放送終了から数日が過ぎた今も『キングオブコント2024』(TBS)の話題をネット上で見かける。放送前は「松本人志の不在」がフィーチャーされがちだったが、放送中はそれほど話題にあがることはなかった。それだけで「一定の成功を収めた」と言っていいのかもしれない。

代わりにネット上をさわがせたのは、「ファースト、ファイナルともに1点差続きの接戦だったこと」と「ニッポンの社長の得点発表後に辻皓平が発した「審査員の好み」というコメント。特に後者はX(Twitter)のトレンド入りを果たしたほか、他の芸人たちも次々に言及し、複数のネットメディアがその是非を記事化している。

ただ、本当に今回の大会は「審査員の好み」が問題だったのか。さらに「1点差の接戦」にふさわしいハイレベルだったのか。また、松本人志の不在は影響がなかったのか。ひいては、年末の『M-1グランプリ』(ABCテレビ・テレビ朝日系)にどんな影響を与えそうなのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。

  • 『キングオブコント2024』で優勝したラブレターズ(左から塚本直毅、溜口佑太朗)

    『キングオブコント2024』で優勝したラブレターズ(左から塚本直毅、溜口佑太朗)

「3組が1000点満点で2点差」の意味

番組をリアルタイムで見ながら、同時にXとネット記事の動きにも目を向けていたが、3組目まで終えたところで「面白いけどこれは荒れるな」と感じた。また、その胸騒ぎのような感覚は放送が進むとともに加速。「審査員の好み」に加えて「審査員と合わない」「面白かったけどな」などのフレーズがトレンド上位にランクインしていった。

13本のコント自体は一定以上の面白さがあった。しかし一方で、そんな流れを生んだのは、審査員の「甘さ」「優しさ」にある気がしてならない。

「甘さ」「優しさ」の意味は、“点数のつけ方”と“審査員としての矜持・プライド”の2つ。まず“点数のつけ方”に対する課題は歴然としていた。

ファーストステージの順位と点数は、

1位:ファイヤーサンダー(476点)
2位:ロングコートダディ、ラブレターズ(475点)
4位:や団(474点)
5位:シティホテル3号室(471点)
6位:ダンビラムーチョ(469点)
7位:ニッポンの社長、cacao(468点)
9位:コットン(461点)
10位:隣人(458点)

1~4位が2点差、1~7位タイ(計8組)が8点差で、審査員5人×100点=500点満点であることを踏まえると、いかに僅差だったかがうかがえる。

続いてファイナルステージの順位と点数は、

1位:ラブレターズ(472点=計947点)
2位:ロングコートダディ(471点=計946点)
3位:ファイヤーサンダー(469点=計945点)

1,000点満点の戦いであるにもかかわらず、1~3位が2点差以内だった。

エンディングでMCの浜田雅功が「すごいな。1点差。これなかったよね。素晴らしい」と称賛していたが、「来年もこのままでいいのか」は別問題だろう。ネット上の戸惑いや疑問を見る限り、本当に称賛だけでいいとは思えなかった。

ここまで点差をつけない審査なら「なぜ100点満点なのか(10点満点でいいかもしれない)」「ファースト、ファイナル合算で計1,000点をめぐる戦いの意味はあるのか」。その理由は視聴者に提示されていない。

採点への「甘さ」と「優しさ」

審査員個人に目を向けると、ファーストステージではシソンヌ・じろうは1位96点(ロングコートダディ、や団)と最下位91点(コットン)の点差が“5点”。かまいたち・山内健司は1位95点(ロングコートダディ、ファイヤーサンダー、ラブレターズ)と最下位91点(コットン、cacao、隣人)の点差が“4点”しかない。

同様にロバート・秋山竜次も1位96点(や団)と最下位92点(隣人)の“4点”、バイきんぐ・小峠英二も1位96点(や団、ニッポンの社長、ラブレターズ)と最下位92点(隣人)の“4点”。「違いを見せた」「差をつけた」と言われている東京03・飯塚悟志も1位98点(ファイヤーサンダー)と最下位91点(隣人)の“7点”であり、10組の出場組数を下回っている。

さらにファイナルも含めて計13本のコントで80点台はおろか90点もいなかった。ちなみに全審査(65回)の採点分布は、95点:15回、94点:14回、93点:12回、96点:9回、92点:8回、91点:5回、97点:1回、98点:1回。93~95点のわずかな点数幅で約63%を占めていた。

「お笑い」というジャンルのみならず審査員の仕事は「出場者の点差をつけて順位を決めること」だとしたら、今回のような幅の狭い採点は「アリ」だとしても、視聴者にその基準は伝わりづらい。『M-1グランプリ』よりも出場者の明暗が鮮明にならず、「『キングオブコント』の王者は輝きづらく、敗者もおいしくなりづらい」と言われるのは、このような採点に対する「甘さ」「優しさ」にあるのかもしれない。