Anthropicは2026年6月9日、新たな最上位AIモデル「Claude Fable 5」を一般公開しました。Fable 5は、これまで一部の組織にしか提供されてこなかった「Mythosクラス」の能力を、安全装置を組み込んだうえで一般向けに開放したモデルです。
しかし、米国時間6月12日に突然、米政府が提供を停止しました。停止したのはClaude Fable 5に加え、同系統の「Claude Mythos 5」など最先端モデル群に及びました。
原稿執筆時点では提供はされていたため、筆者がFable 5を利用して、長年あきらめていた「15年分のFacebook投稿から、訪れたバーと飲んだお酒をすべて掘り起こす」というプロジェクトに挑みました。今回は、そのレポートを紹介します。再開も想定されることから、今後の一助になれればと思います。
15年分の記録がFacebookに眠ったまま手も足も出なかった
先日、友人とバーで飲んでいたときのことです。その場にいた一人が、これまで行ったバーのデータをすべてGoogleマップにプロットしているというのです。思わず「いいなー」と漏らしたところ、「ITライターが何を言ってるんだ」と総攻撃を受けました。いや、もちろんやり方は知っています。問題はそこではないのです。
筆者のすべての記録は、現在進行形でFacebookに蓄積されています。Facebookは全データをエクスポートできるのですが、5GBものデータを前に手の打ちようがありませんでした。
投稿とコメントが入り混じった膨大なファイル群から、店名と銘柄だけを抜き出すなど、人力では現実的ではありません。かといって「これから記録を付け始める」のでは、15年分の蓄積データがもったいなさすぎて、結局動けずにいました。
実は、AIで何とかしようと過去に何度かチャレンジしたのですが、いずれも挫折しています。コンテキストが足りない、途中で作業の筋を見失う、精度が出ない、といった壁にぶつかったのです。
ちなみに、Facebookのデータは「アカウントセンター」の「あなたの情報とアクセス許可」→「あなたの情報をエクスポート」→「エクスポートを作成」をクリックしてリクエストします。筆者の場合、ダウンロード可能になるまで約3日かかりました。
Fable 5はタスクが長いほど差が開く「Mythosクラス」のAI
Fable 5を簡単に解説しておきましょう。Anthropicは2026年4月、極めて高いサイバーセキュリティ能力を持つ「Claude Mythos」を、米政府と連携した「Project Glasswing」の枠組みで一部組織に限定提供していました。
Fable 5はこのMythosクラスの能力を持ちながら、悪用リスクの高い領域に安全装置を組み込むことで、初めて一般提供にこぎ着けたモデルです。サイバーセキュリティや生物・化学などのリクエストには応答しない仕組みを備えています。
Anthropicは「これまで一般公開したどのモデルをも上回る能力」と謡っており、ソフトウェア開発のエージェント評価であるSWE-bench Proでは80.3%を記録。最大の特徴は、タスクが長く複雑になるほど他モデルとの性能の差が広がるという点です。
これまでの生成AIは大規模なタスクを渡しても、途中でトークンを節約したり、手を抜き始めることがあります。長時間の自律実行に耐え、複雑なプロジェクトでも筋を見失わずに粘り強く進められるのは期待したいところです。
トークンが溶けるFable 5には実作業ではなく指揮を任せる
Claudeのデスクトップアプリで、「Code」タブを開き、Facebookからダウンロードしたデータのフォルダを連携させます。続いて、右下のメニューから「Fable 5」を選択し、プロンプトを入力しました。
まずは素直に、Fable 5に全作業を頼んでみました。結果は、速攻でトークンが溶けました。MAX 200ドルプランの利用枠が、みるみる燃えていきます。15年分の投稿の全件精読を最上位モデルにやらせるのですから、当然といえば当然です。
これではトークンがいくらあっても足りません。ただ、作業の進め方自体は的確で「やればできそう」という手応えはありました。
そこで体制を変えます。大量の読み取りやCSV生成のような手数の多い作業は、ChatGPTアカウントで使うCodex CLIに渡し、Fable 5には全体設計と進行管理、つまりオーケストレーションに専念させることにしました。
Facebookエクスポートデータから飲食店訪問履歴と飲酒履歴を抽出・分析するプロジェクトを作成してもらいます。その際、Fable 5はオーケストレーターに徹してもらい、実際の作業はCodex CLIに委ねます。
