富士フイルムと堀場製作所は6月16日、バイオ医薬品製造の培養・精製工程におけるタンクや装置内の成分濃度を連続的かつリアルタイムで可視化する「インラインラマン高感度計測システム」を共同開発したことを発表した。

共同開発した「インラインラマン高感度計測システム」とは?

バイオ医薬品は、タンパク質などの生体由来分子をもとにした医薬品で、抗体医薬品や細胞・遺伝子治療薬など多様かつ高度なモダリティへと進展している。こうした医薬品は、がんや免疫疾患など幅広い疾患の治療に用いられており、その市場は年々成長を続けているとされる。

そんなバイオ医薬品の製造過程においては、培養液・精製液中の酸素濃度などといった条件のわずかな変動が、製品の品質や収率に大きく影響することから、培養・精製工程において各種成分の識別・分析が行われているとのこと。しかし、各工程で製造途中の培養液や精製液などのサンプリングに現在用いられる“オフライン分析”では、培養液・精製液中の成分変化をリアルタイムで分析することは困難だった。そのため昨今では、培養・精製工程のタンクや装置内の状態をリアルタイムで分析し、その状態変化を高精度で捉える高感度計測技術へのニーズが高まっているという。

そこで富士フイルムと堀場製作所の両社は今般、高感度ラマン分光装置と高集光効率シングルユースプローブに、独自の計測アルゴリズムを組み合わせたシステムを共同開発。前者が写真・光学デバイス事業で培った光学設計技術、およびバイオCDMO事業におけるバイオ医薬品製造の知見と、後者が持つ高感度・高精度・高安定性を誇るラマン分光の技術を融合させ、業界最高レベルの感度を備えたインラインラマン高感度計測システム」を完成させた。

  • インラインラマン高感度計測システムの概略図

    インラインラマン高感度計測システムの概略図。高集光効率プローブとノイズ低減設計のラマン分光装置により、SN比の高いラマンスペクトルを取得。取得したラマンスペクトルから、測定対象物に由来する特長的な波数を抽出し、計測モデルを構築。リアルタイムで目的物と不純物の濃度を可視化する(出所:堀場製作所)

同システムに用いられた堀場製作所のラマン分光装置は、過酷な使用環境下でも安定したモニタリングが求められる石油業界の精製工程においても豊富な実績を有するなど、長期稼働に耐えうる高い堅牢性が特徴。また温度上昇によって生じる信号の揺らぎを最小化する独自のノイズ低減設計により高感度を実現するとともに、温度変化などで生じる測定値のずれを自動的に校正する機能の搭載で、高精度での連続計測を可能にしたとする。

一方で富士フイルムは、独自の光学設計技術を用いてバイオ医薬品製造に適した材質・形状の高集光効率プローブを組み合わせることで、従来は計測できなかった微弱信号の取得を実現し、業界最高レベルの高感度を達成。短時間の計測でも十分な精度を確保できるため、計測スループットの向上に寄与するとした。さらに富士フイルム独自の計測アルゴリズムも組み込まれており、取得したラマンスペクトルから測定対象物に由来する特徴的な波数を抽出して計測モデルを構築することで、培養液成分の経時的変化や精製液中の目的物・不純物の濃度を高精度で計測できるとのことだ。

なお両社によると、新システムを用いた実験においては、従来の紫外可視吸光光度法による工程管理と比較して、約10%の収率向上が確認されたという。さらに抗体医薬品以外のバイオ医薬品においても、製造する目的物と不純物の高感度識別によって、品質の向上および収率向上に寄与することが期待されるとする。

両社は新システムについて、“バイオ医薬品製造の培養工程における品質安定化”および“バイオ医薬品製造のプロセス開発迅速化”への貢献が期待できるという。そして今後は早期実用化に向けて、新システムの実装検証を進めるとともに、製造プロセスの可視化と高度データ分析技術の確立を通じ、抗体医薬品をはじめとする高品質なバイオ医薬品の安定製造および製造コスト低減に貢献していくことを目指すとしている。