講談社は20日、京極夏彦著『死ねばいいのに』を電子書籍化し、iPad / iPhone / PC向けに配信・販売すると発表。同社で行われた記者会見に、著者の京極夏彦氏が出席した。

『死ねばいいのに』著者の京極夏彦氏。紙による書籍は、1,700円(税別)で発売中

同書の電子書籍配信について、「iPadが私の本とあまり時期を違えずに発売されるということで、いい機会だと思って実験台にかって出た次第であります」と話した京極氏。電子書籍が台頭することによって「紙の本がなくなるのでは」と懸念する声も多くあることに触れ、「紙の本は、非常に優れたメディア。プラットフォームは不要で、字さえ読めれば誰でも、どこでも、いつでも読むことができる。紙の本が無くなるということは、現実的には考えられないと思っています」と話し、「紙の本と電子書籍は食い合うものではなく、新たな財源として補完しあえると思っています」と、電子書籍に期待する想いをうちあけた。

また、「出版社が要らなくなるのでは」という意見があることについても、「装丁も版面もフォントも、書籍の文化の中で読者のために作り上げられてきたソフトであり、ハード。そして、そのほとんどを作ってきたのは出版社で、ルビをふったり読みやすいレイアウトにしたり、フォントを選んだり、テキストを"書籍"にする努力をしているのも出版社。それが電子書籍になったら要らなくなるとは思えません」と意見を述べ、「そういう文化的な付加価値を"テキスト配信だけでいい"と捨ててしまうような暴挙は、僕にはとてもできない。出版社あっての小説家だし、出版社あっての読者だと思っています」と、出版社の役割の重要さを語った。

電子書籍でこだわったのは、「単にテキストを配信するのではなく、きちんとした"書籍"として出版できるのか」ということだという京極氏。iPad向けに開発された講談社のアプリケーションについて、「まだ発展途上で完成されたものではありませんが、書籍として最低限満足できるものになっていると思います」と話した

なお、iPad / iPhone /PCへのダウンロードは、配信開始から2週間はキャンペーン期間として700円、その後は900円で提供するとのこと(PC版のみ税別)。配信開始時期は、現在アップル社の認可待ちのため未定だが、6月上旬を目指しているという。また、同時に、携帯電話でもテキスト配信をする予定で、こちらは1章毎に105円で提供。冒頭の1章については無料でダウンロードが可能となる。

『死ねばいいのに』は、死んだある女に関わりのあった人物を、女の知人であった男が尋ねていくというもの。「死んだ女のことを教えてくれないか――」。男に問いかけられた言葉に、登場人物達は、自身の嘘や業を暴かれ、剥き出しの真実を突きつけられていく。

「iPadという電子書籍を読むに足る端末が出たのは、電子書籍にとって大きなきっかけ」と語った同社の野間省伸副社長。「今回は価格等についても実験的な面が大きく、今後、市場を分析・検討しながらノウハウを積み重ねていきたい」と話した