初めての妊娠。右も左も分からない。そんな中で、人はそれぞれの悲しみや不安、楽しみや喜びを経験していく。本連載は、初産を経験したママやパパの”妊娠中期・後期”にフォーカスを当て、ひとりひとりのトツキトオカに迫る企画です。「仕事」「夫婦関係」「メンタル」の面から見える、それぞれの妊娠中の心の動き。記念すべき第1回は建築家の成瀬友梨さんにお話を伺いました。
建築家の成瀬友梨さんは、保育園に通う息子さんと旦那さんの3人暮らし。息子さんを妊娠した頃は、それまで通りの忙しい日々を送っており、まったくと言っていいほど出産の準備をしていなかったそうです。そのため、妊娠後期と産後の苦労は相当なものだったのだとか。また、代表取締役を務めている事務所のピンチとも重なり……。妊娠中の過ごし方やトラブル、当時のご苦労など振り返っていただきました。
妊娠5ヵ月目で海外出張。8ヵ月目に「絶対安静」を命じられ……
妊娠前から活動的に仕事をしていた成瀬さん。国際交流基金が主体となっている、若手クリエイターの海外派遣プログラムに招かれ、ニューヨークとサンフランシスコへ行けることに。
「さすがにまずいかと思ったのですが、産科医の先生に相談したところ、状態がよかったので『行けそうですよ』と言われて。だから出張には問題なく行くことができました」
ところがその余裕から、夏には薄手のワンピースを着てアイスを食べるなど、おなかを冷やしてしまうこともしてしまい、「妊婦という自覚が全然足りなかった」と成瀬さんは言います。
「8ヵ月くらいになったころ、どうも調子が悪く、おなかも張ると思っていたところ、定期健診で切迫早産の危険性があることが発覚。お医者さんにすごい剣幕で『すぐに仕事を休んで自宅で安静にしてください!』と言われてしまったんです。翌日から会社へは行けませんでした。」
大好きな建築家の仕事。だからこそ妊娠中も、これまで通りの通勤や、深夜に及ぶ残業など、妊娠前と同様の生活を止めることはありませんでした。それに加え、楽観的な性格から、妊娠中や産後について調べることもなかった成瀬さん。しかし「絶対安静」を告げられたのを機に、今までの生活を変えざるをえませんでした。
幸いにも、共同経営者とすべての情報をシェアしていたため、引継ぎなどの作業は不要でした。ところが、事務所ではちょうど大きなプロジェクトが止まってしまったことなどもあり、経営的に苦しい時期だったのです。営業担当だった成瀬さんが一時的でも抜けることは、事務所の大きな痛手になります。
「『絶対安静』と言われたので、命の方が大事だからと腹をくくりました。共同経営者には『事務所はお任せする。つぶれても責めないから』というくらいの覚悟でお願いしました。私が復帰してから『あの時は本当にきつかった』と漏らしていましたが、大事な時期を一人で乗り越え、何とか持ちこたえてくれて感謝しています」
自宅で「絶対安静」になり、夫が料理をしてくれるように
絶対安静となり、その前まで夫婦間で成瀬さんが担当していた食事の用意ができなくなってしまいました。
「夫も建築士で在宅勤務なので、食事を作ってくれるようになりました。もともと家事はいろいろとやってくれるほうだったのですが、食事はお互い買って済ませることが多かった。でも、私の体を心配して、野菜中心の食事を毎日作ってくれていました。本当にありがたかったですね」
2人とも両親が遠方なため、頼れるのはお互いのみ。ですが、初めての妊娠で夫婦ともに産後を想像できず、「なんとかなるだろう」と何も準備していなかったのだとか。しかし「絶対安静」になったことで、産後を意識した成瀬さんは臨月直前になって、赤ちゃん向けの情報誌を見ながら、スマホで出産後に必要になりそうなものを注文し、準備を行いました。それでも「全然足りなかった」と成瀬さんは話します。
「実は、産後にとても苦労したんです。抱っこの仕方もよくわからないし、母乳の出もよくなかった。また、夜泣きで起こされるからずっと寝不足。夫にあたってしまったこともありました。夫は我慢はしてくれていましたが、本当に悪いことをしたなと。もしかしたら、“産後うつ”だったのかもしれません。今思えば、もっと早くに情報を集めて、経験者の人にちゃんと話を聞けばよかったと強く思います。」
「産後は睡眠不足になる」といっても、それがどれくらいのものなのか、自分一人で想像するのは難しいもの。もっと周りに頼り、具体的にイメージしておけば、夫婦間で何かしらの工夫ができたかもしれません。
おなかの赤ちゃんを大切にしなかったことにすごく落ち込んだ
「今思えば、妊娠中期からもっと安静にしていればよかったんだと思います。混んだ電車に乗らない方法や、関係者に自宅に来てもらってミーティングする方法だってあったかもしれません。7~8ヵ月くらいからおなかの張りが気になっていたので、そのときにもっと早く帰っていればよかった。自分とおなかの赤ちゃんを大切にしなかったことにとても後悔しました。これから、周囲の人が妊娠をしたりしたら『とにかく無理をしないで!』って言うと思います」
切迫早産が危ぶまれたこともあり、子どもが無事に生まれてくれたときには、喜びというよりもほっとした気持ちが大きかったのだそう。
「無事に生まれてくれるかずっと不安だったので、とても安堵しました。でも、出産時にはすごく驚くことがあって。赤ちゃんが出るところでひっかかってしまい、苦しくなってしまう可能性があったので、いきなり助産師さんが私のおなかに馬乗りになったんです!(笑)」
馬乗りになられた直後、無事赤ちゃんを出産し、母となった成瀬さん。しかしホッとしたのも束の間。産後の生活について深く考えていなかった成瀬さんは、育児の方法が分からず、困ってしまいました。そんなとき、産後の赤ちゃんのお世話を教えてくれたのは、助産師さんやシッターさんでした。
「最初は仕事に出る必要があってシッターさんを依頼したのですが、子どもにすごく慣れているので驚きました。『ああ、そんな風にあやせば泣き止むんだ!』と、親に頼れない分教えてもらいましたね」
出産を通して、様々な人に助けられ、人に頼ることの大事さを学んだ成瀬さん。特に妊娠中は、経験者に話を聞くことが大事だろうと現在は考えているそう。
「今、私の息子は保育園に預けていますが、同級生のママ友の中には上の子が小学生、というご家庭も多い。そうすると、小学校に行くとこんなことがあるよ、と教えてもらえるんですね。そういうリアルな話を沢山聞くことが、産前でも大事だと思うんです。想像するならリアルな話を聞いてするほうがいい。私も子育てしてみて『想像よりもずっと大変!』と感じています。仕事なら自分が頑張ればある程度思う通りに進みますが、子どもは徒労に終わることも多々あります。努力が報われないというのは、とても辛いですよね。」
妊娠の中・後期はさほど苦労がなかったものの、最後の最後に切迫早産の危険性から絶対安静になってしまった成瀬さん。さらには、産後を想像できていなかったために、準備が行き届かず、育児では苦労したと当時を振り返っていました。すべてを準備しておくことは難しいでしょうが、産後をできる限りイメージしたうえで、出産に臨みたいものですね。
最後に成瀬さんが次回の方に質問したいことを聞いてみました。
こちらの質問は、次回の方にお聞きします。第二回の連載をお楽しみに!
ライター:栃尾江美
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