──"十夢"って本名なんですよね? 本書にも「十夢という名前を与えられたことによって、ユニークな発想をしなくてはいけないという強迫観念が幼少期からあった」「それが今の仕事に直結している」という記述があります

川田 はい。小学生のころ、親の仕事の関係で転校が多かったんですけど、「トム」という音の響きだけで外国人と思われて、姿を見せたら「んだよ日本人かよ!」なんて陰口を叩かれるとか、名前絡みで何かと人生を左右されてますね(笑)

さらに、転校を重ねたことも、いまの自分に大きく影響しているところがあるんです。「転校生」って実はとんでもないスキーム。転校初日は、その後のすべての学校生活がかかってくるワケです。クラスメイトの容赦ない視線が一点に集中するその日に、どういう印象付けができるか。そこでホームランを飛ばすのか、シングルヒットなのか、空振りするかで、これからの学校生活が決まるのだから、とんでもない岐路なんですよね。

要するに、第一印象でどれだけカマせるかが勝負。かなり早い時期からそのことに気付いていたから、たとえば教室へ担任の先生と一緒に向かう前の職員室とかで、すごい集中力で周囲を観察して、変な口調の先生を見つけて瞬間的に特徴を覚えたり。その先生の口調を、最初の自己紹介のときに真似したりしてました。

──まさか、それがプレゼンでの印象付けとか、発想の瞬発力とか、いまの仕事につながっている、みたいな話なんですか!?

川田 いや、冗談じゃなく、そういう一面はありますよ。ただ、そこで大きく空振りすることもある。激しくスベって大失敗とか。そうなったらもう、休み時間はずっとひとりで席に座って本を読んでいるような子どもに大変身です。極力、存在を消して過ごす。で、心の中で「早く転校してぇ……」って常に考えている(笑)

そういう「転校生」人生で磨かれた二面性みたいなものは、いまの自分に確実につながっています。人前に出て調子よくしゃべったりする一方で、机にへばりついて黙々とプログラミングする、みたいなことが自分の中で違和感なく共存している、みたいなことですね。

──現在、ご自身が代表を務めるクリエイティブチーム「ALTERNATIVE DESIGN++」をベースに、「AR三兄弟」という名前で活動を展開していますが、ご自身を狂言回し的に露出させながら、わかりやすくARを紹介していく姿勢が特徴的です

AR三兄弟の企画書』(川田十夢 著/ 日経BP社刊)

川田 まあ、三兄弟といっても、他の2人は同僚ですからね。それがいきなり「オレたち、今日から三兄弟だから」と、ヘルメットかぶせられて、ステージに上がったり、動画に出演したりする。この無茶ぶり感とか、一発勝負感って、「転校生」感覚に近い。それに対応していこうとする2人の姿を傍で見てるのも面白いんですよ。場面場面で、どんどん違う一面が出てきたりするから。

自分を狂言回しに、という話でいうと、確信犯的にそうしているところがあります。僕らが手掛けているARの技術って、裏側はゴリゴリとしたプログラムの塊だったりするわけです。また、いきなり「拡張現実」と言われても、普通は意味がわかりませんよね。でも、技術の仕組みとか、呼称なんて最初はどうでもよくて、ARで「なんか面白い!」と感じてもらえることが重要。だから僕らの活動は、あえて柔らかい質感とともに受け取ってもらえるよう、常に意識しています。……次のページへ