東大駒場キャンパスに富野節が響き渡った。去る6月14日に催された富野由悠季監督と東大工学部教授陣らによる公開ディスカッションでのことである。この中で、モビルスーツは、ニュータイプは、スペースコロニーは、どのように語られたのか?!

富野由悠季監督と東大工学部教授陣

東大駒場キャンパスの講堂は、このように満員に

ディスカッションは、東京大学工学部広報室の内田麻理香特任教員の進行で行われ、議論は司会者から富野由悠季監督への質問という形で幕を開けた。内田氏はここで、「『機動戦士ガンダム』シリーズ、私が観たのは、『逆襲のシャア』だったんですけれども、中学時代にスペースコロニーを作りたいと思いまして、理系を志したという経緯があります(笑)。で、そのことを監督と打ち合わたときに話しましたら、監督はスペースコロニーは無理なんじゃないかと、ここ何年か思っているとおっしゃられて、私はかなりショックを受けたんですけれども(笑)。まず、なぜ無理と思われるか、というあたりからうかがえますか」と切り出した。以下は、富野監督のコメント。

富野監督

「何本か『ガンダム』シリーズを創っているときに、スペースコロニーを舞台にして劇を作る、つまりそこで暮らしている人を動かすということを仕事にしているわけです……っていうことは、かなりリアルにシミュレーションしているというふうに、自分自身も理解できるようになりました。ですから、『ガンダム』も創り続けてきたために、そういう頭の構造になってると思います」

「で、今から10年ぐらい前に確定したというのは、"あ、スペースコロニーのような構造では、絶対に1000年、2000年という単位で人が住める構造体にはなり得ない"ということが分かりました。これが現在の技術をもってしても、現在の最高の金属工学のようなものを利用して、お金のことも一切合切考えないで好きに作れる、というふうに思っても、重力が1Gの円筒でそれが回って発生した慣性重力、つまり擬似重力の空間が1000年もつのか、2000年もつのかというふうに考えたときに、外壁の部分に宇宙線、つまり放射能の遮蔽板まで作ることを想定する。その部分でいえば、例えば外壁に鉛を使わなければいけなくなってくるわけです。それも恐ろしい話ですけれども、厚さが10メートルとか20メートルです」

「そういうもので完璧に放射線を遮蔽することもできないかもしれない。よしんばそれができたにしても、基本的に擬似重力なんです。それで中が空洞なものです。そんなものが工学的に作れるものなら、作ってみせてください(場内笑)。それを可能としなければいけないのは、皆さん方の世代です。我々の頭ではそんなものはできない、というふうに思ってます。で、そこから何を考えるかというと、地球という球体で質量をもっていると。今、地球の表面で我々の体が音速以上で移動してるんですって。空気も一緒に動いてますから感じてないだけのことで。だから僕、本当に自分でも感動するんです。ある時、海でもいい、山の中でもいいです。音速を超えた速度で我々が移動している中で、"シーン"ていう空間。工学が進むべきことと、それから、そんなとてつもないことは工学的にはできないんだっていうことで、どちらに皆さん方の感性を振るうかっていうことの問題が一番大事な問題で、可能な部分は僕はやっぱりあると思っています」