安彦氏:こうだったらよかったなと思うのは、当時はメカ作監がいなかったんだよね。メカ作監っていつからできたのかね?

板野氏:『マクロス』からですね。私なんですけど。

安彦氏:あなたがメカ作監第一号なの?

板野氏:そうです(笑)(会場笑)

欲しがっていたメカ作監第一号が、まさか自分が教えた若手だったとは……安彦氏はその事実に驚くも、さらに『マクロス』でのメカ作監料は1本5万円で、キャラ作監の美樹本晴彦氏の1/4だったという。

安彦氏:美樹本晴彦はキャラ作監で20万もらってたの?(会場笑)

板野氏:そうなんです。メカ作監というのはなかったので、1本5万。え? 動検より安いの? って。そして(『マクロス』の)10話で倒れるんですよ(笑)。人は無理したら倒れるんです。

安彦氏:当時は作監のなり手がなくてね。原画の方がいいと。

板野氏:そうですね。僕も『マクロス』の時に1本まるまる(メカ作監として原画を)直したんですけど、メカ作監の5万円だけでした。もし原画をまるまる1本描いていれば100万円以上になったのに、ひどいもんですよ。

安彦氏:それは深刻な問題だよ。

板野氏:倒れたあとに、7万円になりましたけど。動検と同じになりました。(場内爆笑)

悲しいかな、今も昔も変わらぬアニメ業界の労働環境。しかしそれに追い打ちをかけるような悲劇が1スタを直撃する。

板野氏:安彦さんが倒れたあと、レイアウトを描いてくれる人がいなくなり、安彦さんの前の話の修正画を見て、作監修正紙を見て……そこからザクやガンダム描いていました。前島さんはキャラ描いて、担当を分け、死にものぐるいで……。その頃はもう打ち切りが決まり、ガンダム(のように働いていた)安彦さんがいなくなり、富野さんブライト(監督=艦長)はスポンサーから「打ち切りだ、本は売れねえ、オモチャは売れねえ、お前がマスターベーションこいてるからだ」と言われて大ダメージを受けちゃいまして。

『ガンダム』を作っていた人たちが安彦氏をガンダムに例える――それがどれほどのことか。1機のモビルスーツで戦局を変えられるものではない、とウッディ大尉は言ったが、1スタというホワイトベースは星一号作戦あたりからガンダム抜きで終戦まで戦ったと考えると、その恐ろしさも分かるというものだ。

「アニメーター安彦良和展」より

ガンダムの味方はファン、敵は……ザ・ウルトラマン!?

そんな満身創痍の1スタを支えたのは、ファンだったという。

板野氏:最後の砦がファンレターだったんですよ。当時の大学生が、普通だったらムック本買いますよね? でもスポンサーがバカだから子ども向けの絵本ばっかり出す。強いぞガンダム、がんばれガンダム、僕らのガンダムみたいなの(笑)。でも大学生が買ってくれるんですよ。

氷川氏:遊園地をザクが襲うやつとか(笑)

板野氏:超合金のガンダムとかね。富野さんが大嫌いなオタクが、ゼネプロ(ゼネラルプロダクツ)やガイナックスの連中で、あいつらが支えてくれた。だからあいつらのこと嫌いだなんて言っちゃいけませんよって、富野さんのイベントで言ったぐらいですからね。

そして『ガンダム』の同人活動によって発掘された新たな才能も。

氷川氏:当時サンライズに届いたファンジン(当時の同人誌の呼称)の中に、河森さん(河森正治氏)や美樹本さんのもあったんですよ。

安彦氏:(美樹本氏の絵を)初めて見た時、俺がいつ描いたの? って思ったもん。素人なのに。

板野氏:(美樹本氏が描いた)『マクロス』のキャラ表の一稿が、あまりに安彦さんの絵にそっくりすぎてこれじゃダメでしょう! ってボツになりました。そこまでそっくりでしたから。

安彦氏:なぜ(美樹本氏が)現場にいなくて、同人誌にいるんだっていうね。不条理だよ(笑)

安彦氏:それで『クラッシャー・ジョウ』を手伝ってもらおうと思ったら、もう『マクロス』が動いてたっていう。

板野氏:この82年頃は密度がすごくて『ザブングル』があり、(『ガンダム』の)『めぐりあい宇宙』があり、『イデオン発動編』、『マクロス』、『クラッシャー・ジョウ』って、おかしいでしょ。

氷川氏:板野さんの出現率高いですよね。

板野氏:全部参加させていただいてますね。

この時代を小学生として過ごさせてもらった身としては、ただ感謝しかありません。しかし、次に語られたことより、当時の現場には知られざる敵がいたことが明らかになる。……続きを読む