アートディレクター・浅葉克己氏をディレクターに迎えた『地球文字探険家 浅葉克己ディレクション「祈りの痕跡(こんせき)。」展』が東京ミッドタウン ザ・ガーデン内の21_21 DESIGN SIGHT(東京・六本木)において開催されている。会期は9月23日まで。

21_21の夏は文字一色だ

「祈りの痕跡。」展は、アジアの多様な文字文化に着眼し、文字と視覚表現の関わりを追求し、世界中の文字研究をライフワークとする浅葉氏が、地球文字探険家として世界中から集めてきた未解読の古代文字や少数民族の間で伝えられている珍しい文字の"痕跡"や、浅葉氏をはじめ著名なクリエイターたちが、未来を切りひらく文字デザインやアート、写真などで表現した"痕跡"といった、数々の「祈りの痕跡」=コミュニケーションの源流である文字の世界が表現されている。

展示会場には実にたくさんの文字が世界中から集められている。中国の少数民族・納西(なし)族の象形文字「トンパ文字」、ナスカの地上絵、エジプトのヒエログリフ、万里の長城・居庸関(きょようかん)の「西夏文字」をはじめとする6種類の文字、そして「世界の文字」、「世界の新聞」などなど。観覧者はあたかもこれらの文字の海を漂うかのように、過去、現在、そして未来の文字を目の当たりする。

ディレクターの浅葉克己氏

ディレクターの浅葉氏は「誰が最初に痕をつけたのか。僕の頭の中は、いつもその疑問から逃れることができない」と、「『書く』という行為ほど、人類に大きな影響を与えた発明はないと思う」と語る。地球文字探険家として、21_21 DESIGN SIGHTを文字で埋めつくし、独自の痕跡をもつ多くの人たちに参加してもらうことで、「現代のコミュニケーションの問題に一石を投じ、深い意味で北京オリンピックに対抗できる展覧会に」と意気込みを語っている。

『DANCING WATER』内田繁

本展にはアートディレクターの本領発揮とばかりに、各界の優れたクリエイターたちが浅葉氏に協力、参加している。グラフィックデザイナーの杉浦康平氏による『文字の靈力(れいりき)』、現代美術家の李禹煥(リ・ウーファン)氏の絵画作品『線より』、版画家・木田安彦氏が残りの絵具を使って描いた『不動曼陀羅』、グラフィックデザイナーの服部一成氏は吉と凶の文字をデザインしたポスター『おみくじ』、というようにアートとデザインの強者が勢揃いした。インテリアデザイナーの内田繁氏は『DANCING WATER』、浅葉氏とともに作り上げた『居庸関』の2点のインスタレーションを出展しただけでなく、さらに会場デザインも手がけている。照明デザインには藤本晴美氏が、会場音楽は三枝成影氏が担当している。

楠田枝里子氏所蔵の『パルパの模型』も出展

この他、1本あたり約1トンもある御影石に、新たに古代エジプト王の名前や冥界の神の名前を刻んだ『ヒエログリフ』7点の制作には、エジプト考古学研究の第一人者であるサイバー大学学長の吉村作治氏が協力している。また、『パルパの模型』は、世界に二つしかない貴重な模型で、ナスカの地上絵の保護運動に取り組んでいる司会者でエッセイストの楠田枝里子氏が所蔵するものだ。もちろん浅葉氏自身もトンパ教典「黒白戦争」を翻訳した新作をはじめ、実に数多くの作品を出展している。

『パルパの模型』(所蔵:楠田枝里子氏)

『ナスカ・パルパの地上絵』浅葉克己(協力:楠田枝里子氏)

『ヒエログリフ』浅葉克己(協力:吉村作治氏)

エントランスから地下1階に降りてくると、まず、浅葉氏と内田氏によるインスタレーション『居庸関』に出迎えられる。居庸関は春秋戦国時代に万里の長城上に造営された要塞で、3つの仏塔が立っていた「雲台」のトンネル内には、西夏文字をはじめ漢字、サンスクリット文字など6種類の文字が彫られている。北京を後にする長い旅路の出発点である居庸関に彫られていたのは、旅の無事を祈った書だという。これらのイメージを浅葉氏と内田氏が独自の解釈で再現したのが、今回のインスタレーション作品だ。古紙でつくられたハタキで頭の埃を払い、居庸関のトンネルをくぐり、いよいよ文字の世界を探険するのだ。

『居庸関』浅葉克己+内田繁 雲台をイメージしたインスタレーションと古紙でできたハタキ

トンネルを抜けると、すぐに目に飛び込んでくるのが、文字が書かれていない大量の封筒だ。これは棟梁だった神前弘氏が80歳で思い立ち、95歳まで毎日、ひたすらつくり続けたもので、5,000点にもなる。ここでは約700点を展示しているが、圧倒されるとともに、なにか人の熱のようなものを感じる不思議な作品だ。次にギャラリー1の「第一室 古今東西、思いを記した痕跡」の前には、狩野派の血を受け継ぐ狩野智光氏によるガラス作品『amorphous<光>2008』の美しさに目を奪われる。

『おじいちゃんの封筒』神前弘

『amorphous<光>2008』狩野智光

ギャラリー内に進むと、当代の優れた作家陣の手によるさまざまな痕跡が展示されている。まず、李禹煥氏の書のような絵画『線より』が印象深い。中央にある陶芸作品は沖縄の陶作家、大嶺實清氏の『家ー風の記憶シリーズー』、壁には木田氏の絵画『不動曼陀羅』。この作品は版画家である木田氏が版画制作の際に残った絵の具で描いたもので、会場には650枚が展示されている。また、写真家・石川直樹氏の『NEW DIMENSION』では先史時代の人々が洞窟に描いた痕跡を捉えている。

『家 ー風の記憶シリーズー』大嶺實清

『線より』李禹煥(所蔵:財団法人セゾン現代美術館)

『不動曼荼羅』木田安彦

『NEW DIMENSION』石川直樹