福岡市や近郊の住民にはおなじみ、大きなお釜のオブジェがある「牧のうどん」

ラーメンが有名だが、実はうどん好きも多いと言われる福岡。福岡出身のタモリがよくテレビ番組で、「うどんはコシが命とか言うけど、やわらかいうどんもうまいんだよ!!」と言っている通り、福岡のうどんは麺がやわらかい。胃腸の調子が悪い時でも、スルスルと飲みこんで消化できるのがうれしい。

さて、地元で人気のうどんとして必ず名前が挙がるのが、福岡市を中心にチェーン展開する「牧のうどん」だ。ここのうどんは「食べても食べても減らない」どころか、時間が経つと増えるとも言われている。実情はどうなのか。お店に突入してみた。

店内の製麺機で常に打ち立てを提供

店頭に大きなお釜のオブジェが立つ牧のうどん。「まきの」とか「マッキー」と呼ばれることも多いが、正式には「釜揚げ 牧のうどん」という。創業して40年目のこのうどん屋は、福岡市やその近郊を中心にチェーン展開していて、佐賀県や長崎県にも店舗を構えている。

店舗の形はどこもほぼ共通で、木造平屋建て。店内は中央に厨房(ちゅうぼう)を配したオープンキッチンスタイルになっており、カウンターとテーブル席、畳敷きの小上がりがある。意外なのはガシャガシャという機械音。実はどの店舗も厨房の真ん中に大きな製麺機が据えられていて、店ごとに麺を製造。常に打ち立てが食べられる。

厨房の製麺機で麺を作っている

客席にはメニューと価格を記した細長い伝票(計算書と書いてある)が置いてあり、客は食べたいメニューに赤鉛筆でチェックを入れてオーダーするシステム。メニューにはうどんとそば、めし類などがあり、うどんだけでも30種類ほどがそろい、しかも裏メニューもあるらしい。

また、計算書の一番上に「軟(やわ)めん」「中(ちゅう)めん」「硬(かた)めん」と書いてあり、麺のゆで加減を選べるようになっている。さて、何を頼むか悩ましいが、地元で絶大な人気を誇るごぼう天うどん400円、それにせっかくなので一番高いスペシャルうどん990円をオーダー。ゆで加減はふつうの硬さである「中めん」を選んだ。

赤鉛筆でオーダー品をチェックする。素うどん300円からと価格も良心的

ほどなくして、ごぼう天うどんとスペシャルうどんが目の前に。ごぼう天うどんを見ると、すり身揚げみたいなものが5個ほど乗っている。ごぼうを食べやすい大きさにスライスしたものに、衣を付けて揚げているようだ。

福岡ではうどんの定番。ごぼう天うどん

スペシャルうどんは通常の1.5倍ほどの丼に、肉を甘辛く煮たもの、キムチ、卵、とろろ、えび天などが乗り、とてもにぎやか。ご飯ものもセットになっていて、いなりやかしわ飯が選べるようになっているのだが、今回はうわさの裏メニューである雑炊(280円)をチョイス。人気のかしわ飯(190円)に比べるとやや高くつくが、写真のボリュームなので納得だ。

さらには小鉢や漬け物も付いていて、なるほどスペシャルという名前を冠するにふさわしく見た目はかなり豪華である。

巨大丼に具材がいろいろ盛られたペシャルうどん。左上は雑炊

不思議だったのは小さなヤカンも付いてきたこと。てっきりお茶かと思っていたら、「スープがなくなったら足してください」と店の人。えっ、スープがなくなるの? 確かにヤカンの中をのぞくとスープが入っている。どういうことか頭をひねりつつも、とにかくいただくことに。ツルッ。おお、麺は博多らしく太麺で、ふにゃっとやわらかい。スープもダシが利いていて、うまい、うまい。

食べても麺が減らない理由は製造法にあった

ところが、ふた口、三口と食べ進むうちに、あれあれっ、さっきまでたっぷりあったスープがなくなっている! 麺がなぜかスープをどんどん吸い込んでしまうのだ。だから、客はヤカンに入ったスープを足しながら食べ進めなければならないというわけだ。

なるほどと納得しつつ、地元の人にならってスープを入れ、またひと口。しかし、麺が減らない。いや、むしろ増えているような感じがするのは気のせいなのか。

あわてずに、こうやってスープを注ぐのです

どうしてこんなことになってしまうのかというと、麺の製造方法に秘密があった。店の方に聞くと、牧のうどんでは麺を打った後、そのままゆでて器に入れ、具材をトッピング。スープをつぎ、提供するという。

一般的に、うどんはゆでた後、冷水で締めてザルに上げ、再加熱するものだが、牧のうどんでは麺のうまさを出すために冷水工程をカット。そのため、麺がふやけやすく、時間とともに膨張していくのだそうだ。「食べても減らず、むしろ増殖する」のは、独自の麺の作り方にあったのだ。

だから、通は「硬めん」を選ぶという。じゃ、「軟めん」だとどうなるのか。考えただけでもおなかがいっぱいになりそうだが、福岡らしく「軟めん」も人気が高いそうだ。また、「替え玉」もあるというから大食漢には心強いだろう。うれしいのは細麺も選べること。おじやと同じく、裏メニューとしてちゃんと存在しているが、注文してから麺を打ってくれるので少し時間がかかる。

細麺。丼手前のふつうの麺と比べると細さが分かる

他に、天ぷらなどは「別盛りで」と頼めば、うどんに乗せず小皿に乗せて出してくれる細かいサービスも。味もさることながら、このようにお客の注文に細かく対応してくれる気配りも喜ばれているのだろう。

また、ふつうの店だったらアイドルタイムと思われる午後3時をとっくに過ぎても、賑(にぎ)わいをみせている点も印象に残った。そう。牧のうどんは、食べても食べても減らない麺同様、ランチタイムを過ぎても客数が減ることのない人気店だったのだ。

●Information
牧のうどん
※取材した店は「牧のうどん 片江店」
福岡県福岡市城南区片江4-1-20