グローバル化の流れの中、日本で働く外国人が増えると同時に、日本人の海外赴任機会なども増加している。それに伴い、従来は銀行で行われていた海外送金サービスを独自に行う事業者が続々と登場している。今回は、個人向けの海外送金サービスを独自に行っているNTTドコモ、SBIレミット、セブン銀行の担当者に聞いた、各社のサービスの特徴を紹介する。
海外送金サービスの拡大は、銀行以外の事業者による送金サービス提供を認める、新しい「資金決済に関する法律(資金決済法)」が2010年4月に施行されたことを背景にしている。NTTドコモ、SBIレミットはこれによって海外送金サービスを行うことが可能になった。SBI傘下のSBIレミットは2010年12月から、NTTドコモは2011年7月から、同サービスを開始した。セブン銀行は銀行なので、同法の施行とは直接関係はないが、新たなビジネスチャンスを狙い、2011年3月から海外送金サービスを開始した。
NTTドコモ - 「ケータイで送れる」手軽さと、「手数料一律1,000円」が特徴
それぞれに特徴のあるサービスを行っているが、まず、NTTドコモの海外送金サービスを紹介したい。NTTドコモではもともと、日本国内では、ケータイ送金というサービスを行っていた。一つの電話番号にいわゆる「ドコモ口座」というアカウントを持つことができ、アクティベートすれば、お金をデポジットしてショッピングやドコモ同士のケータイ送金に使うことができる仕組みを持っていた。同社では、この仕組みの上に、海外にも送金できるサービスを行うという形で、同サービスを行うことになった。「ドコモ口座」に一旦入れたお金を、海外にも送れるようにしたというわけだ。
海外送金サービス参入のきっかけは、さきほど述べた資金決済法の施行以外に、同社が国内に抱えている約6,000万のユーザーに対して、「海外送金という利便性を提供できるのではないか」(同社国際事業部 国際サービス担当部長 石井良宗氏)との思いがあったという。だが同社では、海外に送金できるネットワークを持っていたわけではなかったため、米マイクロファイナンス・インターナショナルのシステムを通じて、同サービスを開始することとなった。
利用するには、携帯電話で送金金額、受取人氏名、受け取り方法などを入力する方法をとっている。受け取る方法は、口座入金のほか、銀行や両替店、ポーンショップ(質屋さん的な店舗)などで受け取ることができる。
NTTドコモの送金手数料は、「なるべく安く、分かりやすく」(石井氏)をモットーとし、1回の送金につき一律1,000円としているのが特徴だ。石井氏によると、携帯から非常に簡単な操作で送金でき、銀行の窓口の営業時間や曜日に関係なく送金できることから、利用者からは大変使いやすいと評判だという。送金対象国は、2012年3月に21の国・地域に拡大した。在日外国人以外にも、日本人留学生に親が送金するケースも多いといい、米国への送金が伸びているという。
マネーロンダリングなどの不正対策にも力を入れており、毎回の送金ごとに受取側のスクリーニングをしている。また、今年3月からはスマートフォンからも送金できるようにした。「入力が楽なので、口座番号なども打ちやすく、慣れると大変使いやすい」(石井氏)。
石井氏はサービス開始からこれまでの状況について、「2011年度は目標としていた利用者数には届かなかったが、確実に手ごたえは感じている」とし、「携帯電話は、おサイフケータイなどにも代表されるように、金融サービスと相性がいい。海外送金サービスについても、1回一律1,000円という分かりやすさと携帯で手軽に送れるというメリットがあるので、外国人の皆さんや留学生のお子さんを持つ親御さんらに、ぜひ利用してほしい」と話している。
SBIレミット - 顧客のニーズに合わせて常に"進化"
