朝の築地市場では、従業員が鮮魚や荷物を運搬するための乗り物「ターレ(またはタ―レットトラック)」が大活躍(画面左側のタイヤ付きの乗り物)

「都内在住者が訪れたことない東京の観光地ランキング」があれば、上位入賞が予想されるのが築地。なぜって、築地時間は早いのだ。もっとも盛り上がっている瞬間に居合わせるためには相当な早起きが必須となる。だけどせっかく東京に住んでいるなら一度は訪れてみたいもの。そして市場見学後に現地で朝食まで楽しめば完璧だ。

早朝の活気を肌で感じながらの絶品丼

朝食を楽しむ店として、まずおすすめしたいのが「瀬川」。なんと大正13年(1924)創業の老舗中の老舗だ。当時、魚河岸は築地ではなく日本橋にあったのだが、その頃の「瀬川」は寿司屋だったという。

左)大正13年撮影の「瀬川。右)昭和10年前後に撮影の「瀬川」で場所は現在の築地四丁目交差点角(写真はともに、女将の瀬川暢子さん所蔵)

その後、時を経て現在の店舗に移ってからはネタをマグロのみにしぼり、丼として提供することにしたのだが、米は在りし日と変わらず酢飯のまま。

「どうしても酢飯の味から離れられなくてねえ」とほほえみながら話してくれる女将の瀬川暢子さんは、御年70歳とは思えない美しさ。やはり毎日早起きして多くの観光客と触れ合っていることによって、この若さを保っているのだろうか。取材中にも客足が絶えることがなく、注文が入るたびに機敏にオーダーに応えながらも客と会話を楽しんでいる。

耳をそばだてているとどうやら常連さんらしく、「もうちょっとしたらあいつも来るから2人分まとめて注文しとくよ」などとフレンドリーに話しかけている。瀬川さんによると、築地で働く人の中には毎日のように朝ごはんを食べにくる人が大勢いるのだとか。

暖簾にも大きく「まぐろどんぶり」の文字

女将の瀬川暢子さん

さて、こちらの店を訪れたら是非食べてほしい朝食メニューが、まぐろどんぶり(税込み800円)である。秘伝のづけしょう油の味が染みた新鮮なまぐろは、酢飯との相性抜群。丼いっぱいにまぐろが敷き詰められているため、赤身のうまみをじっくりと味わうことができるのがうれしい。さっぱり仕上げの漬物もついてくるので、「にっぽんの朝ごはん」感もたっぷり。

まぐろ丼(800円)。刻みガリ、大葉、ワサビの薬味がマグロの旨みを引き立てる

●information
瀬川
中央区築地4-9-12

朝の築地でちょっと一服

女性のたなごころにもおさまる食べやすい大きさ。ラップにくるんでいるので持ち帰りも◎

続いておすすめしたいのは、場内で働く人の他、近隣の会社に勤務する会社員なども朝からたむろするという「ルビンズコーヒー」。マスターの山本京子さんが「築地時間で営業しています」と言う通り、喫茶店にしては珍しく、朝6時半から夕方4時までの営業である(土曜日は午後2時まで。日曜日は朝7時半から)。

この店の常連には、築地に仕入れに来る業者さんが多いらしく、ここで一服してから自分の店に戻っていくというのがスタイルなようだ。「週に3回ほどいらっしゃる業者さんもいますね。うちはタバコを吸えるから、ちょっと一息つくのにちょうどいいんでしょう」と山本さん。

山本さんによると、店の従業員は全員山本さんのお友達だそうで、主婦業の合間に手伝ってくれている人もいるとのこと。そうしたアットホームな雰囲気もまた、人気の理由なのだろう。

ヨーロッパ風のキュートな看板。こういう内装の店なら、ひとりでも気軽に入店しやすい

こちらの店には、サンドイッチ(130円)やホットドッグ(230円)、バタートースト(230円)などのメニューがそろっている。なんとサンドイッチは手作りで、たまごサンド、ハムサンド、野菜サンド、ポテトサンドなど様々な味を用意。素朴でやさしい味わいが魅力だ。

店ご自慢のコーヒー(アイスコーヒー、ブレンド、アメリカン=230円など)と一緒に味わえば、朝からほっこりとあたたかい気持ちになれること間違いなし。

客が頭を指差しながら入店!?

最後に紹介するのは、大正8年(1919)創業の洋食屋「豊ちゃん」。築地市場内に居を構えるこちらの店は、カツ丼(1,010円)、オムハヤシ(1,050円)、カツカレー(1,010円)などの人気洋食メニューがそろう老舗で、昼時ともなると近隣のオフィスビルで働くサラリーマンやOLで連日満杯の盛況だ。

豊ちゃん外観。築地市場内は魚介を扱う店ばかりじゃないんです!

大正8年に開店した当時のメニュー

築地観光に訪れた際、この店の前を通ったことのある人は、店の前に出されたメニュー中の不思議なネーミング料理が気になったのではないだろうか。かく言う筆者もそのひとり。取材に訪れるまで、一体どんなメニューか想像がつかずにいた。その料理の名前とは、「あたまライス(1,010円)」という.

謎の響きに興味津津で早速注文してみたところ、運ばれてきたのはカツ丼の「頭」の部分。言い換えるなら「カツ丼のごはん抜き」だろうか。この変わったメニュー名、実はお客さんたちの行動によって生まれたものだという。

築地での仕事終わりに店に朝食を食べに来るなじみの客たちが、「カツ丼のカツの部分だけほしい」という意味で、自らの頭を指差しながら入店していたことが始まりで、いつしかそれが「あたまライス」の呼び名で定着したんだとか。

あたまライス(1,010円)。おしんこもセットで付いてくる

ちなみにメニューには通常のカツ丼(1,010円)もあるが、わざわざ別々の皿に盛られた「あたまライス」を頼む客も多いのはどういうわけか。

「プラス190円でカレー、プラス230円でハヤシを“ちょいかけ”できるんで、白ご飯とカレーとを食べ分けて楽しんでいらっしゃるお客さまもいますね」と代表の長田智子さん。長田さんによると、週に何度も通う常連も多いそう。

食べてみて納得。しっかりした味付けのダシが、カラッと揚がったカツと新鮮な玉子をぎゅっとホールドしていて、ボリューミーなのに重たさや脂っこさはまるで感じることなく、大盛りのご飯でもするすると完食できてしまうのだ。

●information
豊ちゃん
中央区築地5-2-1築地市場1号館

朝からスタミナ満点のご飯を食べて一日をスタートするのもたまにはいいもの。「今週はいつもと違うことにチャレンジしたいな」なんて気分のときにでも、「早起きして築地de朝ご飯」、是非お試しあれ。