暑い、とにかく毎日暑い……長引いた梅雨の後に突如として訪れた猛暑は思っていた以上に暑かった。「梅雨明け宣言」もないまま猛暑日の連続に突入する状態は、ここ数年のトレンドともなりつつある。今年の夏は今までに経験したことのない「ヤバい夏」になりそうである。気象庁は連日「危険な暑さ」の警告を連呼するが、その実態は自身で経験しないと回避行動に結びつかない。筆者の自宅のエアコンが突然故障し、運転はしているが冷気を発しない状態になって、「ハードウェアの寿命」について厳しい現実を思い知らされた。
特別な夏が日常化する予想の今後と「正常化バイアス」に支配される我々
地球温暖化と現在の気候状況の関連性については世論の分かれるところであるが、「年々暑くなっているのではないか?」、という傾向については私も含めて実感する向きが多いのではないか。事実、今年欧州を襲った熱波の影響は絶大で、数千人の死者をもたらした。「スクラップ&ビルド」を繰り返してきた戦後の日本の住宅事情とは違って、堅牢な家が100年以上も受け継がれている欧州では、家の使命は寒さや風から身を守ることに第一の使命が与えられていて、エアコンの設置を容易にできない事情があるという記事を読んだ。エアコンが身近な生活アイテムではない欧州人の地球温暖化に対する意識とその深刻度は、政治的なアジェンダを通り越して、「このままでは逃げ場がない」という深刻なレベルに達している結果だという。
日本においても、政府は今年の夏の異常性について数々の警告を発してきた。
例えば、「エアコンの2027年問題」については、たびたびニュースにも取り上げられ、啓蒙活動は進められてきたが、自宅のエアコンが故障し、その当然の結果として被る被害についてあたふたとさせられるまで何もしないのは、私自身も含めて一般人の常である。
予期せぬ危機や災害に直面した際、「自分は大丈夫」と都合よく解釈し、危険を過小評価してしまう、「正常化バイアス」の心理状態にどっぷりつかっていた自分自身にかなり落胆する今日である。
「酷暑」毎日の中でエアコンが故障する恐怖とハードウェア寿命の再認識
我が家には5台のエアコンが設置されているが、それらを本格的に作動させたのはこの数日である。テレビのニュースなどに触発されて、5月ごろにすべての動作確認をしておいたが、酷暑の夏4日目でその一台が動作不良となった。送風はするものの、冷気が出ない典型的なエアコンの不具合だ。
昨年夏、すでに予兆はあった。このエアコンの設置場所の事情で、送風パイプがかなり長く、建物の西側の壁を回って北側の地面に設置された室外機に接続されている。不具合を修理するサポート要員が来てくれて、冷媒ガスの再注入などで何とか切り抜けたが、汗だくで修理にあたってくれたサポート要員が「例年の夏であればこの通風パイプ引き回しの設置でも問題はないはずだが、今年の夏は温度が異常に上がり過ぎて、本来の製品スペックでは許容できない範囲に至ってしまった」という説明を悔しそうにしていたことを記憶している。同様の事例が増えていて、製品開発部にもフィードされているという。機器設置の通常の条件が変化してきている以上、標準スペックも見直す必要があるというのがフィールドからのフィードバックだという。
そんな昨年の経験もあったのに、今年も同じ機器で同じ問題が起こった事実に、「この夏までにいくらでも時間があったのに」、という後悔と同時に、「ハードウェアには寿命がある」、という厳しい現実をきちんと理解していなかった自分にがっかりした。30年以上、半導体というハードウェア販売に関わってきた自分自身を考えて忸怩たる思いを持った。私の半導体業界での経験は営業・マーケティングが主であった。もし私が技術サポート・品質管理などの部門であったら、このような事態は避けられたであろう。
人体であれば、古くなった細胞は再生されて、寿命をまっとうするまでには細胞レベルではまったく別の固体になっているという。機械装置はそうはいかない。非常に多くの部品で構成される機械装置では、各部品の耐用年数が決まっていて、装置全体の耐用年数についてもメーカー各社はストレステストを繰り替えしながら、商品としての耐用年数を割り出している。エアコンの場合、製品寿命は約10年だという。そこで、自宅に設置されたエアコンの製造年を調べてみたら、5台のうち4台が10年以上前の製造であった。
何という不覚!! 「正常化バイアス」の波間にぷかぷかと呑気に浮いていた自分を恥じると同時に、時限爆弾を抱えてこれから酷暑の夏に向かう恐怖を感じた。特に、自宅には15歳を超えた老愛犬が2匹もいる。「こ奴らの命を守らねば」、という思いが募った。
商品の保守に絶大の信頼を築く日本家電ブランド
幸いに、我が家のエアコンは10年前から同一の大手ブランドに統一している。カスタマーサポートの個人ページも、作成当時は正直「こんなもの何の役に立つのだろう…」などと懐疑的であったが、これが頼もしい存在となった。型番をすでに登録した個人ページでのメーカーとのやり取りはいたってスムースで、問題発生から半日でサポート要員派遣の日時まで決まった。この間、電話でのやり取りはまったくなく、よくありがちなカスタマーセンターとの「現在大変電話が込み合っております…」という不毛なやり取りが果てしなく続くこともなく、日時が決まったことに安心したが、その日取りは一か月先の8月中旬であった。
私は外資系半導体企業を渡り歩いてきた経験から、ともすれば日本メーカーブランドに対しては「過剰品質」などの感想を持つことが多いが、商品保守体制は今やブランド価値の大きな部分を占めていることを実感した。この点においては、日本ブランドは大きな企業価値を持っている。
半導体業界、特に装置関連では保守・サービスの売り上げの伸びが大きくなっている。例えばASMLの2026年第2四半期売上高93億2600万ユーロのうち、27億6200万ユーロをInstalled Base Managementの売上高としている。これは、保守・サービスと装置の性能向上などの改良を行うフィールドオプションの売り上げを合算したものであるが、全体の3割近くを占める規模となっている。またApplied Materials(AMAT)の2026年度第2四半期(2~4月)も、保守・サービス部門である「アプライド・グローバル・サービス(AGS)」の売上高が16億6500万ドルと、全体の2割を超すレベルになるなど、保守・サービス事業の売り上げを伸ばしている企業が多々出ている。
そんなことを考えながら、残りの4台が何とかこの夏を乗り越えられることを祈りつつ、「あなたの家のエアコンは大丈夫ですか?」、などと言う余計な事を考えてしまうトラブルであった。