SBIレミットは、2010年4月に施行された資金決済法に基づく資金移動事業者として、同年12月7日に金融庁に登録、13日にサービスを開始した。「それまで、SBI証券での株式売買手数料の引き下げなど金融サービスの価格破壊による顧客還元と利便性向上を先駆的に手掛けてきたSBIグループとして、従来、銀行だけが行うことができた国際送金業務の自由化に利して海外送金ニーズをもつ個人や中小事業者、また、日本在住外国人に対して、安全、迅速、低価格な国際送金サービスの提供を目指している」(SBIレミット 営業部マネージャーの栗田貴善氏)。事業開始に先立つ実地調査でも、日本で働く多くの外国人から、便利な送金手段がないという声を聴いており、そうした声がSBIレミットのサービス構築の原動力となった。
業界最低水準の手数料の実現にあたっては、「SBIグループのノウハウを生かし、スケールメリットが効率よく働く事業インフラを狙ったシステム構築を行った。」(栗田氏)。
同社が海外送金サービスを行う上で提携したのが、国際送金事業会社大手の一角である米国のマネーグラム社。「複数の国際送金事業者との提携を検討したが、日本の顧客層に合ったサービス提供に柔軟に対応しようとする姿勢を最も強く感じた」ことが同社との提携の決め手となった。
サービスの特徴は、送金依頼をSBIレミットのウェブサイトから24時間365日行うことができ、同社に入金が行われると"最短約10分"で、マネーグラム社の持つ190カ国、25万カ所の取扱店で受取人がキャッシュを受け取れるというもの。しかも、従来の銀行送金に比べると、速さ、費用において飛躍的な利便性の向上を消費者に提供している。また、資金移動業者は送金資金の取り扱いに応じた金額を、送金受取りが行われるまで法務局に供託する義務を課せられており、安全性も極めて高いものとなっている。
具体的な送金方法は、主にSBIレミットへの送金依頼の仕方、入金方法の違いによって「フリコミ送金」「インターネット送金」「ゆうちょ振替払込みカード送金」「コンビニ送金」の4つがある。日本人顧客はインターネットによる送金依頼をネットバンキングと併用して送金を行うケースが多い。一方で日本在住の外国人顧客に最も利用されているのは、「ゆうちょ振替払込みカード送金」。仕送り送金のように、常に一定の送金受取人に送金する場合、その受取人をあらかじめSBIレミットに登録しておき、その"ゆうちょ振替払込カード"でゆうちょ銀行のATMまたは窓口でSBIレミットの口座に入金するだけで、Webサイト上での手続きなしに登録した受取人への送金が実行できる。外国人顧客にこの方法が最も多く利用されている理由について、栗田氏は「ネット環境のない方や苦手な方、最寄りの金融機関が郵便局である方が多いことに加え、自分のカードで入金を行うことによる安心感という消費者心理を持たれることが理由ではないでしょうか」。
「フリコミ送金」は、送金に際してのSBIレミットへの入金に銀行を利用するお客様で、同じ送金受取人に複数の送金を行う予定がある場合、「ゆうちょ振替払込みカード送金」と同様に、事前に受取人の登録をしておくことにより会員サイト上での手続きなしで送金が実行できる。
上記2つの送金方法では、SBIレミットが顧客からの入金を確認した時点で即送金されるのに対し、「インターネット送金」は、顧客がSBIレミット内に持つ「送金準備金口座」に送金用資金を一時的にプールすることが可能。その残高から必要な金額を、必要な時に、機動的に送金することができるため、海外にお子様を持つご両親などの個人に加えて、海外への支払いを機動的に行いたい法人が多く利用している。
「コンビニ送金」は、SBIレミットがファミリーマート社と日本で初めて開始したコンビニエンスストアでの入金による国際送金。インターネットで送金依頼を行った後、提携するファミリーマート内のファミポートを利用して、レジで入金が行える。365日7時から21時まで海外送金を行うことができ、金融機関の営業時間外の送金を容易にしている。
栗田氏は、こうした顧客の視線に立ってサービスを常に改善して"進化"していくことが、SBIレミットの最大の特徴と強調。常に顧客の声に耳を傾けながらサービスの改善を心がけているという。
