12種あるちゃんぽんメニューでは、オーソドックスなちゃんぽん(520円)が人気

老舗のパン屋さんにも関わらず、名物メニューがちゃんぽんだという変わったパン屋さんが福岡県にはあるという。一体どんな店なのか、早速調査に出かけた!

初代がちゃんぽんを出そうと発案

JR博多駅から一駅、南へ下った一帯に広がる博多区竹下エリア。大手のビール工場を始め、中小の工場や事業所、住宅などが混在し、あたりには下町の雰囲気が漂う。ここに創業65年というパン工場「タケシタベーカリー」がある。文字通り、竹下という地名を冠したパン工場で、かつては駅前に店を構える小さなパン屋さんであった。

それが戦後、学校給食の始まりとともに福岡市指定パン工場となり、駅前から1kmほど離れた現在地に移転。今も幼稚園や小中学校など60の園や学校にパンを納める。そんな老舗ベーカリーになぜちゃんぽんが? 3代目当主である専務取締役の吉満栄樹さんに話をうかがった。

看板にも博多名物ちゃんぽんの文字が

「35年前、パン売り場の横に喫茶部としてカウンターを作りました。8席のみで、メニューはサンドイッチやハンバーガーなどと飲み物だけでしたけど」。そこへ常連さんからのリクエストで、ナポリタンやカレーも置くようになったという。

そして、初代が「パン工場のまわりは食事できる店が少ないので、もっといろいろなものを出そう」と発案。初代の奥さんが長崎出身だったこともあり、ちゃんぽんを出すことにした。それが30年前のことだ。

「専門の料理人を雇ったのですか?」と尋ねると、パン工場のスタッフが見よう見まねで作り始めたとの答え。すべてはコスト第一主義で、今でも新メニュー開発では、すべて工場で使っている食材を使うことが条件だという。「少しでもお安く提供するのがポリシーですから」と吉満専務。

加えて、客からの要望にはできるだけ応えようとした結果、ちゃんぽんはいつの間にかうどんを使った和風味やヘルシー志向の春雨を使ったものなど12種類に増えた。

ちゃんぽんだけでもこんなに種類が!

専門店に負けない味と量

では、ちゃんぽんの味見といこう。オーダーしたのはオーソドックスなちゃんぽん。待つこと、しばし。「お待ちどうさま」と運ばれてきたちゃんぽんを見ると、魚介やカマボコ、野菜などが入っており、ちゃんぽん専門店のそれに負けず劣らずの雰囲気・においを漂わせている。

では、味はどうか。まずはスープをすする。おぉ、あっさりながら、具材のうまみが出ていてしっかりコクもある。次に野菜や具をいただきながら麺をすする。うん、お互いに味がなじんでいて実にうまい。麺の硬さもちょうどいいし、ボリュームもあって男性でも満足できる量だ。

これはもうパン屋さんの余技ではなく、味も専門店に負けていない。その証拠に、11時半を過ぎた頃からどんどんお客が入り始め、ちゃんぽんというオーダーの声が飛び交う。それらに混じって「唐揚げ定食ね」とか「俺は生姜焼き」というオーダーも入り始め、厨房はそろそろ戦場と化してきた。

喫茶部にはお昼ごはん時になると続々お客が

「この5年ほどでメニューも増えましてね。唐揚げや生姜焼きも人気が高いんですよ」と吉満専務。でも、「肝心のパンはどうなんです?」と尋ねると、毎日40種類を作るほか、季節メニューもあるといい、朝6時には焼き立てを並べる。喫茶部が人気とはいえ、やはりパンが主流であることに間違いはないのである。

パンの販売コーナーには朝6時に焼き立てが並ぶ

世にパン屋多しと言えども、パン屋でちゃんぽんがいただけるのはここくらいだろう。街の生活に合わせて進化してきたタケシタベーカリー。ちょっと一味違うパン屋を味わってみたい人は、是非訪れていただきたい。

●Information
タケシタベーカリー
福岡県福岡市博多区那珂2-22-5