若手実力派女優として名高い松たか子と鈴木杏が競演した舞台『SISTERS』が10月13日、WOWOWにて放送される。演劇ユニット「阿佐ヶ谷スパイダース」の主宰として活躍する長塚圭史が作・演出を務め、東京・渋谷のパルコ劇場にて7月から8月にかけて上演された同公演の模様をご紹介したい。

テーマは"家族"

同作は、劇作家・演出家・俳優として多方面で活躍する長塚が、『マイ・ロックンロール・スター』(2002年)、『ラストショウ』(2005年)に続き、3年ぶりにパルコ劇場へ書き下ろしたオリジナル作品。これまで"家族"をテーマに新作を発表してきた彼が、今回は"近親相姦"というタブーに取り組む。

「ちょっとハイになって創っているところがある」とは長塚の弁

物語の舞台は、とあるさびれたホテル。このホテルの女主人である操子が亡くなったことでホテル内の均衡が崩されていく。操子の死後、経営困難に陥ったホテルのために彼女の夫・三田村優治(中村まこと)の従兄弟である尾崎信助(田中哲司)は、新妻の馨(松たか子)を連れてやって来る。そこで馨はホテルに住む操子の兄・神城礼二(吉田鋼太郎)とその娘・美鳥(鈴木杏)に出会い、封印していたはずの過去の記憶に支配されていき――。

松たか子が見せる"狂気"

同舞台の見どころは、2007年度読売演劇大賞・最優秀女優賞などを受賞し注目を集める松と鈴木の2人が見せる演技バトル。松演じる馨の悲壮感漂う感情吐露が観客の視線を捉え、果たして何が"異常"なのだろうか……? と観る者を濃厚な世界へと引きずり込んでいく。舞台上で、せわしなく手鏡をチェックする馨の仕草ひとつをとっても観客の心をざわめかせ、決して癒えることのない過去の傷を認識させてくれるのだ。

長塚作品初登場となる鈴木の演技も見応え十分

ただ若手女優の活躍もさることながら、吉田、梅沢、田中、中村ら脇を固める芸達者たちの存在も忘れてはいけない。実際、一筋縄ではいかない際どい役どころを巧みに演じきる彼らの力量が、この舞台を底上げしてくれているといってもいいだろう。

とりわけ注目したいのは、ホテルに長年務めている従業員で、死んだ操子の親友であった真田稔子(梅沢)の危うさ。「稔子の台詞を聞けば聞くほど、僕の想像力は大きく膨らみ、彼女の存在がこの作品に必ず強く作用するはずだと確信しました」と長塚から絶大な信頼を得ている梅沢が、精神に異常をきたしているという設定を超えた"狂気"を見せてくれる。

「最終的に希望を見出して欲しいけれど、皆様に委ねようと思います」と松

さらに舞台上では、ダークトーンの背景に鮮烈なイメージを与える真っ赤な彼岸花が"死"を語るモチーフとして象徴的に使用されるなど視覚的にも訴える仕掛けが多数用意され、ラストまで目が離せない。「あったことをなかったことのように話すのは難しいのよ」。劇中で繰り返し馨が口にするこの台詞に潜む真実とは……? 舞台に足を運んだ人も、そうでない人も、長塚による渾身の力作をぜひ番組で味わっていただきたい。

『SISTERS-シスターズ-』は、WOWOWにて10月13日24:00より放送。