働き方に対する価値観が多様化するなか、仕事と家庭の両立をどう実現するのか、積極的に考え行動する人が増えています。また、転職が一般化し、個人が自分にあった仕事を選ぶ機会が増えるなかで、優秀な人材をどのように採用し、定着させるかが多くの企業の課題となっています。
そんな課題に向き合い、テレワークを活用して魅力的な働く環境を作っている企業が、総務省の「テレワークトップランナー2023 総務大臣賞」に選出されました。
本記事では、「テレワークトップランナー2023 総務大臣賞」に選ばれた6企業のうち、アフラック生命保険株式会社とシェイプウィン株式会社の担当者に伺ったお話を紹介します。 その他の受賞企業のインタビューも記事末尾のリンクよりぜひご覧ください。
総務省「テレワークトップランナー2023 総務大臣賞」とは?
テレワークの普及促進に向け、総務省が実施している表彰。テレワークの導入・活用を進めるとともに、優れた取組を行っている企業・団体を選定、公表しています。 2023年度は「テレワークの活用による経営効果の発揮」「テレワーク時のコミュニケーション・マネジメント面の課題解決」「地域産業の活性化や地域情報化の推進等の地域課題解決への寄与につながる取組」という3つの観点も重視され、審査が行われました。
|
アフラック生命保険株式会社 人財戦略第一部 部長 伊庭達也さん
人財戦略第一部では、人事企画や人財開発、HRテックなど、人財の力を最大限引き出す環境作りに取り組んでいる。 |
――貴社でテレワークを導入した背景を教えてください。
伊庭さん 多様な人財が活躍できるためのダイバーシティ&インクルージョン推進と、長時間労働を改善する働き方改革の一環として、テレワークを導入しました。
業界特有の事情かもしれませんが、保険会社は、正確かつ安定した業務運営を行う必要があり、弊社の業務でも「ルール通り」が求められる場面が多くあります。その一方で、超VUCA(※)と呼ばれる予測困難な時代に、お客様に新たな価値を提供するためには、多様な人財が既存の概念に捉われず変化を先取りして新たな価値を創造する、イノベーション企業文化を醸成することが必要となってきました。
※先行きが不透明で、将来の予測が困難な状態のこと
また、長時間労働をしないと昇進できない、キャリアが形成できない、という不安を抱えた社員もいたと思います。「ライフステージが変わり、長時間働けないタイミングが来ると活躍しにくくなってしまう」といった雰囲気が意図せず作られていたことは、否定できません。こうした状況を改善するためにも、テレワークなどを活用し始めました。
――テレワークを導入する際、苦労したことはありますか。
伊庭さん テレワークを始めたばかりの頃は、なかなか社内に浸透せず苦労しました。新型コロナウイルスの流行による外出自粛期間を経て、結果的にテレワークが広まったと感じています。
テレワークを定着させるために大切にしたことが、経営トップのメッセージをしっかり伝えることです。「会社の成功、そのために社員全員がよりよい仕事をするためにテレワークをどう活用するのか」といったことを伝えておかないと、どこかでネガティブな声が生まれてしまいます。
さらにコミュニケーションやマネジメントの難しさを克服するために、全所属長を対象にテレワークにおけるマネジメント研修を行いました。社員に対しては、テレワーク中のコミュニケーションでは発信がとても重要になる、などの内容を研修で伝えています。
――アフラックではテレワーク導入前の2014年と比較し、20代~30代女性の離職率が半減しました。要因について、どう考えていますか。
伊庭さん ダイバーシティ&インクルージョン推進と、働き方改革を同時に進めた成果だと思います。これらの取り組みを推進する前提として、社員に「アフラック Work SMART」を浸透させました。
「アフラック Work SMART」とは、「視野を広く持つ」、「対話を重ねる」、「時間を意識する」などの基礎となる考え方のもと、効率的な働き方や時間と場所にとらわれない働き方を実践するアフラック流の働き方改革です。そのうえでテレワークを活用することで、労働時間を削減するために効率的に働こう、と意識する社員が増えました。結果的に仕事と家庭の両立もしやすくなり、20~30代の女性の離職率が2014年と比較して半減したのだと思います。
――アフラックでは育児を理由にした短時間勤務制度の利用率が約28ポイント減少し、フルタイム社員が増加したことも受賞理由のひとつとなりました。なぜフルタイム社員が増えたのでしょうか。
伊庭さん もともと短時間勤務をしている社員の中にも、「もう少し働きたい」というニーズがあったと思います。
