名古屋にも負けない、壮絶な「まんじゅう撒き」が福井県にもあった!

名古屋の嫁入りは、「娘3人いれば家が傾く」と言われるほどのハデ婚で有名だ。しかし上には上がいる。名古屋に負けないド派手婚が名物の県があることをご存じだろうか? それが、東海北陸エリアの福井県である。

豊かさと田舎らしい文化がハデ婚の条件!?

という筆者も福井出身。福井にいたのは20歳過ぎまでで、大阪に嫁に行くまでは名古屋で仕事をしていた。今では盆暮れ程度しか福井には帰らないが、若い頃の記憶をたどってみると、確かに福井の結婚式は異彩を放っていた。

まず、同じハデ婚と言われる名古屋と福井に共通項はあるか。正直ぱっと思い浮かばない。しかし強いて言えば、どちらも「経済的には比較的豊かでも、文化的にはちょっと田舎らしさが残っている」ということかもしれない。

検証のため、いろいろデータを集めてみた。まずは県民性。名古屋人は堅実と言われるが、福井人も負けていない。1世帯当たりの預貯金ランキングは福井県が常に上位をキープ、学力テストでもトップクラスを維持しているということは教育費にお金をかけているということに他ならない。

では、懐具合はどうか。名古屋は「世界のトヨタ」をヒエラルキーの頂点とした、ものづくり大国だということは誰もが知るところ。実はあまり知られていないが、福井もいろいろな産業が盛んである。例えば鯖江市は眼鏡フレームの国内生産で、実に96%のシェアを押さえている。これを読んでいる眼鏡読者はほとんどが、鯖江産の眼鏡のお世話になっているのだ。

地域のつながりはどうか。福井のお寺は浄土真宗が幅をきかせていて、檀家組織が今も強固だ。ということは地域同士のつながりが深く、冠婚葬祭などに力をいれることは不思議でもなんでもない。

結論。つまり名古屋も福井もそれなりにお金を持っていて、でも文化的にはまだ田舎らしさがある。それがハデ婚につながっていると言えなくもない。実際、ハデ婚というのは「見栄」と言っても過言ではないだろう。特に輿入れ(こしいれ)する嫁側による「家格の見せ場」。大げさにいえば、家と家との大勝負なのだ。

ガラス張りのトラックでいざ嫁入り!

「家格の見せ場」結婚式が、家と家との大勝負 !?

まず嫁入り道具が物凄(すご)い。着物は訪問着、喪服、留め袖などなど一そろえというかフルコース。家具類は、桐箪笥(きりだんす)はもちろん、洋服ダンス、テーブル、ダイニングセット、ベッド、家電一式などなど一そろえというかこちらもフルコース。

ちなみに桐箪笥の中には、先に書いた着物類がぎゅうぎゅうに詰まっていないといけない。これらの大荷物を運ぶのだから、とうぜん嫁入りトラックは必要になる。筆者自身は見たことはないが、名古屋と同じく、嫁入り道具の中身が見えるガラス張りの嫁入りトラックは、福井でもかつて存在していたらしい。

主役のお嫁さんは、この日ばかりは「モノ」扱いだ。早朝から着付けが始まり、整ったらご近所に花嫁姿がお披露目される。そして午前中に新郎宅に移動するのだが、ここでも大名行列のような様相を呈する。

新郎宅に着くと、玄関で深々と一礼したあと、ここで名古屋にもないある風習が行われる。それが「一生水」というものだ。一生水は、「一生この家の水を飲む」という意味があるらしい。一升ますの中に杯が入っていて、新婦はこれでお酒を飲むのだ。その杯は側にいる仲人に渡し、杯をたたき割らないといけない。理由は不明だが、「もう帰るところはない」という決意表明といったところだろうか。

家に入ると、新郎宅の仏壇(つまりご先祖様)に一礼し、花嫁というニューファミリーを迎える。そしていよいよ、お待ちかねの「まんじゅう撒(ま)き」が始まる。まんじゅう撒きは、名古屋の嫁入りで行われる菓子撒きに当たるものだ。

まんじゅうを巡ってご近所さんが奮闘

まず、ビニール袋にたんまりと入った紅白まんじゅうが新郎宅前に段々に並べられる。これを、新郎宅の屋根やベランダから、景気良くばら撒くのだ! ちなみに、「まんじゅう撒きで家格が分かる」という人もいるくらいなので、間違ってもケチることは許されない。

この時を待ち構えて家の前に集まってくるご近所さんたちは、その時が近づくや否や、さっと臨戦態勢に入る。そして、まんじゅう撒きが始まると、われ先にとまんじゅうをゲットするソルジャーと化すのだ。さぁ、ゴングは鳴った。カーン…。ファイッ!

新郎宅のベランダや屋根から撒かれるまんじゅうたち!

まんじゅうをナイスキャッチする人はもちろん、地面に落ちたまんじゅうには四方から手が伸び、猛烈な争奪戦が始まる。老いも若きも関係ない。「こっちだ、こっち!」「それ、私のー!」と、呼び声はそのうち掛け声に変わり、そのうち金切り声になる。一歩間違えばパニック状態の阿鼻叫喚(あびきょうかん)だ。家によってはまんじゅうの他にモチやお菓子も撒いたりして、テンションは更に加速する。まんじゅう撒きが終わると、一瞬にして人だかりはいなくなるのだ。

引き出物を持って帰るのも一苦労

そして、結婚式は厳粛に執り行われるものの、メーンイベントの披露宴はこれまたゴージャスさを競うように行われる。この披露宴の豪華さによって、福井嫁入り物語はクライマックスに達する。もちろん引き出物は、名古屋の披露宴に勝るとも劣らない大きさだ。筆者も友人の結婚式では、ボリューム満点な引き出物を必死になって持ち帰った記憶がある。

しかし、残念ながら時代は変わったらしい。地元の友人に聞いたところ、ハデ婚が絶滅したとは言わないが、「昔に比べたら全然ハデ婚じゃないよ。まんじゅう撒きも、ここ数年は見てない」という答えが返ってきた。

福井も今やジミ婚が主流となり、引き出物も分厚さは影を潜め、カタログギフトが活用されているようだ。今も故郷を愛する福井人としては、寂しさを禁じえない。節約・不景気漂う時代だからこそ、景気浮揚政策のひとつとして、福井にハデ婚が帰ってきてほしいと願ってしまうのだ。