回り始めると止まらなかった『ラブデス』の歯車

「日本で映画を作る気はまったくなくて、ハリウッドの様々な会社と交渉をしていたけど、なかなか燃える企画はありませんでしたね。予算や条件が良くても、ダメな企画は断りまくってましたよ。その中にはある有名シリーズの3作目や、人気アメコミ映画のリメイクの話もあったんですけどね。そんな時期に『ラブデス』のヒロインのNorA(ノーラ)と出会ったんです。彼女は何かパワーを持っていると感じました。漫画家であり、プロデューサーとしても信頼している高橋ツトム(『ALIVE』、『スカイハイ』の原作者。『ラブデス』では原作とプロデュースを担当)とNorAの3人で食事をしていたら、高橋ツトムも何か感じたみたいで、NorAを『こいつはマグマ持ってる女だよ』と表現したんです」

そこから、話は一夜のうちに北村監督自身も予期しない方向に転がっていく。

「NorAをどこかの事務所に紹介しようと思ってたら、高橋ツトムに「セコい事言うな。俺の原作をやるから、彼女主演でお前が映画を撮ればいい」と言われて、そう言われればそうだなと(笑)。やりたい事を勢いだけでやる、っていういうデビュー当時のような気持ちで、自主映画でやろうという事になったんですよ。メジャー大作を撮りまくってこれからハリウッドに行く男が自主映画を撮る。これは物凄いモチベーションの上がる挑戦でしたねー。その日のうちに高円寺の居酒屋で『ラブデス』製作を決めちゃった。まだお金も脚本もないのに(笑)」

監督が語るように、『ラブデス』は自主映画である。しかし、出演者は武田真治、船越英一郎、大友康平、寺島進、池内博之、六平直政、北見敏之、IZAM、KAN、森本レオ、津田寛治、渡辺裕之、森洋子、杉本彩、吉岡美穂、泉谷しげる、ニコラス・ペタス、インリン・オブ・ジョイトイ、竹内力など、これまでのメジャー映画でもありえないほど豪華なメンバーが集結した作品となった。とにかくクールで凶暴で格好良い武田真治や、バイブレータ型の巨大な拳銃を駆使するヤクザの組長を演じる船越栄一郎など、個性的過ぎる人々が大挙登場する、パワフルな作品となった。

「脚本もない、相手は素人、どう?」

「やると決めた次の日には武田真治のところに押しかけて口説いてましたね。『今までで一番武田真治をかっこ良く撮る、史上最高にかっこよく撮る』と。武田真治はその場で「是が非でも出たい」と言ってくれた。船越さんにも脚本もない段階、しかも初対面で出演交渉しました。会ったその場で、船越さんのキャラを考えて提案したら、「面白い」と乗ってくれて。人間同士の絆って時間じゃなくて、逢った瞬間なんですよ。寺島進さんも、六平さんもみんなそう。逢った瞬間からなんか通じ合うメンバーがこの作品には自然と集まった」

武田真治演じる主人公サイ。愛のためだけに、撃ちまくり、殺しまくる
(C)2007「LOVEDEATH」製作委員会

これまで評価されてきたアクションよりも、笑いに力を入れたと北村監督は語る。

「高橋ツトムからの注文は『原作なんか気にするな。無視して好きにやれ。10分に一度笑いをとれ』ってだけ。僕はそう言われると、じゃあ毎分笑いとってやるよ、と燃えるタイプなんで相当力入れましたね。あと、"北村作品と言えばアクション"みたいなイメージにも不満があったんで、アクション映画を撮る気は毛頭ありませんでした。普通ならアクションに転がす所を、全て笑いに持っていこうと。アクションをやるってのは、僕にとっては楽なことなんです」