この連載では、『シリコンバレー式最強の育て方 - 人材マネジメントの新しい常識1on1ミーティング-』(かんき出版)の著者で、1on1の第一人者である世古詞一さんより、「部下との距離の縮め方」についてお答えいただきます。

今回は愚痴や不満ばかり言うネガティブな部下への接し方を解説してもらいます。

  • 愚痴ばかり言う部下に悩むことはありますか?(写真:マイナビニュース)

    愚痴ばかり言う部下に悩むことはありますか?

上司が持つべきネガティブな部下へのあり方

「部下が愚痴ばかりで困るんです。どう対処したらいいですか?」という質問をよく受けます。基本プロセスはたくさん話してもらい、しゃべり尽くすことで部下に自己解消してもらうこと。部下に愚痴をすべて吐き出してもらうことが最も大事です。このプロセスが無いと部下の思考や行動は変わりません。

そのうえで、上司が持つべき「あり方」と「やり方」があります。まず、あり方は部下のどんな話でも受け止める「全肯定のスタンス」を持つこと。部下の愚痴を聞く行為をポジティブに捉え、「ネガティブな話も包み隠さず言ってくれる」「本音を話してくれる」と理解を示すのです。この姿勢で臨めば、愚痴を聞き続けることができ、すべてを出し切った部下は「解消」という「自己解決」 に至ることができるのです。

逆に、愚痴を聞けない上司には、二つの厄介なスタンスが染み付いています。

一つ目は、「職場ではポジティブなことしか言うべきではない」という勘違いにとらわれたポジティブ思考。「ネガティブなことはダメ」「ポジティブでなければダメ」、こうした一つの考え方しか許さない見方は、実はネガティブです。「愚痴でもなんでも話していい」と柔軟に選択肢を持てることが本当のポジティブ思考なのです。

二つ目が「問題解決」思考です。愚痴という行為を解決の観点から見てしまい、それが非常に非生産的で無駄なことに思え、聞けなくなってしまうのです。また、会社全体への不平不満など、現場のマネージャーでは解決できない事柄だと、自分を無力に感じてしまい、聞けなくなります。

上司が心がけることは、まずは愚痴やネガティブな話を部下の本音と捉え、ドンと受け止めるスタンス。そこで初めて、「具体的にどう聴くか」というやり方が機能するのです。

上司がすべき部下の愚痴の聴き方

それでは、次に部下の不平不満に対して「どう聴くべきか」のやり方を紹介します。これは基本三つのステップで、べースは部下の発言を踏まえて以下のような返し方をします。

ステップ1:疑問で返す
ステップ2:部分で返す
ステップ3:正と仮定して返す

疑問で返す

愚痴と呼ばれるものは、当人から見たストーリーで、部下の視点や切り口で見てみると正しいことのように聞こえます。一方、別の視点で見てみると異なる解釈が可能。ですから、安易に相手のストーリーが真実であるかのように肯定はできません。例えば、次のように返します。

部下「同僚のBさん、あの人いつも決めたことやらないじゃないですか」
上司「あー、Bさんね。いつも決めたことやらないよね」

これは、部下の話を返していますが、完全に同意してしまっては上司の対応として問題があります。そうではなく、「あなたの言っていることは理解していますが、意見には同意していません」という疑問での返し方が適切です。

部下「同僚のBさん、あの人いつも決めたことやらないじゃないですか」
上司「えー、Bさん、いつも決めたことやらないの?」

これは相手の言っていることを知らない場合に有効です。愚痴には基本疑問で返します。しかし、以前にそのような話をしていて、お互いに周知の話だとすると、いかにも白々しく聞こえてしまう。そのときは次のように返します。

部分で返す

相手がおおよそ「100%そうだ」という論調で愚痴を言うのに対して、そういう部分も一部あると認めた上で、すべてには同意していないことを示す手法です。

部下「同僚のBさん、あの人いつも決めたことやらないじゃないですか」
上司「あー、Bさん、たしかにそういう部分も以前はあったよね(それって何を指しているの?)」

このように、部分で返した後に、それが何を指しているか確認します。既に自分も知っている話であれば「あの件ね」と合意して、知らなければ、ステップ1の疑問で返します。

正と仮定して返す

これは、相手の話に同意するわけではないけれど、相手の言っていることは一旦、正しいと仮定して話を進めていく手法。話の内容に同意するというよりは、相手の心情に共感を示していくことに重きを置きます。

部下「同僚のBさん、あの人いつも決めたことやらないじゃないですか」
上司「えぇ、そういうところもあるんだね」
部下「そうですよ。先日も、受注した後の入力作業を以前のやり方でやっていて、私が修正したんです。しわ寄せがこっちにくるんですよね 」
上司「そんなことがあったんだ。そうだとすると、それは本当にきついねー」
部下「本当です。なんとかなりませんかね?」(上司の話を聞けるスタンスができる)
上司「私が思うのは……」

部下の愚痴に同意するのではなく、相手の状況や心情を理解しながら、言葉でも示します。そうすることで、部下はたくさん話すことができて、上司の話を受け入れるスタンスができるのです。

ここまでくれば9割方解決に向かうことができます。まずは、愚痴を全肯定で受け止める「あり方」、そして三ステップの「やり方」を参考に実践してみてください。

世古詞一(せこ・のりかず)

株式会社サーバントコーチ代表取締役
早稲田大学政治経済学部卒。組織人事コンサルタント。1on1ミーティングで組織変革を行う1on1マネジメントの専門家。近著に『シリコンバレー式最強の育て方」- 人材マネジメントの新しい常識 1on1ミーティング-』(かんき出版)がある。