ANAと「博多一風堂」が新しい機内食を開発し、この6月1日からサービスの提供を始める。約1年半をかけて独自に開発したラーメンは、トンコツ「そらとん」と醤油「ふるさと」の2種類だ。

「博多一風堂」を運営する力の源カンパニーの河原成美・代表取締役CEO(右)とANAの渡辺俊隆・上席執行役員(左)

地上で食べるラーメンの味を機内で再現するのは簡単ではない。高度1万メートルの上空は気圧と湿度が低く、おいしいと感じてもらえるには相応な味付けが欠かせない。また、機内に積み込む前に一度冷凍しなければならないなど、環境や条件に様々な制約がある。

それらをクリアした上で出されているのが機内食なのだが、ラーメンにはさらなる工夫が必要になる。機内食にそばやうどんが出るのは珍しくないが、それらはすべて冷たい麺の話。カップ麺ではない温かい麺を機内で提供する航空会社はまれだ。

今回コラボレーションをした「博多一風堂」は、海外にも店舗を多数展開しており、「ザガットニューヨーク」ヌードル部門では2011年に1位、2012年に2位を獲得した実績もある。「サンドイッチやハンバーガーなど数ある軽食の中でラーメンを選んだ理由は、欧米路線の特に帰国便で最も人気があるからで、約1年半をかけて独自に開発した」(ANA)という逸品だ。

極細麺で地上の味を再現

まず、日本発着のヨーロッパ路線では、空の上のトンコツ「そらとん」を提供。ブランドとして確立されている「博多一風堂」の企画・監修ともなれば乗客の期待は大きいが、試行錯誤によってたどり着いたのが「濃厚なスープと極細麺、それをつなぐ香油の調和」という結論だった。

「スープは濃厚な赤玉のスープに香油を加えた感じ。店と同じ食感を出すためにソーメンのような極細麺にした」(力の源カンパニーの河原成美CEO)ことで、見事に味を再現。また、「機内で出すために4種類ほどの秘密のスープを開発した」(ANA)。まさに、機内食として出すために、一から開発したオリジナルのとんこつラーメンなのである。

「そらとん」は乾麺を使っているとは思えない食感

欧州路線はとんこつ、米国路線は醤油

一方、日本発着のアメリカ路線(ホノルルを除く)では、薫り立つ醤油「ふるさと」を提供。アメリカにはとんこつ味に欠かせない畜肉エキスが持ち込めないため、醤油ラーメンを選んだという。しかし、味は「懐かしい醤油味の中華そばでホッとするひとときを」がコンセプトの通り、食べやすい中華そばの味を見事に再現している。

醤油ラーメンの「ふるさと」も「博多一風堂」のメニューを機内食用に開発した

これまでもハンバーガーや牛丼のチェーン店と協力して機内食を提供する航空会社はいくつかあった。しかし、それらにはもともとのメニューを一部機内用にアレンジしたものがほとんど。今回のように一から開発したオリジナルメニューは希少だ。航空会社間のサービス競争が激しく、日進月歩とも言える勢いで進化する機内食に、またひとつ新しい潮流が誕生したようだ。