世界では温暖化による栽培環境の変化や爆発的な人口増加にともなう食糧危機、国内では就農者の高齢化など、いま、農と食をめぐる社会課題が深刻化しています。そこで今回は、植物科学やテクノロジーを活用したスマート農業などのソリューションで、農と食と健康の課題に取り組むベジタリア株式会社 代表の小池聡さんをお迎えし、持続性の高い農と食の実現について語り合いました。

日本の技術で地球温暖化や食糧問題に貢献

福井:ベジタリアでは、多岐にわたる事業に取り組まれていますね。まずはその概要をご紹介いただけますか。

小池:最新の科学とテクノロジーを活用して、農・食・健康・環境などの社会課題を解決し、地域経済の活性化をめざす活動をしています。具体的には、日射量、温度、湿度、土壌水分、養分などの環境データや植物の生体データ等を活用した次世代スマート農業の提案や、 植物の病害虫を総合的に防除するベジタリア植物病院®の運営、さらに北海道から九州まで全国の自社・提携農場で研究・実証のほか農作物の栽培・加工・販売も行っています。
※「植物病院®」は一般社団法人植物医科学協会の登録商標です。

  • 農業に重要なデータの収集・解析にICTを活用し、効率化や生産性向上に貢献

福井:植物病院®とは、どういったものなのでしょうか。

小池:農業は「病気・⾍・雑草・天候との戦い」といわれており、世界の農業⽣産可能量の3分の1は病⾍害・雑草害による被害で喪失しているんです。これは全世界で年間約8億⼈分の⾷料にあたり、世界の飢餓⼈⼝に匹敵します。私も農業を始めた当初は、病虫害で作物が大きな被害を受けました。ですが、実は主要な病害虫発生のメカニズムが解明されていて、特に施設栽培では環境をコントロールすることにより病虫害はある程度防ぐことができますし、露地栽培であれば病害虫の発生を予察することにより被害を軽減することができるんです。そこで、東京⼤学植物病理学研究室などと提携し、病虫害の「予防的措置」「診断・判断」「最適な⽅法による防除」といったソリューションの研究・開発を行っているのが、植物病院®なんです。

  • 病虫害発生のメカニズムを応用し、防除対策を講じる植物病院®の取り組み

福井:8億⼈分もの農産物が失われているんですか…。病虫害発生のメカニズムがわかっているのであれば、その情報を活用しない手はないですね。世界中で活用されることで、食糧問題の解決策のひとつになりうるのではないでしょうか。食糧問題といえば、世界人口の増加とともに、気候変動による影響も指摘されていますね。

小池:そうですね。先日長崎を訪れた際、沖縄の県魚で奄美大島付近が北限であったグルクン(タカサゴ)が近年では長崎でも見られるようになったと聞きました。

福井:実は、私たちフジッコの根幹ともいえる食材の昆布も、収穫量が減ってきているんです。その原因のひとつは、やはり温暖化だといわれています。昆布は北海道など冷たい海で育つ海藻。それが海水温の上昇により、昆布の生育環境と合わなくなってきている。昆布は私たちの事業の柱のひとつですからね、これはもう大変なことです。そこで、2020年から北海道大学北方生物圏フィールド科学センター准教授の四ツ倉典滋先生と共同研究を始め、暖かい海でも育つ昆布の種苗作りをスタートしました。

  • (左)研究が行われている施設(北海道大学北方生物圏フィールド化学センター,(右上)培養中の昆布の種苗,(右下)顕微鏡拡大した昆布の種苗

小池:そうでしたか。種苗はどういった方法で作られていますか?

福井:交配を繰り返し、暖かい海でも育つ昆布の出現を待つという長期的な視点での技術開発です。時間のかかる方法ですが、昆布は食料ですので、安全を期して遺伝子組み換えなどは行っていません。また、昆布は二酸化炭素を杉の木の5倍も吸収するといわれています。二酸化炭素は水に溶けやすい性質を持ち、大気中から海中に二酸化炭素が移行しています。それを光合成によって吸収することで、温室効果ガスの削減に貢献するのです。種苗ができ上ったあかつきには、世界中に種苗を送って昆布を養殖し、世界各地の海に昆布の森を広げたいと考えています。

