24日、ドラマ『古畑任三郎』の再放送がフジテレビでスタートし、いきなり第1シリーズ第1話・第2話の犯人役に中森明菜と堺正章が登場してネット上が沸いた。

今回の「『古畑任三郎』30周年一挙見」は、1994年4月13日の第1シリーズ開始から30周年を記念したものであり、平日午後の『ハッピーアワー』(毎週月~金曜 第一部:13:50~、第二部:14:48~ ※関東ローカル)で連日放送されている。

それにしても、連続ドラマ3シリーズに加えてスペシャルドラマ4作の再放送は異例であり、さらに放送後1週間でTVerとFODで無料配信。放送開始から、すでに30年が過ぎたドラマであることを踏まえると前代未聞と言っていいかもしれない。

なぜ多くの名作がある中、『古畑任三郎』はこれほど人々から求められているのか。また、各局のドラマ班にどんな影響を与えてきたのか。テレビ解説者の木村隆志が掘り下げていく。

古畑任三郎を演じた田村正和さん

古畑任三郎を演じた田村正和さん

刑事物のアクションと群像劇を排除

『古畑任三郎』は主人公の警部補・古畑任三郎(田村正和)が、完全犯罪をもくろむ犯人たちの難解なトリックを卓越した推理力で解く刑事ドラマ。アリバイを崩し、トリックを見破る古畑の推理、犯人を追い詰めていく巧みな話術、田村さん演じる古畑のユーモアあふれるキャラクターは、唯一無二のオリジナリティがあり、シリーズを重ねながら国民的ドラマとなっていった感がある。

そして国民的ドラマになったポイントとして挙げなければいけないのは、最初に犯人による犯行シーンを見せてから、刑事が犯人を逮捕するまでを描く倒叙ミステリーであること。ミステリーの醍醐味である“犯人当て”を放棄する一方で、刑事と犯人の緊張感あふれる心理戦を楽しめる構成が幅広い世代から受け入れられた。

もともと日本の刑事ドラマは、銃撃戦などのアクションや刑事たちの熱い群像劇という“動”のイメージに偏りがちだっただけに、1対1の会話で容疑を固め、自供させる“静”の主人公・古畑のインパクトは大。さらに、犯人役は知的な成功者が多く、地位や名誉を守ろうとして罪を犯す人間の愚かさを描くとともに、無能に見える警部補が完全犯罪計画を暴き、破滅に追いやる痛快さも人気のポイントだった。

ただ、これらのポイントはアメリカのドラマシリーズ『刑事コロンボ』を踏襲したものであり、それは何度か制作サイドから語れている。つまり、「『刑事コロンボ』をリスペクトして作った日本版」と言うべきポジションの作品であり、ジャンルとしての魅力は折り紙付きだった。

しかし、1対1の知的な心理戦、わずかなほころびを見つけてたたみかける推理、トリックの面白さ、追い詰められた犯人の焦りなど感情の変化、主人公の愛すべきキャラクターなどを描く脚本家の高い技術が必要なジャンルであり、その意味で三谷幸喜の功績は大きい。