見た目は大変シンプルな「ころうどん」(角千本店)

冷やしうどんともぶっかけうどんとも、ちょっと違う「ころうどん」。岐阜発祥でありながら、今や名古屋独自の麺として発展してきた印象が強いうどんだ。それにしては、意外にもどんなものか知られていない感が拭えない。そこで今回、名古屋のナゾのうどん「ころうどん」を調査してみた。

コシともっちりが両立するワケは……

まずは実際ころうどんを食べてみよう。注文して出てきた「ころうどん」は丼にきれいに収まったうどん玉に、つゆがかかった「冷たいうどん」。見た目はシンプル、食べてみるとこれまたシンプル。

麺はコシがすごく、角が立っている感じがする。これが濃厚なつゆとよく合うのだ。でも、「ぶっかけ」とは何かが違う。ズルズルと食べ続けてハっと気づいた。そうだ!  麺もつゆも、「冷たい」って言うほど冷たくないのである。ぶっかけだとキーンとした冷たさがあるものだが、ころうどんにはそれが全くない。冷えすぎてないため、麺のコシとモチモチ感が両立しているのだ。

冷たくないというところがポイントだ

「“ころ”ってのは、戦後の市場のうどん屋から始まったもんだとおれは思っとるのよ」そう教えてくれたのはうどん店「角千」の加古守さん。骨の髄まで「名古屋のうどん屋のおやじ」という雰囲気の加古さん。せっかくなので、ころうどんが歩んできた歴史を聞いてみることにした。

戦後の闇市で手軽に食べられる料理

角千本店の加古守さんが取材に応じてくれた

ルーツは遠く戦争直後にさかのぼるそうだ。戦後、焼け跡にできた闇市が少しずつ整理され、名古屋の各地に市場ができた。「その市場の中にはうどん屋ってのが必ず入ってたんだ。うどん玉を小売りしてたんだけどな」。市場のうどん屋の片隅には必ず小さなカウンターがあり、そこで飲食もできるようになっていたそうだ。

「うどんの玉につゆを足しても安いもんだろ。作りたてのうどん玉につゆをぶっかけて市場で買った天ぷらとかを乗っけて食べてた。それが“ころ”の始まりじゃないかと、おれは思っとる」。つまり、今でいう「セルフうどん」のはしりのようなものか?  それが昔の名古屋の市場には必ずあったそうだ。なるほど、出来上がったうどん玉をそのまま(冷やすこともなく)食べているから、冷たさもそれなりだったのか。

そして名古屋特有のうどんつゆ。ムロアジや地元特産の濃厚なたまりじょう油で仕上げた甘辛いつゆは、少なめの量でうどんの味わいを十二分に引き立てるのだ。

形がコロッとしているから“ころ”!?

それにしても、「ころ」って名前の由来は何なんだろうか。「名古屋のうどん玉は『島田盛り』っていって玉をきれいに盛り付けるのが伝統なのよ。そのうどん玉をそのまま丼に盛るから、形がきれいだろ? コロっとしてるだろ? だから、ころって名前になったんじゃないかい。オレはそう思っとるよ!」

他にも、岐阜で生まれたとか、露が香ると書いて、香露(ころ)になったとか、いろいろ説もある。しかし加古さんは、「名古屋人はそんな上品じゃにゃあでね!」と、身も蓋もないことをおっしゃるのだ。

小さくて丸いものをコロと言う。そこから「ころうどん」の名が生まれた!?

加古さんによると、「“ころ”を頼むお客さんは、うどんのツウ」とのこと。何しろ、「うどんを冷やさないから食感がゴワゴワしない。“ころ”を注文する人はうどんそのものの味を楽しむ人なんだわ」とのこと。

だからこそ、「うどん玉はできたてじゃないといかん。ストックがない時は断ることもある。ゆでるので15分かかるからよぉ」と加古さん。逆にうどん玉がある時は、驚きのスピードメニューだ。うどん玉を盛ってつゆをザーッとかけて薬味を載せれば完成。30秒もあれば十分だ。そんな究極のシンプルさだからこそ味はごまかせない。

「うどんはよぉ、香川と名古屋が日本で一番うみゃあんだわ! 」と、加古さんは言う。ありそうでない「常温うどん」のころうどん。名古屋の隠れ名物として是非一度は味わってほしい。

※「ころうどん」の商品価格は時期によっても変動するため、詳細は直接、店舗へ問い合わせてください

●information
角千本店
名古屋市北区西味鋺5-106