しかし以前は、短時間勤務をしていない人は長時間労働ができると見なされ、家庭との両立が難しくなっていました。そのため仕方なく短時間勤務を選ぶ社員が多かったのではないでしょうか。現在は会社全体の労働時間が削減されテレワークも導入されたことで、「もう少し働きたい」と思っていた社員たちがフルタイムで働けるようになりました。
さらにそんな社員の姿を見て、「子どもがいてもほかの人と同じように働ける」、「子育てがビハインドにならない」と周囲の意識が変わり、キャリアに対してもポジティブなイメージが会社全体に広まってきたと感じています。
――アフラックではテレワークをしながらでもキャリア形成ができるよう、どのような工夫をしていますか。
伊庭さん 弊社では2021年に新たな人財マネジメント制度を導入し、社員が主体的にキャリアを考え、実現できるようなサポートを始めました。
その取り組みのひとつがキャリア開発計画書(CDP)を、社員に任意で書いてもらうことです。「何年目で昇進」といった画一的なキャリアではなく、ひとつの業務のスペシャリストをめざすなど、自分自身が思い描く「個のキャリア」を可視化します。さらにCDPをもとに所属長と1on1の面談を行うことで、アドバイスや実務での育成を行うとともに、会社も個のキャリアを大切にしているのだと社員に実感してもらえるようになりました。
――CDPは任意とのことですが、活用している社員は多いのでしょうか。
伊庭さん 40%以上の社員がすでにCDPを書いており、約50%の社員が作成中です。しかし中には「CDPに何を書いたらいいのかわからない」、「キャリアとはそもそも何か」、と悩んでしまう社員もいました。そこでキャリアデザイン研修をオンラインで実施し、多様なキャリアの考え方や、CDPの活用方法などを伝えています。
――今後、より働きやすい環境を作るために取り組みたいことを教えてください。
伊庭さん ダイバーシティ&インクルージョン推進やテレワークなどの働き方改革によって、女性や子育て世代だけでなく、男性社員や独身社員など多様な人財がキャリアを描きやすい環境が整ってきたと感じています。
ただし、これから何が起こるかは誰にもわからないので、外部の環境変化やそこから生まれる社員の変化や悩みをアンケート等によりデータ化し、その膨大なデータをもとに実証的なアプローチをして、適切な解決方法を見出していくPDCAサイクルを回していくことが重要だと思っています。
また、オフィスワークとテレワークにはどちらもいい部分があります。業務の特性に応じてそれらを有効に活用することを目指し、戦略的なハイブリッドワークを続けていきます。
――ありがとうございました!
|
シェイプウィン株式会社 代表取締役 神村優介さん
24歳の頃、広報PRやデジタルマーケティング支援などを行うシェイプウィン株式会社を設立。代表取締役として経営全般に携わっている。 |
――貴社でテレワークを導入した背景を教えてください。
神村さん コロナ禍・海外顧客の増加などさまざまな要因が、フルリモート勤務の導入につながりました。社員が国内にいても海外にいても、テレワークを活用すればやりとりに支障はありません。従来通りオフィスに出社することもできますが、働き方の選択肢としてフルリモート勤務も導入しました。現在は20名中5名の社員がフルリモートで働いています。
――テレワークを導入する際、苦労したことはありますか。
神村さん 私が普段カナダに住んでおり、テレワーク勤務をするための環境がすでに構築されていたので、それほど大変ではありませんでした。
ただ、テレワークをやってみてわかった課題もあります。たとえば「アウトプットが見えない人は何をやっているのかわからない」という課題です。こうした不安をどう払拭していくのかを考え、仕事中の質問や悩みなど、小さなことでもSlackでアウトプットするよう社員に徹底させました。
私たちの業務はひとりで完結させられるものではないので、作業を進めていると質問や確認事項が自ずと出てきます。つまりアウトプットがないのは、仕事がうまく進んでいない兆候です。テレワーク中のコミュニケーションを可視化した結果、社員が悩んで手が止まっているときにいち早く気づいてサポートできるようになりました。
――シェイプウィンではテレワーク導入後に求人応募数が7倍になり、東京では人材獲得の競争が激しいPR・マーケティング系の専門人材を地方や海外から採用していることも評価されていました。多くの人が貴社に応募するようになった理由をどう分析していますか。
神村さん さまざまな理由がありますが、ひとつは昨年「テレワーク推進企業等厚生労働大臣表彰(輝くテレワーク賞)」の特別奨励賞をいただいたことが大きかったです。政府に評価されるテレワークをしていると証明できたため、口先だけでない企業なのだと応募者の方にも感じてもらえたのだと思います。
