AppleがIntelに半導体の生産を委託することで暫定的に合意したと、米ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)が5月8日付けで報じた。同紙によると、AppleとIntelは1年以上にわたる協議を経て、この合意に至ったとのことである。

Appleの事情に詳しいアナリストのミンチー・クオ氏が2025年に、「2027年からIntelがローエンドのMシリーズチップを製造する可能性がある」と指摘していたが、WSJの今回の報道では、まだIntelがどの端末向けチップを製造するのかは不明だとしている。以前、AppleはIntelの設計・製造チップを自社製品に採用したことがあったが、今回の契約は、Appleが設計したチップをIntel Foundryが製造受託することになるという。

WSJの報道に先立つ5月5日には、経済メディアであるBloombergが、Appleは自社製品向け主要プロセッサの製造委託先として、IntelとSamsungの米国内工場を検討する予備的な協議を行っており、これはTSMCに次ぐ第2の選択肢を確保するための動きだと報じていた。いずれも、AppleやIntelからの公式発表ではなく、Apple/Intelの事業に詳しい関係者の情報に基づいたものとしている。

AppleがIntelで製造を行うそれぞれの事情

こうした米国メディア各誌の動きの背景を探ってみよう。

Appleは、iPhone、iPad、Mac、Apple Watchなどの自社製品向け半導体チップ(AシリーズやMシリーズ)をほぼ独占的にTSMCに製造委託してきたが、一部の製品が予想を超えて人気となった際、半導体供給不足の影響で流通量を増やせないことがあった。しかも昨今のAIブームの影響から、TSMCの先端プロセスラインの確保が難しくなってきており、IntelやSamsung(サムスン)などの先端プロセスラインも併用することで、調達リスクを分散しようとしていると業界内では噂されていた。

また、米国への半導体およびその最終製品の生産回帰を強引に進めようとしているトランプ大統領がホワイトハウスでAppleのクックCEO(当時)と会談し、Intelを起用するよう個人的に働きかけたとの指摘もある。Appleは、トランプ政権の要請に従い、米国内での自社製品およびそのための部材製造のために、米国内で総額6000億ドルもの投資を行うことを決めており、その中にはSamsungの米国半導体工場に対する投資も含まれている。一方、米国政府は2025年8月に、Intelに対して約89億ドルを出資して9.9%の株式を取得。筆頭株主となっており、Intelに対する発言権は大きなものとなっている。

ソニーがTSMCと合弁、Apple向けイメージセンサをTSMCの米国工場で製造か?

一方、Appleの半導体チップ生産を一手に引き受けてきたTSMCだが、最先端プロセスについては台湾政府の意向もあり台湾域内での生産が優先されている。そのため、同社の米国アリゾナ工場では、1~3世代古いプロセスでの製造となる。Appleが地政学的リスクを避けて、最先端となる2nmやそれ以降のプロセスを米国内で製造委託しようと思うと、すでに試作を進めているIntelしか委託先がないこととなる(Samsungも2026年後半にテキサス州テイラーの新工場を稼働開始予定で、そこで製造できる可能性があるが、順調に立ち上がるかは不確実である)。

またAppleは、CMOSイメージセンサ(CIS)についてはソニーが日本の工場で製造したものを採用してきたが、トランプ政権の米国への生産回帰戦略に従う形で、Samsungのテキサス州オースチン工場で製造されるCISに一部あるいは全量切り替える準備を進めていると噂されている。ソニーもAppleの米国市場向け製品用CISを米国で製造する必要があることを認識しており、すでに2025年11月開催の業績説明会で「米国で自社量産するのはハードルが高い。パートナーとの共同投資など米国での生産に向けて何かできないか、明確な答えはないが検討を続ける」と述べるなど、米国での製造を意識していることを明らかにしている。

このソニーのCIS用周辺ロジック回路はTSMCが製造を担当してきたが、CISのプロセス自体は極秘扱いとして自社製造にこだわってきた。先般、両社は合弁会社設立に向けた戦略的提携を発表したが、表向きには「設備投資を抑えて収益性を上げるファブライトを目指す取り組みの第一段階」としているが、実際はTSMCの米アリゾナ工場でCISを製造するための第一歩ではないかと見る向きがある。ファウンドリが製造受託に留まらず、顧客と合弁会社を設立して製品開発に取り組むことは、ファウンドリとしての公平性を失うことになるため、よほどのことがない限りタブー視されているのだが、この動きが事実だとすれば、そのよほどのことが起きようとしていると見ることができる。