  • 昆布など温室効果ガスの削減に貢献する海洋生物はブルーカーボンと呼ばれる

小池:フジッコさんの取り組みが海からだとすれば、私たちベジタリアは陸から温室効果ガスの削減に取り組んでいます。水田の土壌には酸素が少ない条件でメタンを作るメタン生成菌という嫌気性の微生物が住んでおり、水田に水を張り酸素がなくなるとメタンが発生します。そこで、田んぼから一度水を抜いて田んぼを乾かす「中干し」の期間など、水田の水管理をプログラム化することによって、メタンの発生を約30%削減することができます。

福井:メタンは二酸化炭素よりも強い温室効果を持つといわれていますから、素晴らしい取り組みですね。海から陸から、温暖化を防ぐソリューションのひとつとしての農の有効性を再認識する時期が来ているのだと思います。

就業人口が減少しシュリンクする日本の農業・漁業

福井:先ほど気候変動による収穫量の減少の話題がありましたが、日本では農業従事者の高齢化や、後継者・新規参入者の不在といった労働力不足も収穫量減少の要因のひとつとなっていますね。小池さんは、農業従事者の増加や農作物の収穫量アップには、何が必要だと思われますか?

小池:農家の⼦どもたちは農業の⼤変さをよく知っているので、後を継ぎたがりません。また、新規就農者はきちんと農作物を作れる技術が身につき、稼げるようになるには時間がかかります。そのため、なかなか農業従事者の人口は増えませんね。ただ、やはりここでもデータの活用が可能です。新規就農者が持っていなくて、熟練の農家さんが持っているものに「経験」「勘」「匠の技」があります。これらは共有の難しいことといわれていますが、「経験」でうまくいっていることには科学的根拠があるはずですし、「勘」も計測器などを使えば数値化できることも多いんです。こうしてさまざまな農業データを「見える化」し、またセンサーなども活用して作物にとって理想的な環境を見逃さないことで、新規就農者であっても早い段階から稼げる農業を実現することが可能になります。ただし、私たちの研究では「匠の技」の中には、まだ解明できていないものが多いんですけどね。

福井:新規就農者であっても「経験」や「勘」を最初から手に入れて農業を始められるというのは、これまでの農業から考えると大きなアドバンテージですね。新規就農の安心感が増しますし、参入障壁はかなり低くなりそうです。

小池:収穫量アップについては、病害虫による栽培ロスの削減や気候変動などにも対応した栽培アルゴリズムの開発に加え、機械化や大規模化を推し進めるべきだと思いますね。

福井:実は、昆布の収穫もかなりの重労働なのですが、なかなか機械化が進まないんです。昆布漁では、海底に根を張っている昆布を、船の上から鉤棹と呼ばれる道具で引き上げるのですが、これが重い。漁師の高齢化が進むなか、それも収穫量減少の一因となっています。

  • 昆布漁の様子。昆布はこのように人力で海から引き上げられる

  • 獲った昆布は浜で干される。その工程も人力で行われる

小池:日本の農業や漁業には、昔から続く生産・流通構造があります。日本の人口がどんどん増加していた高度成長期には、その構造がうまく機能していましたが、人口が減少に転じ、食の多様化が進む現状には、合わなくなってきている部分もある。昔ながらの構造が農家の選択肢を狭め、機械化・大規模化がしにくくなっているんですよね。ここは越えていきたい課題ですね。

福井:農と食のICT化や、機械化・大規模化が急務ですね。農と食のDXによりテクノロジーを使って省力化できるものは省力化し、人は人にしかできない付加価値の高い、創造性の高い仕事に尽力する。そうしたパワーシフトが必要ですね。

食の安全と健康のためにできること

福井:小池さんが「健康」に興味を持たれて農業を始められたように、フジッコも健康創造企業をめざしており、「健康」は創業時からの大きなテーマです。現在は、フジッコの基盤ともいえる食材の昆布と豆を通して、人と地球の健康に貢献する活動「昆布と豆で世界を救う」を始めています。北海道大学との昆布の共同研究もその一環です。一方の豆は、生育による環境負荷が動物性たんぱく質よりも小さい優秀な食品。より多くの方々に召し上がっていただくため主食のように食べられる「ダイズライス」を開発したり、イソフラボンが2.7倍、ポリフェノールが1.4倍含まれている黒大豆の品種「フジクロ」を開発したりと、挑戦を続けています。黒豆といえば「丹波黒」が有名ですが、「フジクロ」は「丹波黒」を品種改良したもので、栽培に手間がかからず、収穫量も多く、ある程度機械化や大規模化に対応できるように草型(生育した後の植物の形)も改良しています。