――ほかにも優秀な人材を確保するために工夫したことはありますか。
神村さん 求人を意識していたわけではありませんが、社内の取り組みを人事だけでなく、社員全員が発信していているのもよかったかもしれません。
弊社では社員が日常的にX(旧Twitter)に投稿して、会社の取り組みや自分の働き方を発信しています。たとえば「今から中抜けして保育園に子どもを迎えに行ってきます」という投稿を見ると、社外の方も「働きやすい制度があって、しかも社員に利用されている」と実感できると思います。実際にX経由で興味を持って入社してくれた社員も3~4人ほどいました。
ほかにもテレワークを円滑に進めるための取り組みの一環として、社員ひとりひとりの特色をデータベースにして可視化していたことも、求人票の質の向上につながったと思います。
――社員の募集内容に変化があったのでしょうか。
神村さん 求めるスキルなどを、明確に提示できるようになりました。今いる社員の特色がわかっていると、「どのスキルが会社に足りていないか」、「今後必要な人材はどのような人か」が見えてきます。その結果、弊社にマッチする人材を集めやすくなりました。
しかもテレワークを導入しているので、国や地域を問わず働けます。それも求人応募数の増加につながったのかもしれません。
――シェイプウィンでは離職率がもともと80%だったものの、テレワーク導入後は14%に低下しました。社員が働き続けたいと思えるようになったのは、なぜでしょうか。
神村さん 社員の状況に合わせて働き方を選べるようにしたことが、働き続けたくなるコツにつながっていると思います。
たとえばフルタイム勤務と短時間勤務の切り替えです。人生では何があるかわからないので、短時間勤務とフルタイム勤務を柔軟に行き来する働き方があってもいいはずです。ですから一度フルタイムで採用された社員が 、介護や子育てなど家庭の事情をきっかけに短時間勤務に切り替えるというケースもあります。一度フルタイムに戻っても、必要があればまた短時間勤務に戻れるようにしています。
――シェイプウィンではテレワーク導入後に実施した社内アンケートで、会社の取り組みに対して社員の100%が「大変良い」と回答していました。社員の方は貴社のどういった取り組みに魅力を感じているのでしょうか。
神村さん とくに好評なのは中抜け制度です。弊社では中抜け制度や有給休暇などを利用するときに、理由を添えて事前に申請する必要はありません。社員の私用に対して、会社が口を挟む必要はないからです。
私も子どもの送り迎えのために中抜け制度をよく利用していて、「この時間帯には仕事を入れないでほしい」と伝えています。役員が「自分の仕事に対する責任は果たしたうえで、制度をうまく使う」という姿勢を見せているので、ほかの社員も当たり前に会社の制度を活用できています。
また、弊社の顧客はヨーロッパ、アメリカ、アジアなど世界中にいるため、時差が常に影響しています。夜や早朝に仕事が入ることもあるので、勤務時間をある程度自由に調整できるようにしました。「明日は朝が早いから、今日は早めに仕事をあがろう」など、社員が自分の裁量で調整しています。その分成果も出さなければいけませんが、働きやすさにはつながっていると思います。
――今後、より働きやすい環境を作るために取り組みたいことを教えてください。
神村さん 働きやすい環境作りは社内でほぼ確立されてきましたが、社員が増えれば増えるほど、さまざまな不安も出てくるかと思います。社員ひとりひとりをしっかり見て、不安を取り除いていきたいです。
そのためにも1on1で社員に向き合う時間を設けています。上司に問い詰められるような形ではなく、体調や仕事に悩みはないかなどを社員から聞き、解決策を提案するような場です。わからないことがあれば相談していいのだと社員の意識に浸透させておけば、不安を解消しやすくなると思います。
――ありがとうございました!
「テレワークトップランナー2023 総務大臣賞」を受賞した企業に共通していたのは、「誰もが働きやすい環境を作る」という強い意志。社員一人ひとりが持つ多様な背景に向き合い、テレワークをうまく活用しながら、柔軟な働き方を実現していました。
転職が一般化してきた昨今、働き方に対する選択肢の多さを重視して企業を選ぶ人も増えています。好きな場所に住んでテレワークで働きたい、ライフステージが変わっても働き続けられる企業がいい、と考えている読者の方は、「テレワークトップランナー2023 総務大臣賞」受賞企業をチェックしてみてはいかがでしょうか。
[PR]提供:総務省