『機動戦士ガンダム』のプラモデル、いわゆる「ガンプラ」が世に登場するのは、アニメの放送が終了した1980年のこと。あの頃の熱気は本当に凄まじいものがあり社会現象とまで呼ばれることになるのだが、「ガンプラ」が入荷すると、あっという間に売り切れてしまう。ガンダムやシャア専用ザクなどは見たこともない。モビルスーツが買えればまだいい方で、筆者がおもちゃ屋に走って行くと、残っているのはジオン軍の戦艦のムサイだけ……なんて光景は、日常茶飯事だった。

同じ時期、子供向けの漫画雑誌『コミックボンボン』では、いつも『ガンダム』の情報をむさぼり読んでいた。ある時『ガンダム』のアニメのシーンをリアルに再現したジオラマ写真が掲載されているの発見し、驚愕した。「なんてカッコイイんだ!」「いつかガンプラでこんなジオラマを作ってやるぞ!」と。

川口克己 1961年12月10日生まれ 福岡県出身。大学生時代にモデラー集団「ストリームベース」に所属、『機動戦士ガンダム』に登場するモビルスーツをフルスクラッチで制作。模型雑誌『ホビージャパン』への掲載を経て「ガンプラ」に携わり、1985年に株式会社バンダイ入社。現在は、株式会社バンダイのホビー事業部マーケティングチーム所属し、ガンプラのプロモーションに携わりつつ模型文化の伝承に力を注いでいる。

それが実現できたのかはさておき、そのジオラマを制作していたのが、本日インタビューさせていただいたバンダイの川口克己氏――通称「川口名人」である。見事な造型と表現力から「名人」として知られる川口氏は「ガンプラ」発売前から、フルスクラッチという手法でモビルスーツの模型を制作。後にバンダイに入社し、現在もガンプラを進化させ、その最先端を模索し続けている。

川口氏は、その知名度からインタビューに登場することも非常に多いが、普段は「ガンプラ」の話題が中心。そこで今回は8月28日に発売される『機動戦士ガンダム Blu-ray メモリアルボックス』を記念して、「ガンプラ」はもちろん、なかなか語られることも少ない、『ガンダム』そのものへの想いや、社会現象となったアニメ放映当時の様子も振り返ってもらった。川口氏自身「普段はもちろんガンプラ話主体なんです。だから、アニメのことをこんなに話したの初めてじゃないかな」と語った、インタビューをご覧いただきたい。

(C)創通・サンライズ

――初めて『ガンダム』に触れた時の印象はどのようなものだったのでしょう?

最初の放送の時、僕は高校3年生だったんですけど、アニメ好きの友達から「今度始まる『ガンダム』って、すげぇ面白そうだぜ」って声をかけられたのがきっかけでしたね。

第1話は量産型ザクIIがスペースコロニーに侵入するところから始まりますね。今でもはっきり覚えていますが、当時は『スター・ウォーズ』もあり、「『ストームトルーパー』みたいなのが何かやるストーリーなのかな?」と思っていました。そうしたら、ザクが斜面を滑り降りてくる。木に対してやけにデカイ、そして胸のハッチからパイロットが出てくる。大きさに気づいて、まずビックリしました。そういう描写の敵メカ、銃を持った歩兵みたいなものがでっかいロボットとして攻めてくる、という。

そして、ザクマシンガンの薬莢を避けながらアムロがエレカに走っていく。今ならお台場に18メートルのガンダム立像があり、それが戦う姿はある意味現実離れしていますが(笑)。画面の中で戦う姿が現実的な「リアル」という感覚で受け入れられるのは、今とはまた違ったものだと思います。スケールモデルで船や戦車を作っていた感覚と近いというか。アニメの中で"戦争"が描かれている、巨大なモビルスーツが"兵器"として戦うという描写がリアルで「今までのアニメとは全然違うぞ」というのはありましたね。

――『ガンダム』は初回放送よりも、その後の再放送や劇場版、ガンプラの社会現象化から爆発的なヒットに繋がりますが、初回放送の盛り上がりはどうでした?

当時は中高校生でアニメを見る人は今ほど多くなかった時代ですから、初回放送はやはりそれほどでもなかった、という印象です。ただ、世代としては小学校高学年~中学生で『宇宙戦艦ヤマト』に触れていて、アニメでは人間ドラマを中心にノレるものを経験している。『ガンダム』直前には『ダイターン3』なども見ていたし、僕の周囲はロボットアニメを楽しんでる人は結構いました。

僕としては子供の頃に戦記ものが好きで、そこからプラモデルも作るようになったというのが模型趣味の始まりです。太平洋戦争で撃墜王と呼ばれたゼロ戦パイロットの坂井三郎さんの『大空のサムライ』や1970年代の『史上最大の作戦』『空軍大戦略』といった、今も名作と言われる映画、第2次大戦ものは模型にダイレクトに繋がります。物語や世界を理解して模型を作りたくなっていくんですね。

(C)創通・サンライズ

――背景の物語が重要であると。

そうです。実は、僕はデザインの嗜好だけで模型を作りたい気分は盛り上がらないんです。物語や世界観を理解した上で模型を作りたくなる。スケールモデルというのは、実物を忠実にスケールダウンして再現した模型のことですが、戦車や船の模型を作りつつ、『ガンダム』みたいないわゆるキャラクターものにいくということは、物語が面白く、かつ感情移入できるという前提があったからでしょう。だからこそ「作りたい!」と思った。人間ドラマも含めたリアリティに心を動かされ、模型まで作りたいって思ったアニメは『宇宙戦艦ヤマト』と『ガンダム』ぐらいだったと思います。模型を趣味にする人はきっかけをあまり意識しませんが、僕の場合はそういうものがきっかけになっているはずです。……続きを読む