――先ほど見せていただいたスラッシュ成型では、真空脱泡機で気泡を抜いていましたが、以前は遠心分離機を使われていたそうですね。

「ええ。回転させることによって生じた遠心力で、ゾル状の材料を金型の内側にまんべんなく行き渡らせる仕掛けですね」

――それがなぜ真空脱泡機に替わったのでしょう?

「やはり、形状によっては気泡が残りやすいという問題点があったからですね。それと遠心機を使った方法ですと職人の勘に頼る部分があって、中国のラインで大量に生産するには、真空脱泡機を使った方法のほうがマニュアル化しやすいという利点があるからです」

――いずれにせよ、ウルトラ怪獣ソフビが飛ぶように売れて、会社は大いに儲かったんじゃないでしょうか?

「それはそうだったんですが、一方で大きな赤字も抱えていたんです」

――と、おっしゃいますと?

「実は、マルサンは、怪獣ソフビを発売する前の年の昭和40年にスロット・レーシングという玩具を発売しているんです」

――そういえば、子どものころ流行ったのを憶えています。駅前のお店の中に大きなコースが設置されていて、手元のコントローラーのボタンを押すと、コース上のミニカーが走るという。今のゲームセンターみたいなものでしょうか。

「街の店にミニカーを持ち込んで遊ぶというブームがありました。マルサンは、これにかなりまとまった投資をしていたんですが、そのうち、そういう所に出入りするのは風紀上よろしくないとか、そういったことで急に立ち消えになってしまったんです」

――怪獣ソフビはかなり売れたと思うのですが、それでも追いつかなかったわけですか?

「そうなんですね」

――昭和41年には、『ウルトラQ』と『ウルトラマン』の怪獣ソフビを、さらに翌昭和42年には、『ブースカ』『ウルトラセブン』『キャプテンウルトラ』のソフビも発売なさってますが、それでも足りなかったと。

「足りませんでしたね。それで、当時マルザンと社名を替えていたマルサンは、昭和43年に倒産します」

――当時、日本中の子どもで怪獣ソフビを持っていない子どもはいない、というくらいだったと思うのですが、そうなりますとその赤字というのは、よほど大きなものだったんですね。

「結局、マルサンの倒産の原因は、スロット・レーシングに対する過剰投資なんですよ」

――金型などの資材に投下した資本を回収する前に、ブームが去ってしまったと。

「そうですね。加えて、『ウルトラセブン』の放送終了とともに、第1次怪獣ブームも終焉を迎えてしまいます」

――なるほど、ソフビ怪獣で赤字をカバーしていたのが、限界に来てしまったわけですね。そこで倒産して、会社はその後どうなるんでしょう?

「昭和44年に石田實が株式会社マルサンとして事業を再開します。ただし、ウルトラ怪獣ソフビのメイン・ライセンシーは、ブルマァクに移りました」

――すると、金型は残っているわけですから、生産は行われたわけですね。

「まあ、再放送とか『ウルトラファイト』の放送などがありましたから。ところが、そうこうしているうちに、『帰ってきたウルトラマン』の放送開始とともに始まる第2次怪獣ブームがやってくるわけです」

――怪獣ソフビを手がけるチャンスが再び巡ってきたわけですね。

「ところが、メイン・ライセンシーはブルマァクでしたから、マルサンはオリジナル怪獣ソフビを開発することになります」

――ところで当時のソフビですが、独特の臭いがしましたね。今のものにはないようですが、材質が変わったということなんでしょうか?

「素材に含まれている可塑剤と呼ばれる薬品などが違いますね。可塑剤というのは、ソフビ人形の硬度を調節するために混ぜるものです。昔はフタル酸系の可塑剤を用いていましたが、現在ではいわゆる環境ホルモンの問題などでほかに切り替えられてきています」