さらに、各局の「自信作」「失敗できない力作」ほどスタート時期は早くなりがちで、逆に遅いスタートのヒット作は生まれづらくなっている。「遅いスタートによって存在感が薄れてしまう」という事態だけは避けたいのだろう。

例えば、フジテレビの看板ドラマ枠“月9”は、昨夏の『真夏のシンデレラ』が7月10日、2022年の『競争の番人』が7月11日。さらに東京オリンピックがあった21年の『ナイト・ドクター』は6月21日という早期スタートだった。それ以前も19年の『監察医 朝顔』が7月8日、18年の『絶対零度~未然犯罪潜入捜査~』が7月9日と早く、夏の早期スタートを定番化させたと言ってよさそうだ。

ちなみに、フジテレビの今夏ドラマにおける早期スタート戦略は、今週の『ぽかぽか』「ぽいぽいトーク」のゲストを見ると分かりやすい。1日に『海のはじまり』の目黒蓮が登場し、3日に『新宿野戦病院』の小池栄子と仲野太賀、4日に『ギークス~警察署の変人たち~』の松岡茉優、田中みな実、滝沢カレン、5日に『ビリオン×スクール』の山田涼介、志田未来が生出演する。つまり、フジ制作のドラマが放送されない火曜以外はすべてドラマ出演者がキャスティングされていて、早期スタートが局の明確な戦略ということが分かるだろう。

フジにとって今週は「夏ドラマのスタートウィーク」として印象付けることができ、それに向けての番宣特番を逆算し、情報番組へのキャラバンも仕掛けやすい。『海のはじまり』は1日ではなく1週間後の8日スタートもできたはずだが、それをせずに「フジ夏ドラマの先陣を切る」という形が選ばれた。これは同作が人気絶頂の目黒蓮が主演を務めるほか、『silent』『いちばんすきな花』を手がけたスタッフによる自信作だからだろう。

近年はネット上の印象によってドラマの好不調が連鎖されやすいだけに、『海のはじまり』にはフジ夏ドラマ全体をけん引することが期待されている。

  • こちらも早期スタートだった昨夏の月9『真夏のシンデレラ』

「下旬スタート」話題性は苦しい

その他、早期スタートの背景としては、「コロナ禍以降キャスティングが早くなり、早く作りやすくなった。または、多忙なキャストの都合で早く作らなければいけない」「主演俳優と事務所の格などを踏まえて有利な早めに放送しておきたい」「他局による“新ドラマ”つぶしの裏番組を避けたい」などもある。

最後に7月中旬以降に第1話が放送されるゴールデン・プライム帯の主要作を挙げておきたい。

中旬のスタートは、13日の『GO HOME~警視庁身元不明人相談室~』(日テレ)、『マル秘の密子さん』(日テレ)、16日の『南くんが恋人!?』(テレ朝)、19日の『しょせん他人事ですから~とある弁護士の本音の仕事~』(テレ東)の4作。下旬以降のスタートは、25日の『スカイキャッスル』(テレ朝)、8月18日の『素晴らしき哉、先生!』(テレ朝/ABCテレビ制作)の2作。

中旬のスタートは「始まってすぐにパリオリンピックの影響を受ける」、下旬以降のスタートは「他作が中盤から終盤に差し掛かる中、存在感が薄く話題性の点で大きく劣る」という苦戦が予想される。もちろん、それをどうはね返していくのか。スタッフとキャストの力が問われることになりそうだ。