毎回、すぐれたクリエイターをディレクターに迎え、斬新なテーマで、これまでにない展覧会を展開している21_21 DESIGN SIGHTだが、第4回企画展となる今回は、同館を運営する財団法人三宅一生デザイン文化財団とは大変近しい存在であるデザイナー・吉岡徳仁氏を迎え、"Second Nature~第2の自然"をテーマに、デザインの未来を考える『吉岡徳仁ディレクション「セカンド・ネイチャー」展』を開催している。会期は2009年1月18日まで。

21_21 DESIGN SIGHTにおいて第4回企画展「Second Nature」が開催中だ

吉岡氏の作品が展示されているメインの展示ギャラリーは、わずかな淡い青緑色とただひたすら透き通った白だけの静謐な空間になっている。まるでいきなり極北の大地に立たされたようでもあり、なにかの胎内にやさしく包まれているようでもある。大海原を前にした時にどこか懐かしさを感じる事があるが、この空間でもDNAがその記憶を沸き立たせるような不思議な想いを感じる。そして、まるで厳寒の海中から浮き上がってきたかのような、真っ白なオブジェがいくつか置かれている。中には水槽の中で形作られつつあるオブジェもある。それらのかたちは、まさしく「イス」だ。

デザイナー・吉岡徳仁は、これまで自身のデザイン表現において、自然そのものに目を向けたデザインを生み出してきた。自然をデザインに反映させると言う事は、ただ単に視覚的に自然を再現するとか、原理の表層のみを模倣するといった、単純なことではない。テクノロジーやアイディアを糧に、新たな自然のかたち、すなわち"第2の自然"をつくり出すものだと言う。本展覧会では、人の想像をはるかに超え、不思議な原理や働きを発想に取り組み、不思議な強さを秘めた自然そのものに改めて目を向け、人の心に訴えるデザインとはなにかを探る。こうした考えのもと、吉岡徳仁をはじめ、ロス・ラブグローブやカンパナ・ブラザーズ、東信、安部典子といった国内外8組のクリエイターが作品と五感に響く空間によって、「デザインの未来」に向けた実験的な提案を行なう。

吉岡徳仁 / CLOUDSーインスタレーション(2008)

インスタレーション / PVCビニールコート、金網

吉岡徳仁/ヴィーナスー結晶の椅子(2008)椅子 / ナチュラルクリスタル、ポリエステル繊維

前述した「イス」はクリスタルの結晶する性質を利用して制作した吉岡氏の最新作。ある溶液で満たした大きな水槽に、あらかじめイスの形に成形したポリエステル繊維の"骨組み"を入れ、ここに結晶の元になるものを付着させる。後は自然のままに結晶していくことで、イスの形に結実していく。吉岡氏が「半分は自分、半分は自然がつくる」と語っているとおり、骨組みや結晶するための環境づくりは人が手をかけるが、イスとして完成には結晶する性質=自然に任せるというわけだ。人が手をかけて育て、どういうものに結実するかは、最終的には自然が握っている。人が種を蒔き、水をやって育てるが、最終的に美味しさを得るには太陽や雨といった自然に大いに左右される。まるで農業のようではないだろうか? この一連の作業は、これまでのデザインワークという常識からは大いに逸脱する、まさしく未来のデザインを提起しているかに感じる。

吉岡徳仁 / ヴィーナスー結晶の椅子(2008)

椅子 / ナチュラルクリスタル、ポリエステル繊維

「ヴィーナスー結晶の椅子」に座る吉岡徳仁氏

ロス・ラブグローブ氏は吉岡氏とはまた違った視点ながら、自然の持つ性質を浮き彫りにしている。骨の細胞の構造をデータとして取り込み、これを3D空間の中で拡大する事で、細胞の持つ幾何学的な構造をクローズアップし、身体の1/5という重量で人体を支える究極の構造や組成を浮き彫りにしている。パソコン上に取り込み、ピクセル単位に置き換えられたデータは、拡大したり、捻ったり、引き延ばしたりし、プラスチックを使って、レーザー方式の3D切削機を用いて、実際に不思議な形の蜂の巣のような構造を持ったオブジェへと形作ったものが今回の作品群だ。今回の作品の取り組みは、人と言う自然からデザインの新たな方向性を学び取ろうというだけでない。その取り組みへの姿勢は、"オーガニックデザイン"という枠を飛び越え、自然の持つ形の秘密や必然を引き出し、医学や生物学、さらには哲学をも招きいれた、新しい学術分野をも生み出しそうな勢いを感じる。

