オリジナリティはメモから生まれる!
――メモはビジネスにおいてどんな役割をになっているとお考えですか?
ビジネスの場では、一度終わった業務に関して、「あれってどうやるんだっけ?」と再現や説明を求められる機会が多々あります。その時に仕事の手順や内容をメモをとして残していないと、相手に説明することができません。また、打ち合わせで何も記録していなかったら、自分が話したことすら思い出せないかもしれません。どんなに記憶力に自信がある人でも、それだけに頼るのは危険です。
仕事で重要なのは「記憶よりも記録」。そのために必須となるのがメモなんです。しかしこのシンプルな概念を理解している人は意外と多くありません。著書で「社会人のノートは書いて忘れるために使う」と書きましたが、これはメモも同じです。何かに書いておけば覚えておく必要がないため、安心して他のことに集中できる。メモはビジネスの基本です。
――独自のノート術を確立されている美崎さんですが、試行錯誤した時期もあったのでしょうか?
新入社員の頃、「3日でやりなさい」と言われた仕事を2日で仕上げたことがありました。その時上司からかけられたのは「(できて)当たり前だよね」というひとことだけ。当時は「締め切りより早く仕上げたのになぜ?」と落ち込みましたが、いま思えば仕事の本質を全く理解していませんでしたね。
大切なのは、言われたことだけをスピーディーにやることではなく、そこに何かしら「自分のアイデアを加える」ことです。「あらかじめ指示されたこと」に「プラスしてやったこと」を付加して提出すれば、上司の期待を超えているので自ずと評価もされるもの。忘れてほしくないのは、「仕事は『価値を提供する』ものである」ということです。スピードも価値の一つではありますが、自分のオリジナリティを付加する方が重要だと私は考えます。
だからこそ、最初に指示されたことをメモし、どうすれば自分のオリジナリティを加えられるのかを考える―。逆に言えば、メモがないとオリジナリティを足せないわけです。こうした苦い経験から、私は意識的にメモをとるようになりました。
「タスク管理」と「アイデア出し」に最適
――こうした経験も踏まえて提唱されているのが、「3冊ノート仕事術」ですよね。
すべての情報を一元管理できればベストですが、私にはそれができませんでした。そこで、状況に応じて3種類のノートを使い分けるようになったんです。
- メモノート……常に携帯して思いつきを拾う。「タスク管理」「アイデア出し」に最適。
- 母艦ノート……情報のベースを集める仕事のメインノート。メモノートに書いた断片的な思いつきやアイデアを(ちぎって貼ることで)集約し、ふくらませていく。
- スケジュールノート……締切や進行管理をおこなう専用ノート。
この3冊を組み合わせることで、断片的な思いつきをプロジェクトに発展させたり、時間を意識しながら質の高いプレゼン資料にまとめたりすることができるようになりました。
――なるほど。「すべてのもとはメモノートから」という印象を受けますが、「タスク管理」と「アイデア出し」についても具体的に教えていただけますか?
メモノートはどんな状況でもサッと取り出せて、スピーディーに書けることが最大のメリットです。「タスク管理」ならやるべきことを極力最小単位でメモすることがポイントです。たとえば「銀行に○○の代金を振り込む」といった些細なことでもメモノートに書き留めておく。普通のノートに書くと紛れてしまいがちですが、メモノートであれば携帯性に優れているのですぐに読み返せます。処理後、記録しておく必要があれば、そのメモを切り離して母艦ノートに貼ればいいですし、ToDo的なタスクであれば、捨ててしまっても構いません。
「アイデア出し」のポイントは、アイデアを出さなければならない課題のキーワードだけを書き、通勤途中の電車やスキマ時間に見直すということ。乗換時のホームで電車が来るまでの数分間、「キーワードから連想するアイデアを一気に書き出す」方法もお勧めです。人は限られた時間であるほど、必死に脳を回転させて考えるもの。思いがけずたくさんのアイデアが出てくることも少なくないので、ぜひチャレンジしてください。
重要なのは、まだ考えが整理されていなくても、「思いつきでいい」と割り切ることです。メモノートはあくまでアイデアの種の受け皿。広い母艦ノートに貼ったアイデアが芽を出し、花が咲けば結果的にはいいのですから。
――メモノートにはどんなノートが適していますか?
私は、ポケットに入るA7サイズをよく使っています。通勤中に使うのであればリングタイプがおすすめ。いつも同じページを開いておけますし、表紙がしっかりしているので立ったままでも書くことができます。ミシン目で上下2分割される「ちぎって貼る」ことを前提にしたメモパッドも使い勝手がいいですね。
――お話をうかがっていると、「メモはちぎって貼る」ことが意外に重要なポイントに感じます。
企画のアイデアメモをわざわざ別のノートに清書している人がいますが、さっさとちぎって貼ってしまいましょう。時間を割かなければならないのは、きれいに書き写すことではなく、「アイデアを練ること」のはずです。メモはあくまで手段に過ぎません。大切なのは、「記録した情報をいかにスピーディーに結果につなげるか」です。
(撮影 : 中村浩二・イラスト : でこくーる)
INTERVIEWER PROFILE : 早川洋平 / KIQTAS(キクタス)
中国新聞社記者、全国紙系編集プロダクションのライターを経て入社した企画会社で2008年、良書の著者にインタビューするポッドキャスト「人生を変える一冊」をスタート。配信後2カ月でiTunes store podcastビジネスランキングで21日間連続1位を獲得、月間20万DLの人気番組に成長する。独立起業した現在は、インタビューやライティングに加え、ポッドキャストを軸にしたコンサルティング、コンテンツプロデュースなどを行っている。
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