最近の情勢も影響して、“菌”と言われると少し悪いもののような気がしてしまいますよね。しかし、私たち人間の体にとって菌は非常に重要。特に子どもに関しては、幼少期のうちに多様な菌を取り込むことが将来の健康に大きく関わってくると言われています。これが一体どういうことなのか、自身も子育て中という細川モモさんに、詳しく聞きました。〈文中敬称略〉

細川モモ
10代で両親が末期ガン患者になったことから予防医療に関心をもち、International Nutrition Supplement Adviserの資格を取得。日本の健康食品会社の開発部にスカウトされ、開発兼広報担当に就く。09年春に“知るべき知識と得るべき機会を普及することで大衆の健康を守る” Public Health を日本に普及させることを目的とし、医療・健康・食の専門家によるプロフェッショナルチーム「Luvtelli Tokyo&NewYork」を日本とNYに発足。痩せ女性を減らすことで不妊症や低出生体重児を予防し、1人でも多く健やかな赤ちゃんが生まれることを活動目的とし、企業や大学との共同研究等、幅広い活動を展開中。--公式サイトより

ビフィズス菌をはじめとした"菌"が、健康の基盤になる

――早速ですが、“多様な菌が子どもの成長に大切”とはどういうことですか?

驚くべき事実ですが、成人の場合、体重の1~1.5kgは腸内細菌の重みであることがわかっています。この腸内細菌には、人の体では作り出せないビタミンの生成や免疫を調整する役割があります。私たちはこうした腸内細菌なしには健康に生きていけないのです。

さらに近年の研究により、腸内細菌がアレルギー症状の発症、肥満、うつ病などに深く関わっていることが分かってきています。

そのため “多様性のある腸内環境をつくる”ことは非常に重要。そのなかでも、3歳までの生活や食事は、生涯の腸内環境の土台を形成する大事なものです。

  • 腸内細菌が多く棲む場所=大腸。大腸の不調は全身のトラブルに繋がる可能性があるため、赤ちゃんのうちから意識して良好に保ち続けることで、将来の健康リスクを軽減できると言われている

赤ちゃんにとって3歳までが菌活の「ゴールデンエイジ」

――3歳までの生活や食事が腸内環境の良し悪しを左右するということですか?

はい。正確には分娩方法、つまり生まれる前にまでさかのぼります。私は3歳までの期間を腸内細菌叢を育むための重要な期間、つまり「菌活のゴールデンエイジ」と呼んでいます。

赤ちゃんは、出産時に産道を通ることでお母さんの菌を取り込みます。そして産まれてからは、さまざまな物や人に触れたり空気中の菌を吸ったり砂遊びで遊んだりすることで自然界に存在する菌を体内に取り込んでいきます。こういった色々な菌を腸内フローラに取り込んで、多様性のある腸内環境をつくっていきます。最新の研究により、腸内細菌の偏りが肥満や糖尿病、うつ病など、さまざまな病気に関連していることが報告されており、偏りのない腸内環境=多様性のある腸内環境が健康の必須条件といわれるようになりました。

生後4~5日目には、赤ちゃんの腸内細菌の約90%がビフィズス菌になり、感染症を予防する役目を果たしています。ビフィズス菌は、さらにアレルギーや肥満などの予防にも働きます。つまり、ビフィズス菌を筆頭とした善玉菌が働きやすい腸内環境を作ることが、健康の維持には欠かせないとも言えますね。

  • 生まれたばかりの赤ちゃんの頃にピークを迎えたビフィズス菌の量は、年齢とともに減少する

――すごいですね。腸内細菌が赤ちゃんの頃から健康に重要な役割を果たしているのですね。では、「菌活のゴールデンエイジ」には具体的にどのようなことを心がけて過ごせばよいのでしょうか。

