ソムリエと言えば「ワイン」を思い浮かべるが、最近は「野菜ソムリエ」「フードソムリエ」など「○○ソムリエ」という言葉をいろいろと耳にするようになってきた。今回取り上げる「温泉ソムリエ」もそのひとつ。新潟県旅館組合が登録商標を取得しているもので、温泉の基礎知識を身につけ、入浴法のアドバイスができる人を認定する制度である。

この「温泉ソムリエ」の名付け親、上越教育大学大学院准教授清水富弘氏による講演会が、7月16日、ヘルスツーリズムセミナー(NPO日本ヘルスツーリズム振興機構主催)において行われた。

講演では足湯により、歩行後の乳酸値が低く抑えられることなど、さまざまな実証結果が報告された

大切なのは、3つのキーワードのバランス

清水氏は、温泉を含む保養地での"健康キーワード"は「湯・探・歩」の3つだという。「湯」は「医学(自然療法)に基づいた温泉や風呂の入浴法」。「探」は「伝統・工芸などの文化や美の探求(特に食文化、栄養、薬膳)」。「歩」は「五感を意識し、快刺激を味わう散歩」を意味している。

「湯・探・歩」は、「自分に適したペース、快適な環境で長く続けられる健康法である」ことも清水氏は強調する

さらに一般的な健康づくりのキーワードとして「三養(休養、栄養、動養)」をあげ、先ほどの「湯・探・歩」と結び付けている。「湯」は「休養」、「探」は「栄養」、「歩」は「動養(運動医学に基づいた適度な運動のこと)」と重なり合う。つまり、温泉に入浴する「休養」、食事の「栄養」、散歩やウォーキングなどの「動養」の3つがバランスよく組み合わさった健康法が「湯・探・歩」の意味するところ。また、「三養」は組み合わせることで、複合(シナジー)効果も得られるという。例えば、食事前の入浴法(休養+栄養)としては、半身浴やぬるめの足湯。散歩の疲れが出にくい散歩前の入浴法(休養+動養)としては、足湯やぬるめの腰浴などが、より効果が期待できる。

「温泉ソムリエ」を目指したい人は

「温泉ソムリエ」は、妙高市地域の町おこしの一環として、2002年頃より構想され、市内の赤倉温泉を中心に展開してきた。現在も、赤倉温泉での「温泉ソムリエ認定ツアー」が開催されているほか、東京での特別講座なども実施されている。(詳細については、専用サイト参照)

温泉ソムリエの認定証

赤倉温泉での認定ツアーは1泊2日、東京での講座は1日の日程。開催日は随時決定されるが、だいたい月に1回のペースで実施される。定員は、赤倉温泉は25名、東京は40名。受講を希望する人は専用サイトの募集ページから、メールにて応募する。同ページからメルマガに登録しておけば、より確実に講座開催の情報が入手できる。

「温泉ソムリエ」として主に学ぶのは、温泉そのものについてと入浴法だ。温泉と聞くと、つい泉質の効能成分ばかり気になってしまいがちだが、より基本的で幅広い知識も「温泉ソムリエ」は習得する。

大きなポイントとなるもののひとつに温泉の「温熱効果」があげられる。42度以上の熱い温泉では交感神経が優位となるため緊張、興奮状態となり、ぬるめの温泉(37~40度)では副交感神経が優位となることでリラックス状態になる。心身を目覚ましたい、気分を落ち着けたいなど、目的によって温熱の選択も変わってくるわけだ。ちなみに、日本人が最も気持ちが良いと感じる温度は42度とされる。

また半身浴、足浴などの入浴姿勢に関連した「水圧効果」も重要。水圧が体にかかることでマッサージの状態となり、内臓運動が促進される。血液やリンパ液の流れが良くなることは確かだが、肩まで湯に浸かった場合は、体全体に500キロから1トンもの水圧がかかる計算になるという。

熱すぎるお湯や全身浴が必ずしも体に良くないことは、しばしば耳にするようになってはいるが、「温泉ソムリエ」の講座はそれらの基本的な知識を確かなものにしてくれるようだ。「三養」の組み合わせなど、清水氏の話もより深く理解できるに違いない。

なお、「温泉ソムリエ」は健康に有効な入浴法のアドバイザーではあるが、同時に入浴の危険を避けるためのアドバイザーでもあるといえる。というのも、脳卒中や心筋梗塞などによる入浴が原因の死亡者は年間1万人を超えるとされているためだ。この「温泉ソムリエ」のような温泉(入浴)の知識を持ったアドバイザーという資格は、今後、全国的に広がっていくべきかもしれない。