脚本からキャスティングまで - 状況を踏まえたうえでのこだわり

こうして『賽ノ目坂』に着手することになった高須氏。作業はまず、限られた撮影時間と予算で作ることのできる世界を考えることから始まった。

『賽ノ目坂』

高須 : 「最初に、時代劇がいいと思ったんです。"日本人がいちばん得意な分野は時代劇"というのが、僕の持論ですから。だって、日本人が洋服を着ても似合わないでしょ。ラブシーンや西部劇にしてもそう。そりゃ、ハリウッドスターの方が似合いますって(笑)。でも、黒澤明監督の映画や『ラスト・サムライ』なんか観てても思いますけど、ヅラと着物を着てグッと睨んだときに迫力、泥臭さが出せるのは日本人だけ。そんなこともあって、撮るなら時代劇やなって。でも、今回はロケーションを変えたり、チャンバラをバンバンやるような時間も予算もない。それで、罪人を主人公にした脚本を書くことにしたんです」

物語の舞台は、江戸末期のとある山道。賽ノ目坂と呼ばれるこの場所には、番号をふられた罪人たちが、ある特殊な状態で並んでいる。入り口の看板には「通りし者は、賽の目を振り、出た目の罪人の首に鋸を引くべし」の文字。ここから、死を待つ罪人たちの会話と、通っていく人とのやりとりが始まる。「ね、これならロケーションもひとつだし、衣装もお金がかからないでしょ?」と高須氏。確かに……。しかし、大きな動きが制限される分、役者のセリフ回しと演出の妙が要求される。

高須 : 「本当にその通りなんですよ。だから、カメラ台数は多くさせてもらって、いろんなアングルから何発も撮影するようにしたんです。キャストにも撮影前に本読みをしてもらって、セリフ回しも頭に入れてもらいました。実は、キャストに関しては、僕の方でちょっとワガママを言って、指名させてもらったんですよ。実際、希望も通りましたし、撮影前からキャストの表情やセリフ回しに関しては安心感がありました」

こうして集まったキャストは宮川大輔、ほっしゃん。、秋山竜次(ロバート)、板尾創路、品川祐(品川庄司)、松本康太(レギュラー)、友近。個性豊かで芸達者な芸人ばかりだ。しかし、なぜ俳優がひとりもいないのか? そこにも高須氏の狙いがあった。

高須 : 「今回の作品って、あらすじだけ聞くと重い感じがするでしょ? もちろん重さもあるんですけど、基本は"笑い"なんですよ。悲しいシーンも一切なくて、とにかく怒涛の急展開でストーリーが進んでいく。となると、"笑い"の勘の鋭い芸人さんの方がいいんですよ。撮影してみても、やっぱり芸人さんたちに頼んで本当によかった、と思いましたね。彼らの方も『楽しかったです。また声かけて下さい』って言ってくれましたし……って、そりゃ建前で言いますわな(笑)。いや、だってね、ホンマに撮影は地獄やったんですよ!」

撮影が終わったときにはどっぷり疲れた

撮影期間はたったの2日間。場所は5月だというのに極寒の高尾山。お世辞にも"いい環境"とは言えない。

高須 : 「朝3時半集合で現場に行って、夜中までずーっと撮影。上空を飛行機が通るたびに撮影が中断になるし、どんどん時間がなくなるんです。寒さに文句言ってる場合じゃなかったですね。僕個人のことで言うと、初監督ということで、撮影前から緊張もしてたんですよ。カット割やら演者の動きを考えるのも初めてやから、突っ込まれないように細かく考えたり……。珍しく、えらい気を使ったんでしょうね。撮影が終わったときにはどっぷり疲れて、いつもは5時間くらいで自動的に目覚める僕が、10時間くらい爆睡しましたから」

その緊張たるや、放送作家としての初会議とは比較にならなかったという。

高須 : 「放送作家になりたてのころは、もっとチャラけてましたからね。自分の面白さを過信して、どこか天狗になってたんです。その後、自分の企画が全然通らなかったりして、ちょっと変わりましたけど、最初のころはそれほど緊張もしなかった。でも、今回は"自分の作品に出て頂く"という意識もありますし、想像以上に気が張ってましたね」

そして、こうつぶやいた。「でも、楽しかったなぁ。またやりたいなぁ」。