ここ数年、「ウェルビーイング」というワードが注目を集めています。これはWell(よい)とBeing(状態)が組み合わさった言葉で、心身ともに良い状態にあることを表した概念です。特に日本の未来を担う若者たちのウェルビーイング向上は喫緊の課題といえるでしょう。

今回、目指すべき企業像に「“はたらくWell-being”創造カンパニー」を掲げるパーソルホールディングス株式会社 代表取締役社長CEO(最高経営責任者)の和田孝雄氏と、ネットの力を使って学生に多様な選択肢を提供し続ける学校法人角川ドワンゴ学園 N高等学校・S高等学校の理事長・山中伸一氏による対談が実現。若者世代のウェルビーイングに焦点を当て、「学生・若者世代のウェルビーイング向上に私たちができること」をテーマに語り合っていただきました。

  • パーソルホールディングス株式会社 代表取締役社長CEO・和田孝雄氏(写真右)、学校法人角川ドワンゴ学園 N高等学校・S高等学校の理事長・山中伸一氏(写真左)

「女性が生き生きと働ける社会」を創りたいという想いから生まれたパーソルホールディングスと、ネットで学ぶことをコンセプトに若者の可能性を広げたN/S高

――パーソルホールディングスの事業や歴史について教えてください。

和田:
パーソルホールディングスはちょうど50年前、たった1人の女性の想いから始まった企業です。当時は女性の働く環境が十分とはいえず、それなら「女性が生き生きと働ける社会」を自分で作ろうと考えたのが創業者の篠原欣子でした。

現在のパーソルホールディングスは総合人材サービス会社として、人材派遣サービス「テンプスタッフ」、転職サービス「doda」、BPOや設計・開発など、人と組織にかかわる多様な事業を展開しています。また海外進出にも積極的に取り組んでおり、主にAPAC(アジア太平洋)地域で同様のビジネスを行っています。

また、2023年に公表した「パーソルグループ中期経営計画 2026」では、ありたい姿を「“はたらくWell-being”創造カンパニー」としました。多様な働き方の提供と学びの機会の提供を通して、人の可能性を広げることで、2030年までに100万人のより良い“はたらく機会”を創出することを目指しています。

――次にN高等学校・S高等学校について教えてください。

山中:
N高は2016年に出版をはじめとして様々な事業を行っているエンタメ企業のKADOKAWAとゲームやプラットフォームの会社であるドワンゴが創立した、オンラインと通信制高校の制度を活用したネットの高校です。その後、2021年にS高が開校となりました。ただ、創立当時は賛否両論、様々な反響がありましたね。たとえばN高にはゲームを学ぶ授業もあるのですが、当時の“普通”の感覚だと、ゲームは教育とは真反対の存在です。

しかし、N高はゲームのような「遊び」と「学び」を結びつけて、楽しみながら学ぶ環境を作りました。さらに、オンラインなら世界中とつながれるし、広い世界を見ることで生徒たちの将来の可能性を広げられます。こうしたN高のような取り組みは画期的な出来事だったと思います。

和田:
私もN高創立のニュースは覚えています。そのコンセプトに衝撃を受けましたし、その後の躍進にも注目していました。文化祭や運動会をオンラインで開催したり、自治体との取り組みを行われたりと、生徒たちの主体性や実践を重んじる教育をされているんだなと思いました。

はたらくことを通して人生を豊かにできる社会を目指すパーソルホールディングスと、新しい時代の教育の最先端を目指すN/S高。それぞれが思い描く世界観

――パーソルホールディングスはグループビジョンとして「はたらいて、笑おう。」を掲げています。どのような想いが込められているのでしょうか。

パーソルホールディングスのホームページ

パーソルホールディングスのホームページ(一部)※画像クリックで詳細へ

和田:
「はたらいて、笑おう。」は、私たちの経営理念である「雇用の創造、人々の成長、社会貢献」ともつながっており、我々の根幹を成す考え方です。

私は世の中の人々に仕事を通して成長してほしい、より良い人生を送ってほしいと願っており、それを体現している姿こそが「はたらいて、笑おう。」ではないかと思うのです。仕事は人生の3分の1を占める大事な時間ですから、その時間を退屈に過ごすのはあまりにももったいない。働くことを通して人生を豊かにできるような社会を作っていきたいと思っています。

――N/S高が教育を通して目指しているものについて教えてください。

パN高等学校・S高等学校ホームページ

N高等学校・S高等学校ホームページ(一部)※画像クリックで詳細へ

山中:
N/S高が創立される以前、通信制高校や通信教育に対する社会の見方はあまり良いものではなかったと思います。やはり学校は全日制が普通で、それ以外として定時制高校があり、さらに「その他」という形で通信制課程があるといった認識でした。我々はそうしたイメージから脱却し、通信制高校で新しい時代の最先端のオンライン教育を提供するんだという想いを持っています。