菌活には、2つのポイントがあります。

1つ目は前述の通り、様々な場所で多様な菌に触れること。そのなかには、人や動物との交流が挙げられます。興味深いことに、チンパンジーの群れを対象に行われた研究では、血縁関係にないはずの群れの腸内環境が驚くほど類似していたそうです。これは、グルーミングなどの触れ合いや排泄物に触れる機会により、親だけではなく群れのメンバーから菌が共有されたことを意味しています(※1)。人間の赤ちゃんも、生まれてすぐは体内の菌がお母さんに類似していますが、やがて父親からも影響を受けることがわかっています。つまり、私たちは集団で菌を共有しているんですね。ですので、交流は菌の多様性においても価値のあることと言えます。

そして2つ目は、発酵食品などで人に良い影響をおよぼす菌を口から取り入れ、腸内環境を良好に保つこと。これを「プロバイオティクス」といいます。

――「プロバイオティクス」は最近よく聞きますが、よく分からなくて……。詳しく教えていただけますか?

簡単に言うと「人の健康に良い影響をもたらす菌(善玉菌)および、それらを含む食品」のことです。ヨーグルト、味噌、醤油、チーズ、鰹節、ぬか漬けなどの発酵食品をプロバイオティクスといいます。 さらに最近は、オリゴ糖や食物繊維など、善玉菌のエサとなって、その働きを助ける食品を食べる「プレバイオディクス」も一緒に行うことが大事といわれています。

――なるほど! 体に良い働きをする「菌とエサ」が大切なんですね。では食物繊維たっぷりの野菜の味噌汁とか、オリゴ糖入りのヨーグルトを食べるというのは理にかなっているのですね。

そうなんです。私自身も0歳の娘の子育て中ですので、娘の生涯の健康を叶えるために多様性を意識して菌活をしています。これには、食物アレルギーや花粉症など、昨今増えているアレルギー予防のためでもあります。乳児の場合、生まれてすぐは善玉菌であるビフィズス菌が90%の腸内環境なので、とくに菌活は必要ないと思っている親御さんも多いと思います。でも、そんなことはないのです。

――というと?

実は、分娩方法や出産前後で抗菌薬を服用したかによっても赤ちゃんの腸内環境は変わってくるため、人によっては必ずしもビフィズス菌が優位というわけではないのです。例えば、帝王切開の場合は産道を通らないため、産道にいる菌を受け取りません。自然分娩であっても、抗菌剤を前後に使用した場合には赤ちゃんの腸内にあるビフィズス菌の割合が下がると報告されています(※2)。また、早産の場合も、腸内細菌の多様性が低いことが分かっています (※3)。さらに生まれた後も、母乳育児か混合、ミルクかによって赤ちゃんの腸内細菌は変化します。つまり、みんな一緒ではないんです

腸内環境は、一人ひとり異なる

――では、どのようなケアが望ましいのでしょうか?

「プロバイオティクス=良い菌を取り入れて善玉菌が働きやすい環境を整える」いう行動指標はみんな同じです。私自身も出産前後で抗菌薬を使用しましたので、娘の腸内環境には人一倍ケアしようと意識して子育てをしています。具体的には、娘に影響する自分自身の腸内環境を良好に保つよう心がけたり、離乳食では発酵食品(鰹節や納豆、ヨーグルトなど)や、ビフィズス菌など腸内の善玉菌のエサとなる糖質の多いいも類を使うことなどを意識しています。

また、たんぱく質を食べ始めるとウンチが臭うようになります。これは必要な成長過程ですが、悪玉菌が増え、便秘になりやすくなるのです。そのため排便回数をチェックして、少ないと感じたら赤ちゃんに良いプロバイオティクスの粉末などを食事に混ぜます。

予防医療の研究が盛んなアメリカの場合、赤ちゃん用のプロバイオティクスアイテムはよく見かけますが、日本では最近ようやく見かけるようになってきました。ビフィズス菌のエサになるオリゴ糖が複数配合されている粉ミルクなども発売され、少しずつ赤ちゃんのプロバイオティクスやプレバイオティクスに関心が集まってきているように感じます。

