青島文化教材社インタビューシリーズ

■第1回:チャレンジとバランス、『軍艦島』に見るアオシマ的商品企画の裏側
■第2回:ニコ動で感じた"売れる"確信──『はやぶさ』に見るアオシマ的機動力
■第3回:青島文化教材社は大まじめなんです!──プラモの面白さを求めつづける会社

「またアオシマか!」のアオシマに聞きたい!

ミリタリー系や自動車などの硬派なスケールモデル、有名アニメに登場するロボットなど版権キャラクターモデルが跋扈する昨今のプラモデル市場にあって、一貫して異彩を放ち続けているメーカーが存在する。青島文化教材社(通称アオシマ)。自由かつ奇抜なアイデアを感じさせる商品たちは、「ニッチが得意なアオシマ来た!」「またやってくれたぜアオシマ!」といった論調でネットなどでも話題になることも多く、プラモユーザーから業界関係者に至るまで、その動向からついつい目が離せなくなってしまうメーカーなのである。

静岡県には多くのプラモデルメーカーが存在するが、その中でも異彩を放ち続けているのが青島文化教材社だ

『軍艦島』『小惑星探査機 はやぶさ』『痛車』『大間のマグロ一本釣り漁船』……アオシマが最近送り出してきたユニークな商品たち。今回は主に『軍艦島』と『はやぶさ』を切り口にしながら、アオシマの商品企画力にスポットを当ててみようと思う。"なぜか心に刺さってしまう"商品たちを生み出す秘密とは何か? それを探るべく敢行したロングインタビューの模様を全3回構成でお届けしよう(最後にはスペシャルプレゼントも!)。

アオシマプロダクツを生み出す企画担当者に話を伺った。写真左より、青島文化教材社 企画開発部 部長 青嶋大輔氏、企画開発部 高橋誠氏、企画開発部 長谷川健氏

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──今回はアオシマのユニークな商品企画に迫る!という趣旨でお話をうかがっていきたいのですが、2010年もアオシマらしさ炸裂の商品が数々リリースされました。『はやぶさ』の大ヒットや『軍艦島』のインパクトなども記憶に新しいところです

青嶋 ありがとうございます。でも、当社としては身に余るというか、せっかく「企画力」みたいなテーマでご注目いただいたのに、ぜんぜん大したことはしていない感覚なので、ご参考になるようなことをお話しできるか甚だ不安なんですが(苦笑)

──高橋さんは『軍艦島』の企画担当とのこと。そもそも何故、軍艦島に目を付けられたのでしょうか?

高橋 そうですねぇ……実は、コレ! という端的なポイントってないんですよ。いちばんは、2009年から民間人でも軍艦島の一部エリアに上陸できるようになったことでしょうか。それに合わせて、写真集が話題になったり、ネットで訪問記などが掲載されるようになり、一般的な知名度がジワジワ上がってきていた。また、戦前戦中の遺構など、これまであまり注目されてこなかった歴史的遺産への関心の高まりとか、廃墟ブームのような動きが近年あったと思うのですが、そういうニーズに応える立体物やジオラマのような商品って意外とないよな、と感じていたんです。

各方面で話題をさらった、まさかの商品『軍艦島』

でも、正直に言ってしまうと「なにか気になる」という直感というかひらめきが最初のひっかかりだったりするんですよね。

青嶋 『大間のマグロ一本釣り漁船』にしても『軍艦島』にしても、緻密にマーケティングしてリリースしたようなものではないんです。というか、そんなことをしていたら世に出ていないかも。

企画会議は、企画、営業、経営の面々が集まってワイワイやるわけです。「そんなの売れないよ!」「あ、面白いねそれ。やってみよう!」なんて、割とベタに進む。これがアオシマの伝統だったりするんです。市場リサーチとかマーケティングを意識してこなかったわけではないのですが、決して十分だったとはいえない。だから、今後の課題として、いま鋭意取り組んでいるところです。

ただ、一方でキワモノっぽい、突拍子もないような企画は、発案者の思いつきというか「これ、面白くないですか!」という勢いや熱意で通ってしまう側面も少なくない。ウチの企画会議では、ひらめきや考えを自由に表現して、柔軟にそれを揉んでいくような土壌がもともとあるんですね。

高橋 企画者の主観にかぎりなく頼った形、「これ、気になるんです」というひらめきから企画が具体化してしまうことが多いのは確かです。もちろん、記事や文献などの資料とか、コストや売上の試算といった、裏付けとなる材料は揃えます。ただ、ガチガチに数字ありきで進めてはいない。「写真集が売れているらしい」「ネットで妙に盛り上がっている」といった、生々しいトレンドが企画のヒントになって、こういう立体物があったらウケるんじゃないか、とひらめいたりする。ビジネスの形で成立させられるのかどうかのジャッジは重要ですが、それを意識しすぎると企画に落とし込むのは難しいです。むしろ意識しているのは「何か気になる」「どうも匂う」という嗅覚。それをプレゼンで納得してもらえるよう、後付けで材料を集めるみたいなところがあるかもしれません。……つぎのページへ進む