現在はリモートワークなどオンライン環境で仕事をすることも当たり前になっています。その意味で、N/S高でインターネットを使いこなすスキルを身につけることは、これからの社会を生きる力を身につけることなのだと確信しています。また、現在は「通学したい」というニーズに応えるため、通学コースのキャンパスも全国69カ所に設けています。

転職がネガティブだったのははるか昔。若者のウェルビーイング実現のためにも社会はもっと多様化する

――日本でも少しずつウェルビーイングに取り組む企業が増えてきましたが、教育現場でもウェルビーイングは注目されているのでしょうか。

山中:
教育現場でもウェルビーイングには非常に注目されています。そもそも、生徒一人ひとりの力を伸ばして自己実現につなげ、幸せになってもらうこと……つまり、ウェルビーイングの実現こそが「教育」の役割ですからね。ただ、従来の教育システムではウェルビーイングの実現には課題があるとも考えています。

たとえば大学入試です。日本は大学に入学するための学力を身につけることが高校教育の目的になっているため、高校のうちは好きなことを我慢して勉強し、大学に入ってから自由にやるものだという考え方が多い印象です。この教育システムには批判もあり、変えようという動きもありましたが、結局今も変えられていません。

我々はそのような状況を変えたいと思っています。高校生には従来の大学入試で重視されるような「瞬間的に測れる学力」ではない力を身につけてもらい、自分の力を発揮できる場で活躍できるような、そういった機会を提供したいのです。

和田:
企業にとっても多様性は重要ですね。多様性のない企業では新しい視点や価値観が生まれにくく、組織として弱くなってしまいます。国籍性別関係なく多様な人が集まり、新たな価値観を許容し吸収することが、組織としての強さになっていくのです。

実際、大企業や優良企業は中途採用を積極的に行っています。これは、まさに組織外の知識や知見を取り込み、自社のものと組み合わせることの必要性を認識されているからでしょう。「転職」に対する価値観は昔とは大きく異なっています。

山中:
その通りですね。昔の話ですが、「七五三」という言葉がありました。これは「中学を卒業して就職すると3年以内に7割が転職する。高校を卒業して就職すると3年以内に5割が転職する。大学を卒業して就職すると3年以内に3割が転職する」という意味の言葉です。この言葉に込められているのは、「転職は悪いこと」だという価値観なんです。

しかし、今はもう転職は悪ではありません。自分の将来を考えたり可能性を伸ばしたりするために転職して経験を積むことは、むしろ良い選択といえるでしょう。

和田:
これからの人口ピラミッドを考えると、少子高齢化で必要な人材を確保しにくくなることは間違いありません。いくらAIやロボットが発達しても、企業が成長するためには絶対に人は必要ですからね。そして人材を確保するには、企業の方が人材に選ばれる存在にならないといけないというのがこれからの大きな流れです。

我々は人材紹介ビジネスをやらせていただいていますが、やはりエンゲージメントが高い人(※1)ほど勤続年数は長くなるんですよ。逆にエンゲージメントの低い企業は離職率が上がる傾向にあります。ではどうすればエンゲージメントが上がるのかといえば、従業員が働くことに対するオーナーシップをしっかり持てているかどうかや、仕事をする意味をしっかり感じられているかどうか、今の仕事と自分自身のWill(自分がやりたい事)がつながっているかどうかなどが重要なんです。そうであるなら、企業はそこに向けた取り組みをしないといけません。

※1 社員が企業のビジョンや事業、方向性などに共感している状態。

不安をお持ちになる経営者もいらっしゃいます。たとえば副業を認めてしまうと、人材が流出してしまうんじゃないかとか。しかし、そうではありません。むしろ副業を通して自分自身の価値を再発見し、仕事へのロイヤリティが高まる人が多いのです。

将来世代の声を経営に活かす「FR活動」に力を入れるパーソルホールディングスと企業や公的機関との協業プロジェクトを取り入れるN/S高

――パーソルホールディングスとN/S高が若者のウェルビーイング向上のために実践していることやサポートしていることを教えてください。

和田:
パーソルホールディングスは総合人材サービス会社ですので、人々の「はたらく」に焦点を当てたウェルビーイング推進に力を入れています。そのうえで、私たちは将来世代の声を社内外のウェルビーイングを実現する経営に活かす「FR(Future Generations Relations)」活動を推進しており、若者に向けても様々な対話プログラムを提供しています。

  • パーソルホールディングス 「FR(Future Generations Relations)」活動より

たとえば小学校中学校向けには「“はたらく”を考えるワークショップ」を実施しており、これまでに多くの学校に参加いただきました。このプログラムでは、パーソルグループの社員がどんな仕事が世の中にあるのかを紹介したり、職場体験を行ったり、仕事の意義を学校の生徒や児童にお伝えしたりする出前授業を行っています。

このプログラムを通して気づいたのですが、仕事に対して「辛い」とか「やりたくない」のようにネガティブな印象を持っている生徒や児童がいらっしゃるんです。なぜそう思うのかを聞くと、普段からご両親や身近な大人たちが仕事についてネガティブにお話されているからとのことでした。やはり親御さんをはじめとして、大人の役割というのは重要だと感じます。パーソルホールグループの出前授業を通して、そういったネガティブなイメージが払拭されたお子さんも多いと聞きます。

