菌類のことが一から分かる特別展「菌類のふしぎ」が、国立科学博物館を会場に10月11日から2009年1月12日まで行われている。菌類と聞くと多くの人は悪い汚い生物という印象があるかもしれないが、私たちの生活に深く関係している生きものだ。パンやシイタケ、お酒、味噌、醤油などがその例。そんな身近な菌類の不思議について知ることができる展示となっている。

会場入り口は地上から地下へ

展示会場入り口

プロローグでは「もやしもん」のキャラクターがお出迎え

会場を少し入るとまず展示プロローグ。ここで目に飛び込んでくるのが菌類の悪いイメージを払しょくするような、かわいいキャラクターが出迎えてくれる映像コーナーだ。実はこれ、石川雅之氏のマンガ『もやしもん』(講談社)のキャラクター。今回の展示では「フィーチャリング『もやしもん』石川雅之氏 / 講談社」としてマンガで登場する菌類のキャラクターがナビゲートしてくれる。また随所で『もやしもん』に登場する「樹慶蔵」教授がパネル解説しているので、とても分かりやすく菌類について学ぶことができる。

プロローグ映像ではA・オリゼーが登場

展示の補足説明は「樹慶蔵」教授がふきだしで説明

日本初公開! 世界最古のきのこ化石を見逃すな

展示は大きく「菌類のことを知る」「触れる」「考える」の3つの要素で構成され、さらに7つの章、番外編に分かれている。「菌類のことを知る」で最初に紹介されるのは、菌の誕生について。ここでのポイントは何と言っても古代の菌類である「プロトタキシーテス」だ。この「プロトタキシーテス」は、直立すると9mにも達したらしい。また、日本初公開世界最古のきのこの化石「パラエオクラバリア」も必見。1億年前の琥珀(こはく)から発見されたこの化石は、日本初公開。肉眼でも琥珀の中が確かめられる希少な化石となっている。

「プロトタキシーテス」の大きさには驚きだ

「プロトタキシーテス」の切片と化石

琥珀化石を解説

日本初公開、世界最古のきのこの化石「パラエオクラバリア」

菌類の正体は……?

菌類の分類のコーナーでは、菌類の学術的な分類についての説明と、きのこの形態についての違いを知ることができる。まずは菌類の3つの分類、「坦子菌類」、「子嚢(しのう)菌類と不完全菌類」、「その他の菌類」の説明があり、それに沿う形で約300点の菌類標本が並ぶ。このコーナーで特筆すべきは、その展示方法だ。皆さんは「標本」というと乾燥したものを連想するかもしれないが、このコーナーの標本は「樹脂含浸(じゅしがんしん)」という手法で展示されている。樹脂含浸は、凍結乾燥した標本を透明な樹脂に浸透させることで天然に近い状態で保存できる標本だ。

樹脂含浸(じゅしがんしん)による標本。本当に生えているような、きのこの標本が並んでいる様は圧巻

菌類の分類解説

とてもきれいなキヌガサタケ。この他にもふしぎな形をしたきのこがいっぱい

ちなみに菌類と言うと、きのこ、カビ、酵母、が主として考えられており、細菌類(バクテリヤ)は菌類ではない。納豆やヨーグルトを作っている細菌類、また形を変えるアメーバのような粘菌などは変形菌として分類され、菌類と誤解されやすい生物として紹介されている。なお、納豆は故草菌、ヨーグルトは乳酸菌の働きでできているが、いずれも菌類の仲間ではないとのこと。是非、その違いを同館にきて確かめてほしい。

誤解されやすい生物を紹介

菌類の豆知識も盛りだくさん

また、各展示には各分類に関連した人物、文化、食品など菌類に関わるミニコーナーがあるので、より身近に菌類のことを知ることができる。たとえば坦子菌類では、シイタケが日本で初めて、産業として生産できるようになったきのことして紹介し、昔使った栽培の道具などを並べて展示している。子嚢(しのう)菌類と不完全菌類では、味噌や醤油、日本酒などに欠かせない麹のことを知るコーナーもある。ちなみに麹を作る麹を種麹(たねこうじ)と言うのだそうだが、これを別名「もやし」といい。「もやしもん」の「もやし」はここからきているのだそうだ。

シイタケの紹介

種麹(もやし)についての解説

菌類に触れてみよう

菌類に「触れる」ことができるテーマもある。「きのこのにおいを嗅いでみよう」というコーナーでは、「カビ臭」「トリュフ臭」「マツタケ臭」などを嗅ぐこともできる。また「キクラゲ」「ツリガネタケ」など感触に特徴のあるきのこを、実際に触れるコーナーも設置してあった。

臭いを嗅いでみようコーナー

マツタケ臭はやはりこの時期には欠かせない良い香りがする

キクラゲ

ツリガネタケの表面はごつごつしている

きのこって光る!「ヤコウタケ」で確かめて

その他、不思議な発光能力を持つきのこの代表「ヤコウタケ」の実物展示コーナーもある。また栽培が難しくてどうしても光らないときもあるそうだが、幻想的な輝きをできればチェックしてもらいたい。

光る菌類を解説しているコーナー

幻想的な「ヤコウタケ」。光るメカニズムはまだ解明されていないらしい

菌類が自然界の中でどのような働きをするかをテーマにした展示では、菌類の生活を寄生、共生、腐生の3つに分け、そのライフスタイルを円形に配置。一連の流れがより理解しやすいものになっている

今回の展示会に合わせて、国立科学博物館でしか発売されない限定フィギュアが販売されている(限定数のため売切れの場合あり)。写真は「A・オリゼー」「P・クリソゲヌム」「S・セレビシエ」のフィギュア

開会式では「もやしもん」作者石川雅之氏が挨拶

開会式には『もやしもん』の作者、石川雅之氏も駆けつけた。テープカット前に行われた挨拶では「僕はマンガ家なので、見に来てくれる人が楽しめればいいなということだけを考えました。(今回の)展示はすべてダンボールの素材を使っています。なので、 (会場を)回ってマジックで落書きをしてみました。ちいさな子供たちが、落書きを見つけて暇つぶしができて、大人も子供も楽しんで帰ってもらえたらなと、いろいろ考えてみました」と語った。

テープカット

挨拶をする石川雅之氏

挨拶で紹介された落書き、この落書きはキクラゲの展示のところにあった

今回展示を担当した国立科学博物館(植物研究部)細矢剛氏は展示会の目的について「菌類と言うのは市民権のなかなかない生物ですから、菌類の市民権を向上すると言うのを(私は)科博での活動の命題にしています。菌類が細菌類やウィルスと混同されず、悪い生物だと思われないようにする、これが第一(の目的)です。菌類が形の上でも働きの上でも多様性に富んだものだ。と、理解してもらいたいと言うのが私のメッセージです」と話した。

展示を解説する細谷剛氏

特別展「菌類のふしぎ」

開催期間 2008年10月11日(土)~2009年1月12日(月・祝)
会場 国立科学博物館(東京・上野公園)
開館時間 午前9時~午後5時 ※金曜日のみ午後8時まで。入館は各閉館時間の30分前まで
休館日 毎週月曜日(祝日の場合は翌火曜日)、12月28日(日)~1月1日(木・祝)
入館料 一般・大学生 当日1,300円(1,200円)、小・中・高校生 当日500円(400円)※()内は、前売りおよび各20名以上の団体料金

撮影・レポート : 中村浩二(多様性生物希少標本ネットワーク)