「第44回 ディスプレイ産業フォーラム」において、Omdia中小型ディスプレイ主幹アナリストである早瀬宏氏が、スマートフォン(スマホ)や車載モニタ用中小型ディスプレイ市場および技術動向に関する講演を行った。

2021年の中小型FPD市場は、「ポストHuawei」と「ポストコロナ」需要を見込んで中国の携帯電話メーカーが積極的にFPDを調達し、高い伸びを示した。しかし、2022年は新型コロナの感染対策規制に加え、ロシアのウクライナ侵攻による原材料・エネルギー価格の高騰などに伴う急速なインフレによって消費者の購買意欲が減退。2021年に積極的に調達されたFPDが過剰在庫となり、2022年の携帯電話用FPDの出荷数は大幅な縮小という結果となった。加えて、携帯電話用FPDの新規調達が減少したことから携帯電話用FPDの受注競争が激化、FPDの平均単価(ASP)も大きく下落したことで携帯電話用FPD全体の出荷金額も落ち込み、2022年の中小型FPD市場を減速させた要因となった。

一方で中小型FPD市場で携帯電話に続く出荷金額となる車載モニター用FPDは上海のロックダウンや半導体の供給不足の中でも出荷を伸ばし、出荷数量で大口需要となったスマホ用FPDもウエアラブル端末向けとしては成長を維持したものの、携帯電話用FPD全体の出荷の落ち込みを挽回するまでには至らず、2022年の中小型FPDの出荷数量は前年比12%減、出荷金額も同9%減となる見通しだという。

2022年は、中小型FPD市場全体ではマイナス成長となるものの、LTPO(Low Temperature Polycrystalline Oxide:低温多結晶酸化物)技術を導入し低消費電力化を進めたFlexible AMOLEDはプレミアクラスのスマホ向けに出荷を拡大、中小型FPD市場の成長を担うデバイスに成長した。2022年のAMOLED市場で依然高いシェアを有するSamsungに対し、中小型TFT LCDのシェアで首位に立つBOEがAMOLEDでも出荷を徐々に伸ばしつつあり、今後AMOLED市場で韓国メーカーと中国メーカーがどの様な技術競争を繰り広げるかが焦点となる。

今後は、在庫の消化が進んだ携帯電話用FPDの出荷が緩やかに回復するとともに、車載モニターやスマートウオッチに加えAR/VR用FPDが需要を伸ばし、中小型FPD市場の出荷を押し上げていくことが予想される。

また、同市場の今後の成長を牽引していくのは、LTPOによる付加価値を向上させたFlexible AMOLEDとなる。一方、需要減に伴い携帯電話市場向けTFT LCDおよびRigid AMOLEDのASPが下落した事から、今後の中小型FPD市場は中期的に下振れることが予想される。

2023年の携帯電話用FPDの需要(新規発注)は年後半から増加に転じ、2024年から需要の回復が予想される。今後、回復が予想される携帯電話用FPDの需要はFlexible AMOLEDが牽引していくと予想する。超薄型、高画質、低消費電力、フォルダブルと性能面でスマホの機能向上に最適なFPDであり、今後の供給メーカーが広がる中でコストダウンによる需要増も見込まれれる。

車載モニタが携帯電話にかわる成長分野に

中小型TFT LCD市場で出荷金額が縮小した携帯電話向けに対して、車載モニタ向けの出荷金額が増加した結果、その関係が逆転。中小型TFT LCDメーカーにとって今後は車載市場が主要市場としてLTPS TFT LCDを中心に注力していくこととなるであろうと早瀬氏は指摘した。

また、2023年に入って以降、世界的に「withコロナ」政策に転換。新型コロナに起因するリスクは解消に向かうも、一部の自動車盗半導体の供給不足に加え、ウクライナ情勢と世界経済のインフレがどの様になっていくか不透明な情勢が続いており、こうした情勢の中で一般消費者が中小型FPD需要となる各種アプリケーションに対し、どの様な消費行動をとるか、引き続き最新の注意が必要と言えるともしている。

車載モニタ用ディスプレイは、依然として半導体の供給不足による自動車減産や一部の車種での新規受注停止などの影響から、2023〜2025年にかけて需要予測が下振れしているが、CO2削減政策による補助金などを含むEVへの買い換え促進策が進められており、車載モニタ用AM(Active Matrix)-FPDの長期予測には大きな変化は無いだろうと早瀬氏は指摘している。

現在、新車の受注から納車まで半年から一年以上を要する受注残を抱えている状況が続いており、半導体の供給が回復し、その受注残が解消するまでの間、車載モニタの需要に大きな変化は無いと予想される。ただし、ウクライナ情勢が長期化し、エネルギーコストの上昇と経済のインフレがさらに加速した場合、自動車需要がどの様に変動するか、依然として予断を許さない状況ともいえる。

EV化へのモデルチェンジが進む新型車で、(ナビなどの)センタースタックディスプレイ(CSD)、計器クラスタともに10インチ以上の大型パネルの採用が進み、ミドルレンジ以上のモデルでは12インチクラスのFPD搭載も加速することから、中〜長期予測で12インチ以上の大型FPD需要が上振れしているという。

今後、小型車クラスのCSDも7~9インチから10インチクラスにサイズアップする可能性を含め、車載モニタ用FPDの平均サイズは2022年の8.4インチから2026年には9.5インチへ引き続き大型化が進むと予想される。

また、車載モニタ需要が大画面化や高精細化に向かうとともにEVに搭載されるデバイス全般に省電力化が求められる中、a-Si TFT LCDと較べセルの透過率が高くバックライトの消費電力を抑えることが可能なLTPS TFT LCDが、10インチ以上の大型サイズに向けて出荷を伸ばしていくことになると予想されるとする。

そのため、車載モニター用LTPS TFT LCDの需要は2022年の3900万枚から2026年には9800万枚に達し、以降もa-Si TFT LCDからの置き換えを取り込みながら需要を伸ばしていくものと予想される。携帯電話市場での需要が大幅に縮小したLTPS TFT LCDにとって、車載モニタ市場が今後最大市場となる可能性が高い。