また、高校生向けには、高校生の国内留学を支援する「地域みらい留学」事業などを手掛けている「地域・教育魅力化プラットフォーム」を、ビジョンパートナーとして支援をしています。
昨年からは、「みらいキャリア」として全国の高校生(希望者)に対しオンラインでのキャリア授業や、当社の社員がメンターとなってキャリアのアドバイスをする活動をはじめています。これは大学受験の前に、なりたい将来像を見つけてい、将来、はたらいて、笑ってくれる人たちが一人でも増えてほしいという想いで実施をしています。

「FR(Future Generations Relations)」活動をもっと詳しく知る

山中:
N/S高では、高校生が社会に出て活躍するための知識やスキルを身に付けるプロジェクト型学習を実施しています。特徴的なのが企業や公的機関とコラボレーションすること。たとえば通学コースでは、企業と一緒にスポーツ選手向けの栄養補給商品を開発するといった取り組みを行いました。その他にも、山口県でのイカ釣り体験や山形県でのマタギ体験、高野山での僧侶体験など、様々な職業体験プログラムも行っています。

  • N高等学校・S高等学校ホームページより(一部)

プロジェクト型学習はオンラインコースでも実施しています。探究学習に取り組む全国の高校生が一堂に会するアワードにN/S高からも毎年出場しており、好成績を残しています。

他にも海外進学や難関大学進学をするため、専門の組織を学内に設けてサポートしています。重要なのは、こうした動きが常に生徒側からの要望によって生まれていることです。生徒自身がN/S高のカリキュラムを通じて自分のやりたいことを発見し、学校側がそれに全力で応えるという流れが起きているのです。

和田:
生徒がしっかりとした意思を持っているというのは本当に素敵なことだと思います。成長することで新たな景色が見えて、そこからまた先に進みたくなるという良いサイクルが生まれますよね。

多様な選択肢を提示することや、相手を信頼することがウェルビーイング向上につながる

――学生や若い世代がウェルビーイングを実現するために、企業や学校はどのようなことをすべきでしょうか。

和田:
若者に限ったことではありませんが、やはり仕事をすることの意味や意義をきちんと伝えることは大事だと思っています。自分はこの仕事を何のためにやっていて、誰の喜びにつながっているのか。そこが感じとれるかどうかは、ウェルビーイングの向上に大きく関わってきます。

そのために重要なのはやはりコミュニケーションです。1on1(※2)などを実践されている会社も多いと思いますが、その際にはお互いに「相手のために時間を使うんだ」という意識を持つことが大切です。また、「多様な選択肢がある」ことを示すことも大事です。特に若い方は仕事で失敗することも多いでしょう。そのとき、必ずしも道は1つではないことを提示したり、場合によってはその人がパフォーマンスを発揮できる環境を作ってあげたりすることも必要になります。上長との組み合わせ次第でがらりとパフォーマンスが変わるということもありますからね。

※2 上司と部下が1対1で行う、定期的な面談の事。

山中:
学校として重要なのは、何といってもまずは生徒を「信頼」することです。世の中がどんどん変化し、何が正しいのか先生自身も常に考える必要があります。「学生だから」といって未熟と決めつけるのでもなく、生徒の考え方を尊重し、信頼するところから始めなければなりません。

和田:
「信頼」というのはすごくいいフレーズですね。信頼されるからこそ信頼できるし、生徒にとっても学校が心理的安全性の担保された場所になるでしょうね。

――最後にパーソルホールディングスとN/S高として、今後取り組んでいきたいことを教えてください。

和田:
パーソルホールディングスは「“はたらくWell-being”創造カンパニー」としてより良い“はたらく機会”の創出することをミッションとしています。まずは本業を通して若者のウェルビーイングの向上に取り組んでまいりたいと思います。
また、FR活動におけるこれまでの取り組みを引き続き継続することはもちろん、パーソルホールディングスの社員にもプログラムの提供を通じて成長してほしいと思っています。小中学生や高校生と接する機会を増やしていくことで、我々が社会人として持っている経験や知見を提供させていただき、若者のウェルビーイング向上に貢献していきたいと思います。

山中:
N/S高は現在、3万人近い生徒数を抱えるまでになりました。卒業生は毎年1万人近い規模になっており、卒業後についても「N高のような大学があればいいのに」というお声をいただくことが増えています。そこで我々は現在、新しいオンライン大学「ZEN大学」(仮称・設置認可申請中)の開学を目指しています。日本は地域によって教育格差がまだまだ存在し、なかには大学進学をあきらめる方もいらっしゃると思います。そういった地域格差や所得格差、男女格差などを是正し、オンラインを活用してこれからの時代を生きる力をつけていただきたいと考えています。

パーソルホールディングス“はたらく Well-being”特設サイト
N高等学校・S高等学校 公式ホームページ

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