このとき、絶対にサブスク枠を使うことを厳命しました。飲食店履歴はGoogleマップのマイマップに登録することも伝え、データを作成してもらいます。細かい処理方法などはお任せです。
最初はなぜか、Codexを筆者が手動で操作するよう指示が出たのですが、「できるだけ自動で進めたい」と伝えたところ、あっさり対応してくれました。あとはFable 5がCodexのセッションを立ち上げ、作業を割り振り、結果を検収するループを勝手に回してくれます。筆者がやることは、時々求められる確認に答えるくらいです。
時々、データを精査した結果が表示され、次のステップの許可が求められます。「承認」と答えると作業が続行します。途中、数十分画面が変わらないことがあり、不安になって「報告を待てばいいの?」と聞くと、「基本は待っていただくだけで大丈夫です」と返ってくるので、おとなしく待つ。
実は途中で、生成AIにありがちな手抜き回答が出てきました。投稿から機械検出で飲食店に行っているものだけを抽出し、そこから精査を始めようとしていたのです。筆者の投稿は日記のようなもので、言葉足らずな文章も多いのです。そこで、何セッション使ってもいいから、全投稿を精査するように指示しました。
15年間で訪れた店がずらりと地図上に登録
そして、数時間。Fable 5と裏で動くCodexが黙々と稼働し続け、作業が完了しました。「maps」フォルダには、GoogleマイマップにインポートするためのCSVファイル「mymap_venues.csv」も作成されています。
完成したCSVをGoogleマイマップにインポートすると、15年間で訪れた店がずらりと地図上に登録されました。これまで夢だったタスクが完了した瞬間です。バーで総攻撃を受けたかいがあったというものです。
地図を眺めているだけで、あの夜この店で何を飲んだか、記憶が次々とよみがえってきます。今後は新しい店をマイマップに直接登録していけばよいわけです。
店のCSVだけでなく、3715杯分の酒のリストや分析レポートも生成されました。この情報も欲しかったのです。何を飲んだことがあるのか、どんな傾向があるのかを分析したいと思います。
また、自動生成された分析レポートも面白かったです。圧倒的にバーに通っている数が多く、想像通りウイスキーを最も飲んでいました。バーに通っている頻度もわかり、近年はどんどん減っているのが数字に表れていました。
2013年はほとんど毎日のようにはしごしており、投稿から確認できるだけで377回も店を訪れていました。
分析レポートをもとにカッコいいWebページを作成
せっかくなので、この分析レポートをもとにカッコいいWebページを作ってもらうように依頼しましたが、この程度なら数分で完了します。
生成されたHTMLファイルを開くと、「琥珀の十五年録」と痺れるタイトルのページに、見栄えのするランキングが表示されました。飲んだお酒のランキング、通った店のランキングなど15年分の飲酒データを分析できます。自分の歴史が可視化される体験は、想像以上に楽しいものでした。
15年の中、バーで一番飲んだお酒は「アードベッグ」でした。オフィシャルボトルだけでなく、ボトラーズやハイヴィンテージなど36種類の「アードベッグ」を堪能したようです。一番好きなお酒なので、当然と言えば当然ですが、数字で見ると説得力があります。
最終的な処理はどの程度の規模?
最終的な処理を確認すると、Codexが実際に読んだテキストは1万6530件で、2011年から2026年までの15年分です。使用したCodexセッションは約30。3並列のループに加え、QA、店名・銘柄辞書の構築、修正作業を回した結果です。ここから来店1954回、3715杯分の記録が抽出されました。
生成AIが費やした利用枠は、筆者の環境ではClaude Max 200ドルプランと、ChatGPT Proで使えるCodex側の枠を、どちらもぎりぎり使い切らないくらいでした。Fable 5だけで処理していたら、間違いなく終わっていませんでした。
筆者の記憶だと、訪れた店の数も飲んだ杯数ももう2~3倍ありそうなのですが、単にFacebookに記録していないか、酔ってAIが特定できないような書き方だったのかもしれません。次は、Facebook投稿の写真や動画、Googleの位置情報なども同時に分析させて、より高精度のデータを抽出できるようなプロジェクトにチャレンジしたいです。
とはいえ結論として、Fable 5の実力は圧倒的です。ただし、検索を交えた大規模プロジェクトを丸ごと任せるとトークンが溶けるので、実作業は他のAIに任せ、Fable 5にはオーケストレーションをさせるのが現実的な使い方でしょう。最上位の知性は判断と設計に使い、手数のかかる作業は安価な働き手に振ると使い勝手がよいです。












