病気で倒れた時、介護が必要になった時…そんな「万が一」の時に力になってくれるのが介護保険制度や医療保険制度といった社会保障の制度だ。でも、「私には関係ない」と思っている人が大半なのではないだろうか? 「団塊の世代の話だから」「介護保険を使うことなんてないよ」「私は大きな病気にかかったことがないし」「年金って受け取れないんでしょ? 」と無関心の人は多い。しかし、現在の日本人の平均寿命は男性78.53歳、女性が85.49歳(平成17年簡易生命表より)。多くの人が65歳以上になり、保険や介護、年金のお世話になる日がいずれ来る。その時になって慌てないためにも私たちはこれらの制度について詳しく知っておく必要がある。また、年配のご家族をお持ちの方にとっては、欠かすことのできない大切な知識である。

そこで「今から知らないと損をする? イチから学ぶ保険・介護・年金塾」では、兵庫大学健康科学部准教授の式恵美子氏(看護師、社会福祉士)と東京福祉大学・創造学園大学講師で僧侶(浄土真宗本願寺派)の志茂田誠諦氏のお二人に医療保険や介護保険、生活保護などといった社会保障のさまざまな話題についてシリーズで連載していく予定だ。そこで今回は連載に先駆け、「開講特別編」と題した対談会を実施した。

65歳以上はなぜ「高齢者」なの?

志茂田:「高齢者」という言葉について、まずは考えてみましょう。65歳以上になっても体力があったり、仕事を続けているというような個々人の状況と、国の「高齢者」という呼称との間にズレを感じたことはありませんか? 実は、この「高齢者」という呼び名は、国の制度上の線引きに過ぎないのです。つまり、高齢者とは「社会保険制度を利用できる人々」のことで、年金を受け取ったり、介護サービスを利用できます。

志茂田誠諦(しもだ・じょうたい) 東京福祉大学、創造学園大学で社会学、社会保障論などを担当。真宗ライフデザイン研究所理事。専門分野は日本文化論、福祉文化論 

:たとえば、65歳を過ぎて介護が必要になれば介護施設に入所したり、在宅のサービスを受けることができますよね。また、年金や医療保険においても、65歳が制度上の大きな節目になります。

式恵美子(しき・えみこ) 国際医療福祉大学、創造学園大学を経て、現在、兵庫大学健康科学部准教授。専門分野は臨床看護学、介護技術論

志茂田:ちなみに、先ほど「65歳以上が高齢者」と言いましたが厳密に言うと、国は65歳以上75歳未満を「前期高齢者」、75歳以上を「後期高齢者」と別々に呼んでいます。余談ですが、厚生労働省は一時、前期高齢者のことを「ヤングオールド」と呼ぼうとしましたものの、どうも定着しませんでしたね(笑)。
:「後期高齢者」を「オールドオールド」と呼ぶわけにもいきませんからね(笑)。ですから、65歳前後でお元気な方々からすれば、ご自分に「高齢者」という言葉が馴染まないと思われるのは当然だと思います。ですから一般的には、自分の体が動かなくなり、介護のサービスが必要となったときに初めて、自分が「高齢者」だと実感するのでしょう。

2015年問題に向けた国の改革

:「2015年問題」という言葉をお聞きになったことがあるでしょうか。2015年になると、1950年(昭和25年)生まれの方々までがすべて、「高齢者」(65歳以上)と呼ばれるようになります。それによって社会システム上さまざまな課題が引き起こされるということが懸念されているのです。
志茂田:先月(3月26日)の国会で成立した平成19年度の国の予算案を見ると、一般会計総額は82兆9,088億円ですが、うち介護保険給付費などの社会保障関係費はなんと20兆9,659億円。国家予算(一般会計)の4分の1強を占めています。しかも、18年度に比べて5,472億円も増えています。今後、約800万人とも言われる団塊世代が「高齢者」となり、年金の受給者や医療・介護保険の利用者になれば、国の財政はますます悪化するでしょう 。
:介護保険制度についても同様のことが言えます。国の試算によると、65歳以上の介護保険料(全国平均)は、2,900円(2000-2002年)から6,000円(2012-20014年)に増大。つまり、高齢者人口が増加すれば介護サービスの利用が増え、結果的に国の財政負担が増えることがデータとして示されている訳です。ですから、それに向けた改革を国は進めているのですね。

介護保険法を改正しなかった場合の介護保険給付費と介護保険料の推移(厚生労働省のパンフレットより)。制度スタート時より2倍超に伸びている