「第44回 ディスプレイ産業フォーラム」において、Omdiaのディスプレイ部材調査担当マネージャーの宇野匡氏が、DDIC(デイスプレイ・ドライバIC)などの半導体デバイスを含むFPD用部材業界動向について講演した。

その中で宇野氏は、FPD部材産業が中国シフトを進めているとし、「TFT液晶ラインはすでに中国への集中が大勢となっている。部材についても、老舗メーカーによる中国投資が継続し、中国メーカーによる新規参入あるいは新規投資が見受けられる。部材によって差はあるが、パネルモジュール生産の中国集中により部材産業の中国シフトが今後も継続していくと予測される」との見解を述べたほか、中国メーカーによる部材投資には「パネルメーカーによる部材の垂直統合」ならびに「地方政府の補助金による新規投資」といった2つの傾向があることを指摘した。

パネルメーカーによる垂直統合の例としては、BOEによるドライバICの垂直統合が端的な例となるとする。部材メーカーが新規投資を行う際には、地方政府に補助金を申請する例も多い。

中国部材メーカーの特徴としては、赤字で操業しても倒産しない傾向がある。初期投資が補助金で支援されている場合が多く、減価償却を度外視した経営が成り立っている。部材価格についてもシェアを取るために安い価格が提示されているという。

ガラス基板においても中国シフトが加速している。2023年中には中国の生産能力が韓国を上回ると予測される。CorningとAGCとNEG(日本電気硝子)が中国への新規投資を継続しており、2023年と2024年で老舗メーカーの投資はいったん完了するという。「長期には、日本・韓国・台湾の部材メーカーはシェアを落としていく傾向となる」と宇野氏は指摘する。

DDIC販売額は2022年にマイナス成長も、2023年はプラス成長に

2022年後半のDDICに対する需要は、従前の予測より改善したものの、結局は前年比で11%減となったが、2023年は同5%増とプラス成長に転じるとOmdiaでは予測している。

DDICは数量依存の部材ではあるが、高解像度化が需要を底上げしている。70インチ以上の超大画面ではソースドライバを上下に配置するなど1パネルあたりのDDIC使用個数が増加することも需要を高めるのに貢献しているという。

また、車載用途では、a-Si LCDがメインディスプレイとなっており、a-Siでは低温での駆動を保証するためにゲートDDICが使用される。LTPS LCDはGOA(Gate-on-Array)を採用できるため、省電力化に貢献でき、さらにタッチコントローラICとDDICを統合したTDDI(Touch Display Driver Integration)との相性も良いため、今後増加すると予測されるという。

車載ディスプレイ単独でみると2022年でも同4%増とプラス成長を果たしたという。また、ほとんどのアプリケーションがマイナス成長を記録した中、DDICも同1%増となり、今後も高解像度化を背景に、ゆるやかに成長していくことが予測されるとしている。その中で、車載向けDDICは台HimaxとNovatekが2社で約70%の市場シェアを有しており、ほとんどのパネルメーカーにDDICを出荷していると言える。また、SynapticsとFocalTechは車載TDDIに特化しているほか、中国のDDICメーカーも車載DDICの開発を進めており、2023年から量産が開始される予定であることから、市場の変化に注意が必要になるとする。

このほか中国勢としては、Nexchipが合肥にN1とN2と呼ぶいずれも月産5万枚の規模を有する2つの生産ライン(300mm)を持っており、2022年7月より55nmプロセスでの量産を開始し、40nmプロセスでの量産を2023年中に行うことを計画している。同社は、その生産能力の65%をDDICに振り向けており、この生産能力がなければ、需給がタイトであった2022年前半のDDIC不足はもっと深刻な状況であったであったと言えるが、2022年後半からDDICの需要が激減しており、同社の稼働率は2022年第3四半期に50%程度まで低下し、ウェハ価格も2022年後半に20%程度下落したという。Nexchipの最大顧客はNovatek、ChiponeとILITEKの3社で、NexchipのDDIC生産能力の60%を占めると見られている。

なお、宇野氏は、DDICの200mmウェハでの生産の状況について、2022年後半は液晶テレビの需要が予測より増加したこともあり、DDICの需給も予測を上回ったとするが、2022年全体ではDDICの需要は前年比10%減となり、供給過剰が続いたとする。その結果、VanguardはDDICに向けてた生産能力を他の用途に振り向けるようになったとするほか、大画面用DDICは2023年第3四半期にようやく需給のバランスがとれるところまで改善されると予測している。

一方のDDICの300mmウェハでの生産状況については、2022年は需要減退とUMCによる生産能力拡大の影響で、年間を通して供給過剰が継続。2023年以降もファウンドリ各社の生産能力拡大が継続するため供給過剰が継続すると予測しており、中でもAMOLED用DDICではこの傾向が顕著になっているとのことで、2023年第4四半期にようやく需給のバランスが改善されるものとの予測を示している。

ちなみにiPhoneやGalaxyのDDICはAppleやSamsung Electronicsがサプライチェーンをコントロールしていることもあり、市場全体の需給動向による影響は受けていない模様である。