サービスを開始して1年半の状況については、「着実に伸びているのは間違いない」(栗田氏)。今後については、「どういうプロダクツを作ったらお客さんに喜んでもらえるかが全て。数字はこのような地道なサービス改善の結果として後からついてくると思っている」と話している。
セブン銀行 - 「ATM」から原則24時間365日送金可能
セブン銀行の海外送金サービスは、従来の海外送金の仕組みで利用者が感じていた不具合や不満をなんとか改善したいという思いが、開発のきっかけとなった。従来は銀行や郵便局から海外に送金する場合、「窓口が少なく、長時間待つ必要がある」、「送金したくても店舗が平日の15時までしか営業していない」、「手数料が高め」、「書類記入の手続きが煩雑」など、より便利なサービスへの意見や要望があった。
また、労働力人口の減少で、就労のために海外から日本に入国・在留している外国人が増えていることや、企業のグローバル化による日本人の海外勤務が増えていることから、日本から海外への送金ニーズは、今後ますます増加していくと考えた。
セブン銀行 商品サービス部の廿浦(つづうら)隆次長によると、同社では、それまでのサービスへの改善や、事業の多角化という観点から、2009年に海外送金サービスに関するプロジェクトを立ち上げた。プロジェクトでは、(1)便利なサービス、(2)いつでもどこでも使えるサービス、(3)長期にわたって繰り返し使うことができる安定したサービス、の観点からサービス内容を検討。2011年3月22日、インターネットバンキング、モバイルバンキングでの海外送金サービスを開始。さらに同年7月19日からは、日本国内に現在1万7,000台以上設置されているセブン銀行ATMからも、同サービスを利用できるようになった。セブン銀行の海外送金サービスは、(1)原則24時間365日送金可能、(2)シンプルかつリーズナブルな送金手数料、(3)受取拠点が豊富、(4)送金から最短数分で受取可能、などの特徴がある。
廿浦氏は、サービス開始にあたって重視したことについて、「多くの取引を無人で安定して処理するためのしっかりしたシステムのインフラ作り」と、「犯罪に使われるリスクの除去」を挙げた。セブン銀行の海外送金サービスを利用するには、同社の口座を作らなければいけないが、犯罪のリスクの除去という点において、非常に有効だという。
手数料は、1万円までの送金手数料は990円、5万円までの送金手数料は1,500円。「従来の銀行での手数料は金額に関係なく数千円がかかっていた。例えば、少額のお金を送るのに数千円かかっていては、かなり高い。そうした意味では、個人向けの手数料としてはリーズナブルになっている」(廿浦氏)。
また、提携しているのは、世界約200以上の国と地域に45万カ所以上の拠点を有する世界最大の送金サービスネットワークを持つウエスタン・ユニオン。ウエスタン・ユニオンに決めた理由について廿浦氏は、「圧倒的なブランド力と拠点の数が魅力で、なおかつそれだけのインフラを持っているということは、多くのノウハウを持っているということ。安定したサービスの仕組みを作るには、最大手と組む必要があった」と話す。
さらに、セブン銀行の海外送金サービスの最大の"売り"はATMで手続きができること。一旦口座を作り、海外送金サービス契約の申込みをすれば、送金が全てATMなどでできるので、従来は都度煩雑な手続きが必要だった海外送金サービスの利便性を格段に増している。時間を問わずに送金できるのもメリットで、廿浦氏によると、セブン銀行の海外送金サービス利用者の9割近くが、ATMを利用しての送金だという。
昨年は、1年間で約3万件の利用があったが、今年はすでに4~6月の3カ月間で昨年1年間と同じ3万件を突破している。同社は今後4~5年のうちに年間100万件の利用を目指しているそうだ。
廿浦氏は、「日本で働く外国人や、海外に在住・在留する日本人が増え、グローバル化が進んでいる。人が動くということはお金も動くということであり、海外送金サービスは今後不可欠なものになっていく」と話している。
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