――確かにそうですね。最近はビフィズス菌入りのフォローアップミルクも見かけるようになりました。

日本の一般的病院では、帝王切開が4人に1人、低出生体重児が10人に1人と少なくありません。私自身も高齢出産ですが、母体の高齢化を考えても、赤ちゃんのプロバイオティクス環境を整えることは将来の健康のために重要だと思います。

――スタートが異なっていても、腸内環境はあとから取り戻せるということでしょうか。

帝王切開で誕生しても、善玉菌優位な腸内環境の形成は遅れますが、やがて差がなくなるという報告もあります。注意してほしいのは、良い菌が腸内に定着しやすい時期は3歳まで。そこが「ゴールデンエイジ」なので、その期間に「菌活」をしましょう。インフルエンザに強い菌や女性ホルモンに似た物質をつくってくれる菌、肥満を抑制してくれる菌など多様な菌が存在しています。わが子にぜひ獲得してほしい菌ばかりですよね。大人になってからこれらを摂取しても、定着する可能性は低いのです。

子どもの腸内環境づくりをきっかけに、家族みんなで積極的に「菌活」

――脳や運動に「ゴールデンエイジ」があるとはよく聞きますが、大腸にもあるとは、初めて知りました。

日本人は昔から多様な発酵食品を食べています。つまり、ビフィズス菌を筆頭にした善玉菌を取り込みやすい食文化を築いてきた国ともいえます。

一方で、戦後の食生活の変化や世界トップクラスの睡眠不足、核家族化などにより、腸内環境が乱れがちに。腸内細菌の偏りが要因とされるアレルギーや自己免疫疾患などが増えています。だからこそ、子どもの腸内環境づくりをきっかけに、家族みんなで積極的に「菌活」をしていけたらいいですね。“超健康体な1,000人”を調べた研究では、90歳を過ぎても超健康な人は腸内環境が30歳の時とそれほど変わらないという驚きの報告もあるくらいですから(※4)。

腸が弱くて何かあるとすぐお腹をこわしてしまい、勉強やスポーツなどの大切な場面でお腹の調子が悪くなって十分なパフォーマンスを発揮できなかった、という話もよく聞きます。自分の目指す進路を、そのためにあきらめざるを得なかったということもあるんです。娘たちには夢を叶える過程でベストパフォーマンスが発揮できるよう、「タフネスな腸」を持ってほしいと思い、0歳から日々「菌活」に励んでいますよ!

――ありがとうございます! 今日からさっそく「菌活」してみようと思います。


赤ちゃんの頃から意識したい腸内環境。離乳食を始めたばかりの頃はまだ、たくさんの食品を食べられません。子どもにあわせて少しずつ、口からビフィズス菌などのよい菌を取り込む「プロバイオティクス」を続けていきたいですね。発酵食品はもちろん、ビフィズス菌入りのフォローアップミルクなどもあるので、上手に活用して菌活してみませんか。

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▼参考文献


(※1):「Social behavior shapes the chimpanzee pan-microbiome」Science Advances 15 Jan 2016: Vol. 2, no. 1, e1500997 DOI: 10.1126/sciadv.1500997
(※2):Maternal antimicrobial use at delivery has a stronger impact than mode of delivery on bifidobacterial colonization in infants: a pilot studyNaruaki Imoto(1), Hiroto Morita(2), Fumitaka Amanuma(3), Hidekazu Maruyama(3),Shin Watanabe(1), Naoyuki Hashiguchi(1) DOI:10.1038/s41372-018-0172-1
(※3):日本農芸化学会 「化学と生物」 Vol. 56, No. 4, 2018
(※4):The Gut Microbiota of Healthy Aged Chinese Is Similar to That of the Healthy Young DOI: 10.1128/mSphere.00327-17

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