──中川さんが指摘されるような、大多数のネットユーザーの実態と、たとえば「ビバ! ソーシャルメディア」と礼賛する層の温度差、認識のズレはどうして起こってしまうのでしょうか

中川 メディアや広告の関係者、エヴァンジェリストと呼ばれるような層に高学歴の人が固まりすぎているからでしょう。ネットスラングでいうところの"DQN"の気持ちがわからない連中が「今度はコレに注目! 」「これからはコレが来る! 」なんて言っているわけで。あらゆる業種やサービスでも同じかもしれませんが、アタマのいい人が考えすぎるとロクなことにならないんですよ。オレはネットのドロドロとした現場で働く"IT小作農"なので、ネットの実態から乖離した彼らの発言に触れると、鼻で笑いたくなるときもあります。

たとえばTwitterに最初に触れたとき、サービス自体は特に違和感を感じませんでした。ただ「Twitterすげぇ」とことさらに持ち上げる連中は気持ち悪くて仕方なかったんです。TwitterでもFacebookでも同様なのですが「仕組みを作った人は偉いし、ユーザーも好きなように楽しんでほしい」というのがオレの基本的な姿勢。引っかかるのは、何かしらの押し付けをしてくるような論調なんです。「マーケティングツールとして使いましょう」「効果的に使うにはこう発言しなければなりません」とか。で、やれ「世界が変わります」だの「アナタの人生が変わります」だの「ビジネスで生き残っていけません」だの、その手の強制感が醸されることには猛烈に違和感を覚えるんです。iPadが発売されたときにも、同じような違和感を感じたんですけどね。

不思議と、インターネットが絡むと人は冷静さをなくしてしまうんです。ネット界隈の識者・著名人は特に。それは従来メディアへのルサンチマンなのかもしれないし、ちょっとした左翼志向からくる静かな革命家の血が騒ぐのかもしれないし、新しいトレンドやツールへの嗅覚が鋭く、ネットのことをよくわかっている俺アピール……みたいな功名心なのかもしれませんが、俯瞰的に捉えて冷静に考えれば見えてくるはずのことを、なぜか見落としてしまう。まあ、そういうムードを確信犯的に醸成して煽ったり、便乗して商売しようとするメディアや専門家がいることで、さらにその傾向を助長させている側面もあるとは思います。「週刊ダイヤモンド」のTwitter特集(2010年1月23日号掲載)みたいにね。

──中川さんは歯に衣着せぬ発言で注目されることも多いですが、最近はトークイベントやメディアでの発言なども増え、周囲の印象も変わってきたのでは

中川 そんなことないですよ。いまだに「中川は怖くて、いつも何かに怒っていて、すぐキレる人」みたいなイメージを持っている方が非常に多いです。だから、実際にお会いして話をすると「こんな穏やかに喋る人だとは思いませんでした」「普通に礼儀正しい人だったのね」なんて驚かれることがよくあります。正直、ネット論壇の著名人たちからも距離を置かれていますよ。そんな中、オレのことを巻き込んでくれたのは、津田大介さんと切込隊長(山本一郎)さんだけ。イベントなどでお声をかけていただけるようになったのは、お二人が「中川、悪いヤツじゃないよ」と宣伝してくれたことが大きいと思う。でも一方で、「中川のこと嫌っているらしい」みたいな伝聞は今でもけっこう耳に入ってきますから。なんで会ったこともない人からこんなに嫌われてんだろう、と思うことがよくあります。

──本書には「『現実的なネットプロモーションの提案をしてください』などの仕事が殺到し、私の売り上げは2008年の3,000万円から(中略)2010年には7,500万円になった。たぶん2011年は1億円を超えるだろう」という記述もありますが……

中川 こんなボロ家に住んでるのかよ! と思ったでしょ(住まい兼仕事場でインタビューを実施)。ここ、周囲の相場と比べて半額くらいですから。古い建物ですけど、オレにとってはパラダイス。クルマとかゴルフとか、金のかかる趣味もないし、このくらいの生活環境を維持できれば大満足なんです。具体的には「飲みに誘われたら、気軽に応じられるくらいは稼ぎたい」という目標を設定しています。おかげさまで、それが実現できているから十分幸せですね。趣味ですか? 酒とゲームです。といっても、3D表示でフィールドがグリグリ動くようなゲームはすぐに気持ちが悪くなってしまうので、そんなにハイスペックなゲーム機は必要なくて、PS2でも持てあますほど。ウチではいまだに四角ボタンのファミコンが現役ですから。

そもそも、ネット論壇で名を上げようとか、評論家・識者の体で今後は売っていきたいとか、そういう欲がないんです。自分の職業は、あくまでも一編集者・ライターだと捉えています。広告案件などでお声をかけていただくことも増えましたけど、それもニュースサイトの編集長という、いまの自分の主要業務をしっかりやってきたからこそだと思う。これからもIT小作農として、粛々と実務をこなしていくだけです。

あ、でも、最近はちょっと贅沢になって、ゲームや本をあまり中古で買わなくなりましたね。前は意地でも中古を探したりしたけど、いまは中古で見つけられなければ新品でも買うようになったんです。