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――自分がほしいパーツを選べるようにしたわけですが、これをなくすと「シャア専用とはいえない」というポイントもあると思います。どの部分にこだわりましたか?

やはりツノですね。これがないとシャア専用とは言えない。技術的にも一番苦労しました。コンセプトカーのツノは、曲げたり倒したりができないので、法規的に通らないんです。そのため"可倒式"といって、何かにぶつかったら倒れるようにして、実現しました。開発陣はかなり苦労しましたね。ちなみにこのパーツ、ZT(ジオニックトヨタ)指揮官用ブレードアンテナという名前が付いています(笑)。

――しかもシャアの声を聞くことができるとか……。

カーナビにオリジナル音声を入れてあります。約500通りの文言をシャアの声で聞けるんですよ。本編のセリフを365日分用意していて、エンジンをかけると毎日違うセリフを楽しめます。「私もよくよく運のない男だな」とか(笑)。

ナビを開始するときに「わたしを導いてくれ、もちろん交通ルールに従ってな」と言ったりとか、県境を越える時には、「岩手に入った」なんて言ったりしますよ(笑)。

ルート案内自体は普通のカーナビと同じで、女性の声です。だって、シャア専用なのにシャアが案内してたらおかしいでしょう? そこは世界観にこだわっています。シャアが一緒に運転していて、時々口を挟んでくるというコンセプトです。WEBにバックストーリーを載せてありますが、シャアはマニュアル車に乗ったことがないというところから始まっていますし。あ、ちなみにオーリスはオートマ車もあります。

――世界観へのこだわりとおっしゃると、プロモーションでもかなりの作りこみをされていると思います。WEBでサイドストーリーを配信したり、「ジオニックトヨタ」という架空の会社を作ったりと

バーチャルだけど会社にすることにこだわりました。サイトを見るユーザーも、ファンではなく「社員」という呼び方で登録してもらって、その声を車作りに活かしています。数人ずつ来てもらって会議もやったこともありますね。いろんな声を聞くと、自分たちのやっていることはこう思われているんだなって、非常に参考になります。

8月26日に都内で行われた「シャア専用オーリス」市販モデル記者発表会に登場した、シャア・アズナブルの声優・池田秀一氏 (C)創通・サンライズ

――ちなみに現在の社員数は?

26,000人以上の方に入社いただきました。トヨタ自動車の3分の1の規模まできましたよ(笑)

――8月26日に発表しましたが、反応はいかがですか?

ジオニックトヨタ26,000人の社員のうち約2割が車を持っていない方なんです。特に20代は車を購入していない方が多く、その半分くらいの方が「シャア専用オーリス」を買ってもいいと思ってくれています。

そもそも車を持っていない人たちが、自動車会社であるトヨタのキャンペーンにこれだけ登録してくれる、ということ自体本当にありがたいことです。おそらくこのような試みは過去にはなかった。なので、その人たちにとってエントリーとなりえる車にしたい。あるいは、パーツを少しずつ購入できることで、いっぺんに買うよりもご家族の説得がしやすいとか、パーソナルカスタマイズという、お客さまが好きなパーツを選べるようにしたことで、そのようなメリットを感じてもらえたらうれしいです。

――ほかに注目のポイントはありますか?

パンフレットの表紙をキービジュアルとして描き下ろしてもらったり、サンライズさんと今回のためにアニメーションPVを作ったり。やりたいことを全部こめました(笑)。アニメを作るのは、すごくやりたかったことなんです。30、40秒の短いものなんですが、シャアと車が主人公の、むちゃくちゃカッコイイものなので、ぜひ見てほしいですね。

シャア専用オーリス アニメーションPV篇より (C)創通・サンライズ

シャア専用オーリス アニメーションPV篇より (C)創通・サンライズ

――シャア専用オーリスの他に、ガンダムとコラボした車は出るのでしょうか? WEBには「ランバ・ラル専用」オーリスのイメージ画がありますが、実現の可能性はありますか? 「黒い三連星」を出せば、3台まとめて買ってもらえたり?

今のところ、予定はないです。ですが、簡単に次は出してはいけないとも思っています。二番煎じは失敗するんじゃないかって。「シャア専用が盛り上がったからって、トヨタは調子に乗ってるんじゃないか?」って言われるのは怖いですよね(笑)。

――最後に、期待を寄せるファンにひと言お願いします。

ひと言ですが、ふたつあります(笑)。ひとつは、初めて車を楽しんでいただく人、車でこれからの人生を楽しむ人に向けて、新しい取り組みを提供したパーソナルカスタマイズという車の買い方を、ぜひ楽しんでほしいです。

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もうひとつは、自分で言うのも何ですが、けっこう良い意味でバカバカしいことをやっていると思っています。マーケティングの裏づけはあるものの「トヨタがここまでバカみたいなことを本気でやった」というのを、ぜひ面白がって欲しいんです。けっこう堅い会社だと思われていますが、こんなことまでやるようになったんだって。

お話をうかがっていて、その堂々とした話しぶりや、確信に満ちた言葉に圧倒される場面がしばしばあった。お会いするまでは、すごいガンダムファンなんだろうなと想像していて、ガンダムトークで盛り上がると思っていたのだが、まるで違ったエピソードを聞くことができた。

「ガンダムという作品が好きだ!」「シャア専用を作りたい!」、そういった想いがどれほど強くとも、実際に形にするのは容易ではない。さまざまな困難をひとつずつ克服し、「シャア専用オーリス」を世に送り出すことができた柳澤氏の熱意と行動力に、大いに感銘を受けた。

「好き」という気持ちだけでは動かせない組織の壁を動かして、結果として自分のやりたかったことを形にする、この仕事の進め方は若いビジネスマンにも大いに参考になるのではないだろうか。

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