数千羽の雄ペンギンが百キロ以上の道のりをひたすら歩く――その目的はただひとつ。 目的地で待っている雌ペンギンと交尾することだった……。

「皇帝ペンギン」をご存じだろうか? 南極での皇帝ペンギンの生態を追った、2005年公開の感動ドキュメンタリー映画である。ここで紹介する『童貞ペンギン』は、タイトルを見てわかるとおりそのパロディだ。

この映画の原題は"Farce of the Penguins"。Farceというのは「喜劇」とか「道化」みたいな意味である。『皇帝ペンギン』はフランス映画だが、米国での公開タイトルは"March of the Penguins"。原題も一応韻はふんでいるけど、タイトルは日本版のほうが上手い! これ思いついたから日本で公開決めたんじゃないの? (といっても、映画開始早々主人公のペンギンが実は童貞でないことがわかるわけだが……)

愛するメスペンギンとの一発を夢見るカールと、口が悪くタフガイ気取りのジミーが主人公

オリジナルの『皇帝ペンギン』はドキュメンタリーでありながら、ペンギンは擬人化され、ペンギンの動きに合わせて声優によるアフレコが入っている。『童貞ペンギン』も基本的には同じスタイルで、違いは感動を誘う物語の代わりに下品なセリフが当てられているところというわけだ。

さらに『童貞ペンギン』ではこれに語りが加わる。語り手はなんとサミュエル・L・ジャクソン! 『皇帝ペンギン』の米国公開版ではペンギンはしゃべらず、代わりにモーガン・フリーマンによるナレーションで物語を進める形になっており、語りの部分はこの米国版のパロディというわけ。サミュエル・L・ジャクソンがモーガン・フリーマンをパロってるというのがアメリカでは大ウケしたらしいけど、日本じゃニュアンスがイマイチわかりにくい。「古畑任三郎」のパロディを石原軍団がやってるようなもの? このほか、ペンギンの声役でウーピー・ゴールドバーグが出演している。

使われている映像はペンギンたちを普通に実写したものがほとんどで、特撮やCGは数シーンしか見られない。たぶんセリフとナレーションを入れ替えたら、ごく普通の感動ストーリーに仕上がるんじゃないだろうか? そのセリフとナレーションの中身は……、とにかく下ネタの連続! 雄ペンギンは海で獲ったエサを胃袋にため込んで、海岸から百数十キロ離れたコロニーを往復するのだが、その間雄ペンギンたちの頭の中に渦巻くのは、雌ペンギンとヤルことばかり。コロニーまで行進する道すがら、いかに悶々としているかが妄想とともに描かれる。たしかに、ペンギンが並んでトボトボ歩いている図は、しょぼくれたサラリーマンが会社の帰りに「金あったらピンサロ行きてえなあ」なんて言いながら立ち飲み屋を目指す光景を重ね合わせたくなる。この映画の"オス側主人公2人組"もまさにそんなノリだ。一方コロニーで待つ雌ペンギンも負けず劣らずで、集まって雄を待ちながら、同じようなエロい妄想をふくらませている。

コロニーで待つメスペンギンは「やっとこの日が来たわ! 早くセックスがしたい!」とヤル気満々

もっとも、主人公はそんなエロペンギンたちの中でも"まだしも"純情なペンギンで、誰彼構わずではなく、少なくとも決まった相手と愛のあるセックスをしたいと妄想している。そんなこと考えてるペンギンというのも相当ボケてるような気もするが……。

それはさておき、さまざまな災難の後、ようやくコロニーに到着した主人公たちが、お目当ての純情なお相手をゲットできるのか? というのが見どころとのことだが、見ていると途中からそんなことはどーでも良くなるほど話が脱線してくる。別の映画のパロディが入ったり、ナレーションにペンギンがチャチャを入れ、サミュエル・L・ジャクソンと罵りあいになったり、「フランスペンギン」という役名で、本家『皇帝ペンギン』の出演者とおぼしきペンギンが登場し、テレビで童貞ペンギンたちのドタバタぶりを見て「下ネタばっかりで下品ね」と(フランス語で)批評したりと何でもアリ。下ネタよりも、そっちのほうがオイラは楽しめましたよ。

製作・脚本・ナレーションは人気ホームドラマ『フルハウス』を手がけ、自身もコメディアンであるボブ・サゲット。7月14日よりシアターN渋谷、新宿バルト9にてロードショー。