──2011年、ソーシャルメディアはFacebookがブレイクする、という声も多いようです

中川 いきなり他人様の言説を引用して恐縮なのですが、クレイジーワークスの村上福之さんが「Facebookは今のままだと多分、日本で流行らない」と発言していて、最大の理由は「カワイクないから」。これがすごくしっくりきたんですね。

ネットの新しいサービスや技術に敏感に反応する層、いわゆるアーリーアダプターって、みんなアタマもいいし、ネットの善意を体現したような人が多いから、「こんな面白いモノがあったよ」と素直に紹介してくれたりする。でも、大多数のネットユーザーは「女とヤリたい! 」「楽して儲けたい! 」「安くて美味い居酒屋、近所にないの? 」とか、卑近なことばかり考えてネットを利用しているわけです。で、こういう層が参入してこないことには、どんなに優れた技術でもブレイクはしないんですよ。

Twitterがブレイクした最大の理由は、芸能人・著名人が数多く利用するようになったことだと考えています。気になるタレントがどんな発言してるんだろう。プライベートが垣間見られるかもしれない。しゃべりかけたいし、もしかしたらリプライがもらえるかもしれない……みたいなことがモチベーションになっていた。でも、オレが3つ持っているTwitterアカウントの1つ、メディアに影響されまくるごくごく普通の市井の女性などを意味する『スイーツ(笑)』の人々研究用アカウントのタイムラインを見ると、フォロワー30~40人くらいの規模で、緩~くコミュニケーションしている人が大多数なんです。続けている人は、だいたいそのくらいの規模に落ち着いて「今日のランチはカルボナーラ」「美味しそう! 」みたいなやり取りをしている。対して、Twitterでも非常に存在が目立つ、フォロワーが多くて発言もリツイートされまくり、みたいな層はおそらく全ユーザーの数%程度なんじゃないかな、と。前者のような次元でFacebookを使うのであれば、それなりに楽しめるだろうし、「いいね! 」ボタンの意義もあると思います。でも、エヴァンジェリストやネットコンサルタントたちが「これからのソーシャルメディアはFacebookで決まり! 」と大絶賛するほどではないかな、という印象です。なんだか、日本のユーザーには親しみが持ちづらいような気がするんです。

mixiでもモバゲータウンでも何でも、日本のウェブサービスって見た目のデザインがかわいかったり、あれこれデコレーションできたりするものが結果としてウケています。Facebookはそういう柔らかい雰囲気が薄いんですよね。あとは英語。日本語対応が中途半端で不親切なところがある。いまのFacebookって、2003、4年ごろのGREEみたいなんですよ。見た目のクールな印象もそうだし、高学歴で「IT業界のビジネスパーソン同士で勉強会をしましょう」「異業種交流会のお誘いです」みたいな人が、妙に存在感をアピールする姿が目に付いたりする、独特の気持ち悪さがかつてのGREEにはあった。それがそのまま、いまのFacebookにも当てはまるように感じています。また「ネットは素晴らしい」「実名で発信していこう」といった、ネットの善意に期待するエヴァンジェリストたちの最後の拠り所になっているようにも見えます。「みんなで効率を上げて幸せになって、みんなで交流していい出会いに繋げましょう」みたいな。でも現実は、仕事よりも暇つぶしとか息抜きで使うユーザーが多くて、みんな自分本位に、欲望に従ってクリックしていくにすぎない。いくら"善意に溢れた夢のコミュニティ"感を醸そうとしたところで、鼻につく発言を見つければ揶揄したり、ちゃっかり自分だけ得しようとしたりする。それがネットの現実なんですよね。

──Facebookは日本でも定着するでしょうか

中川 う~ん、ある程度は。でも、mixiほど普及はしないと考えています。結局のところ、人が使える時間は有限である、という現実に行き着いてしまうはず。ブログ、mixi、Twitterなどがあるなか、他のサービスが入り込む余地がどれほど残されているか。Facebookが、mixiやアメブロのユーザーをかっさらっていけるのかというと、ちょっと厳しいように見えますね。まあ、フォースクエアやセカンドライフよりはマシな結果を残すとは思いますが。

だいたい「ソーシャルメディアが大人気」なんて大騒ぎしていますけど、ネットユーザーのなかで継続的にTwitterを利用している層なんて、全体から見たらたかがしれてますよ。次から次へとこの手のソーシャルメディアを引き合いに出してきて、エヴァンジェリストたちは礼賛したりするわけですが、個人的には正直、食傷気味です。そろそろ、ソーシャルメディア幻想をまき散らすのは勘弁してほしいです。それに、エジプトとかチュニジアの民主化にFacebookが役立ったって言われているけど、もちろん役だった側面はあるけど、本当に頑張ったのは実際にデモをした人なんですよね。そこをエヴァンジェリストとかメディアは「Facebookがあったから民主化が進んだ!」って安全なところから言っている。「別にお前の『ネットに詳しいゾ』的な評判を増幅させるためにあいつらはデモしたわけじゃないよ! 技術決定論的に言うな! 必要だったから使っただけで、ことさらにFacebookを持ちあげるんじゃねぇ! 」と言いたいです。