ロス・ラブグローブ / CELLULAR AUTOMATION Origin of Species2(2008)

立体 / プラスチック

制作過程について図で示しながら熱心に語るロス・ラブグローブ氏

家具デザインに「変化」と「発明」という考え方を取り入れ、絶えず新しい可能性に挑戦しているフェルナンド&フンベルト・カンパナの兄弟は、藤を用いて、これに木や枝を編み込んだ作品『Cristalina』を出品している。サンパウロの街に落ちているものを集め、起用に使って編み込んでしまう鳥の巣のようだが、籐で表現された凹凸を持った全体から受ける印象は、ブラジルの風景なのだろうか、どこか山や湖といった自然のランドスケープを思わせる暖かみのあるものに仕上がっている。籐を編み込む作業は兄弟の監修しつつ、職人が作業を行なっている。兄弟が組み上げた作品の計画性と、職人の持つ舌を巻く複雑で精緻な技の即興性の出会いが面白い。

カンパナ・ブラザーズ / Cristalina(2008)

立体 / 籐、枝

ダンサーの森山開次と映像作家の串田壮史によるダンスと映像のコラボレート作品。輪廻(REINCARNATION)をテーマとしており、魂が肉体と融合して新たな存在へと変わって行く様を、森山のダンスを映像化した。死装束と覗き込む家族の顔など直接的な死のシーンから、魂が新たな生を受ける、という誰もが見た事のない、しかし、多くの人々が想像してきたものを、ダンスで表現するという究極の想像力を駆使した挑戦に目を見張る。

森山開次×串田壮史 / REINCARNATION(2008)映像 5分

国内でのプライベートギャラリーや海外での作家活動に忙しいフラワーアーティストの東信。今回、出品した作品は複雑な無限造形である五葉松を、幾何学的な規則性である氷の中に閉じ込めることで、そこに生じる摩擦により、自然状態の植物の存在を越えた可能性を探る「式2」、もうひとつは東の夢に出てくるという"葉っぱ男"と"葉っぱ女"『LEAF MAN』だ。

東信 / 式2(2007)立体 / 松(五葉松)、氷、冷蔵庫(東信式冷蔵庫)

東信 / LEAF MAN(2008)立体 / 植物、マネキン

近寄ってみるとまるでフィヨルドの土地に迷い込んだ巨人になったかのような錯覚をおぼえる。複雑で無数の凹凸で構成された地層のような本作『地のかけら』は、1999年より安部典子が続けている「線を引く・カットする行為」というプロジェクトの中で生み出されたもの。フリーハンドで描かれた線に沿ってカットしたユポ紙を1枚づつ積み上げていく気の遠くなりそうなものだ。しかし、この作業こそが自然が造形する様そのものをなぞらえている事に気付く。

安部典子 / 地のかけら Vol.4-7(2008)立体 / ユポ

中川幸夫 / 迫る光(1980)立体 / ガラス

流派を持たないいけ花作家として、花だけに留まらず書や写真でも表現活動を行なう中川幸夫は、もうひとつの表現領域であるガラスの作品『迫る光』を出品

片桐飛鳥 / ライト ナビゲーション(2004、2005)写真 / タイプCプリント

幼い頃から星に興味を持ち、12歳から星を撮り始めたという片桐飛鳥が出品したのは、光をテーマとして『ライト ナビゲーション』。星と聞けばどうしても夜空の星を思い起こしてしまうが、日の光も星が放つものであり、光は自然の源そのものと言える

ふと思い起こせば、私たちの人間は、常に自然の動きを読み、時には打ちのめされ、時には抗い、自然と常に対峙し、さまざまな事にあたってきた。ものづくりにしてみても、家具ひとつを作るにも、土を舐め、その時々の気候に気を配って素材となる木を育て、材木を削り出すのに木に向き合って作り出してきたのだ。こうした姿勢でのものづくりは本当についこの間までどこにでもあった。吉岡氏の言う"第2の自然"というのは、こうした人がデザインする上で、自然に向き合うというごく当たり前の姿勢を、新たな視点とちょっとしたテクノロジーを得ることで、見つめ直す作業のように見える。自然と向き合う事がデザインの本質なのではないか、という事を思わせる展覧会だ。