──『軍艦島』の企画を社内に諮った際の様子は?

高橋 最初は腰が引けていましたよ(苦笑)。ただ、ゴーサインが出ないことには何も始まりませんから、なるべく異を唱えられないような内容で企画をまとめた。具体的には、製造コストや在庫のリスクなどを試算して、採算面でもっとも問題が少なそうなパターンということで、彩色済みの完成品ジオラマという形を推したんです。確かに、組み立て式のプラモデルにしたほうが安価に提供できて、より多くの方の目に触れるのも事実なのですが、どれほど数が出るかは正直、未知数でしたので。

──価格は23,100円(税込)。値付けの判断としてはどうだったんでしょうね

高橋 率直なところ、高い印象でしょう。でも、ジオラマやフィギュアづくりを理解している方、業界内の人間からすると妥当な値段と感じていただけるのでは。とはいえ、一般の方々からもかなり支持していただけたので、とてもありがたかったですね。おかげさまで、予約注文だけでほぼ完売という形でした。いまは当社にも在庫がない状態。いまここにお持ちしたのが、かろうじてひとつ手元にあったモノです。

青嶋 おかげさまで採算ラインには乗りました。ただ、この手のトガった商品は、数が何個売れたかという評価だけでなく、たとえば今回のようにメディアの方にご注目いただいたり、業界内で話題になったり、といった波及効果がとても重要だと考えています。その結果、お客様に「またアオシマが妙な商品を出したぞ」と関心を持っていただく機会にも繋がってくるわけで、効果は売上うんぬんでは語れないほど大きいものです。

高橋 そういう意味では、『軍艦島』は役割を果たしてくれたと思います。これまであまりご縁がなかったような、オシャレ雑誌、カルチャー誌といったところからもお問い合わせをいただいたりしたので。

──ネットの反応を見ると「さすがアオシマ」「目の付け所がアオシマらしい」といった評価もある一方、「色味が明るすぎる」「廃墟の雰囲気に欠ける」といった苦言も見受けられます

高橋 実物ではなく、写真を見て評価されている方も少なくないはず。ネットに出ている写真は私が試作品を撮影したものなので、実際の製品版の質感を十分に反映できていないんですよ(苦笑)。製品版は、着色の彩度を落としたりといったエイジング加工も施しているので、もっとくすんだ印象、軍艦島らしい世界観を感じ取っていただけるかと。

ディテール、質感、どこまでもこだわって"机上の軍艦島"が誕生した

この商品は、実のところネット予約だけで生産個数がほぼいっぱいの状態だったので、小売店などにディスプレイされる機会はまずなかったと思います。だから、話題にしていただいたものの、実物を見た方が非常に少ない。本当は、もっとたくさんの方々に実物を見ていただければよかったのですが。

──今後も同系統の製品は展開されるのでしょうか?

高橋 いまのところ、具体的にお話しできるものはありません。ただ、アイデアはいろいろと練っていますよ。個人的に、古い町並みとか歴史的な建物などは関心のある領域なので、広く展開できれば嬉しいですけどね。これまでもアオシマは『徳川戦国絵巻』『建築ロマン堂』『時代画報』といった時代モノ、町並みモノのジオラマシリーズを出していますし、伝統的にこの系統は得意にしているジャンルです。『建築ロマン堂』の団地は、Nゲージ鉄道模型のジオラマ用途などでジワジワ売れています。通販専売で『けいおん!』のデカールを付けた『痛団地』仕様もありました。

青嶋 この手のアイデアは企画会議でもいろいろ上がってくるんですけど、正直、賛否両論ですから。いくら"ニッチのアオシマ"でも、社内でキワモノ企画を通すのは、実際のところ大変なんです(苦笑)。

──ダムとか面白そうですよね

青嶋 いや、ダムは実際に企画したことがあるんです。サンプルまで作ったんですけど、仕上がりがイマイチだったもので、一同のモチベーションが急激に落ちてしまい、頓挫しました。まあ、そういうケースもあるということで。

……インタビュー中編へつづく