医師の処方箋がなくても薬局・薬店で購入できる市販薬の販売制度が2009年度から大幅に変更になる。それに伴い、日本OTC協会主催のプレス向け説明会が8日、都内で開催された。

一般に市販薬、大衆薬などと呼ばれる医薬品はこれまで、医師の判断に基づき処方される「医療用医薬品」に対して、「その他医薬品」として薬事法上取り扱われてきた。しかし、2006年6月に薬事法改正により、市販薬は「医薬品のうち、その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであって、薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているもの」と法律で定義されることになり、正式に「一般用医薬品」と位置づけられることになった。

薬事法改正によるOTC医薬品についての位置づけ

OTC医薬品のロゴマーク。該当製品の外側などに表示される

一般用医薬品は業界用語で、カウンター越しに薬を購入できるという意味の"Over the Counter"の頭文字をとった「OTC医薬品」とも長年呼ばれてきた。今回説明会を行った日本OTC医薬品協会では、今後は市販薬の名称を「OTC薬品」に統一して使用することを2007年8月に決定し、ロゴマークの制定とともに発表している。


薬事法改正に基づき、OTC医薬品の販売制度は早ければ2009年4月にも完全移行すると言われている。新制度では、OTC医薬品は第1類から第3類まで、リスクの程度によって分類され、外箱への表示や、区分に応じて店頭での陳列、専門家による情報提供と相談が必要となる。最もリスクが高いとされる第1類医薬品は、書面による情報提供が義務付けられ、対応する専門家は薬剤師に限定される。これに対し、第2類は情報提供について"努力義務"とされ、第3類は情報提供に対する法律上の規定はなく、いずれも薬剤師のほかに登録販売者が対応することになる。

日本OTC医薬品協会・大江氏

今回のセミナーでは日本OTC医薬品協会で広報委員長を務める大江方二氏が出席、OTC医薬品について説明した。同氏によると、OTC医薬品の第1類から3類までの明確な定義づけは、薬事法、検討部会、専門委員会でそれぞれ行われているという。しかし「不明解な法律用語では一般消費者にはわかりにくい。協会ではそれをわかりやすく説明できるような文章を現在検討している」(同)とし、OTC医薬品利用者となる消費者に向けた取り組みを語った。

OCT医薬品の新区分

新制度による医薬品の販売形態

OTC医薬品の新しい販売制度への移行には、日本の医療体制が"セルフメディケーション"へ向かうことが期待されている。セルフメディケーションとは、健康管理や軽い病気・ケガなどの手当てを自らの判断で行うことで、それを支えるのが薬局で気軽に買えるOTC医薬品の活用だ。「欧米に比べて日本の外来受診回数は突出して多い。医師ひとりあたり年間7,000人の患者を抱える日本に対して、アメリカでは1,600人というデータもある。"とりあえず医療機関へ"という日本に対して、欧米ではセルフメディケーションの考え方が定着している。今回の新制度により、日本人にセルフメディケーションの意識を浸透させる契機になれば」と大江氏。

新制度による医薬品の販売形態

また、各地の薬局・薬店のPOSデータによる小売店パネル調査を行っているインテージ・マーケティングソリューション部SDI担当部長の時田悟氏が「OTC医薬品動向の推移」と題したプレゼンテーションも行った。時田氏によると、2007年度のOTC市場は1兆1,800億円。対前年比102.3%となり、それまで縮小傾向にあった市場が2006年度以降連続して増加し、復調傾向にあるという。中でも好調なのは漢方薬、整腸薬、滋養強壮剤で、中高年をターゲットにした商品が市場を拡大している傾向にある。特に漢方薬は過去5年間で7割近い売り上げの上昇が認められている。それに対して低調なのは、胃腸薬、ドリンク剤、水虫治療薬。その要因について、時田氏は「胃腸薬は暴飲暴食機会が減少するなど、服用する機会が減っている。ドリンク剤はアミノ酸配合など機能性を訴求した清涼飲料が増加するなど、消費者の選択肢が多様化しているのも一因。水虫治療薬は、薬そのものの治療効果が上がり、1日1回の使用で効果を表す製品が増加したため」と分析した。

今後のOTC医薬品市場について、時田氏は「スイッチOTC薬」がカギになると予測する。スイッチOTCとは、これまで医療用でのみ使用が認められていた薬品成分の中で、比較的副作用が少なく、安全性の高い成分についてのみ一般薬への配合が許可されたものだ。よく耳にする胃腸薬の「H2ブロッカー」や、湿布など外用剤として筋肉痛・関節痛薬などに用いられている「インドメタシン」、かぜ薬にも配合されている解熱鎮痛剤成分の「イブプロフェン」などがこれに該当する。時田氏によると、中でも今後の市場活性化に期待できるものとして注目されるOCT成分には、かぜ・痰の特効成分「アンプロキソール塩酸塩」、禁煙補助の「ニコチン」、女性の頻尿に効く「フラボキサート塩酸塩」、膣カジンダの「イソコナゾール硝酸塩」が挙げられるという。

国としても医療費の削減が問題視される中、新制度への移行により適切な医薬品を薬局等で購入する"セルフメディケーション"の道が開かれていくのか。業界だけでなく社会全体への普及、浸透がカギとなりそうだ。