、知らないうちに恥をかいている可能性も……。そうならないためにも、『ファーストクラスの英会話 電話・メール・接待・交渉編』の著者であり、ビジネスシーンに対応した英語を教えている荒井弥栄さんに教えていただきました。

日本語を直訳しないこと

――ビジネスシーンにおいて、恥ずかしい英語を使ってしまう原因を教えてください。

荒井さん「多くの場合、日本語を直訳してしまうようですね。とくにことわざや慣用句のような日本特有の表現をそのまま英語にしても、ネイティブには意味が伝わりません。その言葉にはどのような意味があるのか、どのようなシーンで使うのかを理解する必要があります。

そういう意味では、国語力がないとビジネスで使える英語をマスターするのは難しいかもしれませんね」

――英語を学ぶと同時に、日本語力についても見直す必要がありそうですね。

荒井さん「そうですね。日本語を話せるからといって、文法や正しい言葉の意味まで理解している人は意外と少ないもの。英語に訳すときには、簡単なフレーズでも辞書で調べるなど、本来の使い方を見直した方がいいでしょう」

よく使うフレーズがふさわしくないことも

「日常会話ではよく使うフレーズでも、ビジネスシーンで使うと笑われてしまうことがあります」と荒井さん。そこで、恥をかいてしまいやすい表現について教えていただきました。

1.何をやってもうまくいかず、疲れきって「心が折れた」と言いたいとき
× My heart was broken. 私の心は傷ついた(失恋で傷ついているイメージ)
○ I am really worn out. 本当にすごく疲れてしまった

解説:「心が折れる」を直訳してしまい、「broken」を用いる人は多いです。しかし、これは失恋したときに使う表現なので、ビジネスではふさわしくないどころか、正しい意味が通じないでしょう。「疲れきった・疲労困憊した」というときには、「worn out」を使うといいですね。

2.「ちょっと手伝ってもらえますか?」といいたいとき
× Help me! 緊急事態! 助けて!
○ Could you give me a hand? ちょっと手伝ってもらえますか?

解説:「Please help me.」は恥ずかしい英語の代表格ですが、残念ながらよく耳にするフレーズですね。大げさすぎるだけではなく、「もうお手上げ」というニュアンスでとられてしまいます。ビジネスシーンで使うと、自分の能力のなさを露呈することにもなるので気をつけましょう。

3.「折り返し電話させます」といいたいとき
× I'll make her call you back. 彼女に強制的に折り返し電話させます
○ I'll have her call you back. 彼女に折り返し電話させます

解説:「make」は強制的なニュアンスを伴う使役動詞。このような場面で使うのはふさわしくありませんね。

4.電話を切るときに「お電話ありがとうございました。失礼いたします」といいたいとき
× Okay,bye. じゃあね
○ Thank you for calling, good bye. お電話ありがとうございました。失礼いたします

解説:「Okay,bye.」はあまりにもカジュアルな表現。ビジネスにはふさわしくありません。

5.「どちらでもいいですよ」といいたいとき
× I don't care. どうだっていいよ
○ I don't mind. どちらでもいいですよ

解説:「mind」は「気にする」という意味なので、「どちらでも気にしない」という意志表示ができます。一方、「care」の場合は「Who cares?(どうでもいいじゃない?)」のように、「どうでもいい」という投げやりなイメージがあるので気をつけましょう。

文法も理解しなくてはいけない

――ビジネスシーンで恥をかかないためには、会話表現だけでなく、文法も理解したほうがよさそうですね。

荒井さん「その通りです。たとえば、『~させる』という使役動詞でも、単語のチョイスによってニュアンスが変わってしまいますからね。

『make』は相手に強制する意味を伴う言葉ですが、『have』には強制の意味は全くありません。また、『let』の場合は『許可する』という意味があります。

日本語では、どれも『~させる』と訳されることが多いのですが、目上の人に対して『make』や『let』は不適切であることがあるのです。シチュエーションに合わせた単語選びや表現を学習することも、恥ずかしい思いをしないためには重要なこと。そのためにも、会話表現だけでなく、実践で使う文法もしっかり学んでほしいですね」

荒井弥栄
Office Grace代表
JALで国際線のCAとして10年以上勤務後、英語指導者に転身。エグゼクティブに特化した半年間完成プログラムで、英語だけでなく国際人として世界に通用するマナーや交渉事についてまでレッスンする。また、企業の英語研修・英語での接客を要する企業での接客英語指導・サービスマインド指導も行う。ウィットに富んだ講演やセミナーも好評。著書には2013年9月1日発売の『ファーストクラスの英会話 電話・メール・接待・交渉編』(祥伝社黄 金文庫)他3冊ある。
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