ミッキー・ロークが2009年のアカデミー賞にノミネートされたって聞いて、「ウソだろ?」と思ったのはオイラだけじゃないはずだ。ミッキー・ロークといえば忘れられないのが「ネコパンチ」。アレさえなかったらなあ……。『ナインハーフ』のころはエロ格好良いイケメンで、日本でもCMに出まくってたのが、「ネコパンチ」以来めっきり目にしなくなっちゃった。

久しぶりにミッキー・ロークを見かけたのは『レジェンド・オブ・メキシコ/デスペラード』だったけど、最初見たとき誰だかわからなかった。着ぐるみか特殊メイクしてんだろ、と思ってたら生身とわかってビックリ。『スター・ウォーズ』のジャバ・ザ・ハットみたいになってましたから。

ここ10年くらいは整形ネタなどでゴシップ誌に登場するくらいしか出番がなかった御年56歳のミッキー・ローク。本作で見事すぎる復活を遂げた

そんなミッキー・ロークが久しぶりに主演し、アカデミー特殊効果……じゃなくて主演男優賞にノミネートされたのが『レスラー』だ。タイトルを見ておわかりのとおりプロレスのお話。まあ、あの体型じゃボクサーは無理だもんね。ローク演じる主人公ランディは「ザ・ラム」というリングネームでかつては人気プロレスラーだったが、寄る年波には勝てず、今じゃドサ回りで食いつないでいるという設定。まるでミッキー・ロークの人生にかぶってくるようなストーリーだ。監督のダーレン・アロノフスキーはミッキー・ロークのキャスティングをはじめから予定してたそうな。

この映画で描かれるのはプロレスでも最底辺の世界。もちろん勝負はガチンコなんかじゃなく「お約束」の連続だ。懐かしい「昭和のプロレス」の香りがする。あのころはおもしろかったなあ。古館伊知郎がアンドレ・ザ・ジャイアントを「一人民族大移動」と呼んで「一人でも民族大移動と呼ばれてるわけですが、どうですか小鉄さん!?」なんて無茶振りされて、言葉に詰まる山本小鉄…。あ、そんな話じゃなかった。

プロレスを続けるためにスーパーでバイト。学生のバイトに「ジジイもたもたしてんじゃねーよ」とか罵られたりしてるんだろうな…あ、目から汗が…

たとえばボクシング映画だと、試合前は控え室で「一人にしてくれ」なんてシーンになるところなんだけど、プロレスの控え室は打ち合わせと仕込みの場。対戦相手が発表されると「久しぶりー ^^」とハイタッチで挨拶して、さっそく「ここで蹴り入れて」と段取りを決めたり、他の試合とワザがかぶらないように「あ、そっち首締めるの? じゃあ違う決め技にしよう」なんてやりとりが交わされる。ほかにも、対戦相手とホームセンターに凶器に使えそうなフライパンを買いに行ったり、普段はメガネかけた優しそうな兄ちゃんが、実は大仁田みたいな有刺鉄線デスマッチ専門のレスラーだったりと、レスラーの仕事ぶりがユーモラスに描かれている。

子ども部屋みたいなポップな控え室でうなだれる。男臭そうな正統派の楽屋より寂寥感アップ

というわけでこの映画、けっこう悲惨なストーリーのわりには、なぜか全編ほのぼのとした雰囲気が漂う。これは撮影方法に理由があると思う。ハンドカメラを多用して、主人公が歩く後ろ姿を延々と追うカメラワークは、まるで「ネットカフェ難民の1日」みたいなドキュメンタリー番組を見ているよう。どアップで迫力の演技を見せるより、日常を淡々とカメラに収める方がリアルに見えてしまう─そんなテレビ世代の習性を読み切った演出はうまい! BGMも控えめで、時折かかるテーマ曲が非常に効果的だ。ちなみに主題歌はブルース・スプリングスティーンが歌っており、映画本編でも「やっぱ80年代の音楽はサイコーだよね」といった台詞とともに往年の名曲がかかる。

そしてミッキー・ロークもこの演出に応える自然体の役作りでうまくはまっている。というか、これなら素でできちゃうよなあ。相手役のマリサ・トメイも、単なるお客以上の存在になっていくラムにとまどいつつ、仕事とプライベートに揺れる役を控えめに好演。ラムの娘役のエヴァン・レイチェル・ウッド演じるレズっぽい不良娘も良い味出てます。この娘、ドラマ『プロファイラー/犯罪心理分析官』の主人公の娘役やってたよね? 外人さんは発育が早いなあ。そして怪獣みたいな容貌になったミッキー・ロークなのに、これら女優さんとからむシーンでは、昔エロ格好良かったころの片鱗が窺えるから不思議だ。顔が良いだけじゃ出ない色気もあるんだねえ。

マリサ・トメイ演じるストリッパーといい仲に

プライベートではマリリン・マンソンと付き合っていたこともある肝の座った21歳、エヴァン・レイチェル・ウッド

『レスラー』はシネマライズ、TOHOシネマズ シャンテ他にて全国ロードショー中

(c)Niko Tavernise for all Wrestler photo