  • 2021年3月の販売をスタートした高たんぱく質・低糖質の「ダイズライス」。歯ごたえのある食感が楽しめる、お米のような見た目の大豆食品である

「ダイズライス」に関して詳しくはこちら

  • ポリフェノールが1.4倍含まれている黒大豆の品種「フジクロ」を原料とした酢大豆「クロクロ」シリーズ

「クロクロ」に関して詳しくはこちら

小池:大豆や黒豆などのマメ科植物は、窒素固定をする点も魅力ですよね。窒素固定とは、マメ科植物の根っこにいる微生物の根粒菌が大気中の窒素をアンモニアに変換することで、窒素肥料として植物に循環的に利用され、化学肥料への依存度を軽減し、持続可能な栽培が可能になります。

福井:ええ。私たちも一般の方々に豆や昆布の魅力や、産地のこと、生産者さんのことなどをもっと知ってもらいたいと思い、親子で黒豆の作付け・収穫・調理を体験できる、基幹商品のひとつ「丹波黒黒豆」をテーマにした兵庫県丹波篠山市での食育体験イベントを開催したり、社屋のキッチンスタジオを使って料理教室やセミナーを実施したりしているんですよ。今は残念ながらコロナ禍で中止していますが…。フジッコでは神戸と東京にある2つのビルをFFセンターと呼んでいます。FFとは「Foods & Foods Future」の略で、食と食品の未来を作るという意味を込めて名付けました。

小池:今日お邪魔している神戸本社も、FFセンターのひとつなんですね。ぜひ早く、料理教室などを開催できる日常が戻ってきてほしいものですね。

  • 黒豆食育体験の様子

商品・生産者と消費者との接点を作り魅力ある食を届ける

小池:私たちベジタリアが最近注力している取り組みをご紹介すると、産地と加工工場を一体化したスマートフードファクトリーというものがあります。これは、産地全体を一つの食品工場に見立てる取り組みです。原料となる農作物は気候や土壌環境などの違いによって収穫時期にズレがでますから、収穫時期を迎えたものからその日に必要な量だけをジャスト・イン・タイムに収穫して、新鮮なうちに加工して出荷する。産地全体を一体としてみることでロスなく原料の農産物の安定供給と加工ができますし、有機栽培などを絡めれば高付加価値化も可能です。

福井:実は、私たちフジッコも同じような取り組みに参画しているんですよ。高齢化や過疎化に悩む離島や地方の食にスポットをあてる活動を実施する離島振興地方創生協会の正会員になっているんです。この協会は、食品メーカーや流通、小売など食に関わるさまざまな企業が集まってバリューチェーンを構築し、生産者が作った付加価値の高い商品を消費者に届けることで地方創生につなげる取り組みを行っています。先日私も長崎県の対馬へ講習会と視察に行き、肉厚のシイタケなど目を見張るような食材に出会いました。

小池:これまでは、生産者は生産だけ、加工業者は加工だけ、流通業者は流通だけを担ってきましたが、これを一体的に完結させる6次産業化の動きは、全国で起こっていますね。生産者がその作物をどういった思いで育てたか、どんな工夫をしているのか、加工の際にはどんな点に気を配っているのか、そういった一連のストーリーが、商品に付加価値を生み出し、ブランディングに貢献します。

福井:ええ、まだまだそこまでにはおよびませんが、私たちフジッコも生産者さんとのつながりを深め、生産者さんの思いが伝わるような物語性のあるものづくりをしていきたいですね。そして、生産者さんも消費者も幸せになる持続可能な農と食に貢献したいと思います。本日は貴重なお話をありがとうございました。

掲載元のフジッコ広報誌
Beans Lifeはこちら

フジッコ企業IRサイトTOPへ フジッコ公式サイトTOPへ

[PR]提供:フジッコ株式会社